本トピックスは(244)再開発業者の「死んだふり」にはご注意あれ!の続編です。
再開発事業(第一種市街地再開発事業)は地権者の「合意形成」が前提条件ですが「同意」がどうしても集まらない場合、一部の再開発業者は、
水面下で裏工作を行う
ことが知られていますので地権者は注意が必要です。
本トピックスでは代表的な手口の一つとして
土地の細切れ分筆
について取り上げ、事例と共に解説して参ります。
1.土地の細切れ分筆とは?
2.似た手口に「借地権の水増し」もある
3.問題点と対策
4.とっておきの秘策?
5.まとめ
土地の細切れ分筆とは?
土地の細切れ分筆とは業者側が所有する一筆の土地を、まるで「肉や羊羹を切る」如く何筆もの土地へと分割(=分筆)することで地権者数(=同意者数)を増やし、同意率を人為的に高めようとする手口です。
たとえ「分筆」行為自体は合法であっても、営利目的で再開発を推進しようとする業者が「都市計画決定」や「本組合設立」の直前に行う分筆が地元の民意を歪める結果を招くことは明白であり、企業倫理面からも問題とされるべきです。まさかとお思いでしょうが、一部の再開発業者は実際にこの手口を使いますので要注意です!
【虎ノ門一丁目東地区で起きた細切れ分筆】
最近では「虎ノ門一丁目東地区再開発」(参加組合員:中央日本土地建物、住友不動産、他)で、「都市計画決定」に際し再開発業者側がこま切れ分筆を行ったことが表面化し、区の都計審(都市計画審議会)でも問題となり異例の「付帯意見」まで付される事態が起きています。
港区は都市計画決定の実行に際し、概ね80%の地権者同意を取得することを業者へ指導していますが、虎ノ門一丁目地区での地権者同意率は約75%で頭打ちの状態が続いていました。
そこで再開発業者側は関係先が所有する1筆の土地を5筆へ分筆。
同意者を人為的に増やす手口で要件をクリアさせたのです。分筆した土地の中には僅か5坪前後と言う、常識では考え難い狭小の土地までありました。
虎ノ門一丁目東地区は有名な「虎ノ門ヒルズ」に隣接した都心でも有数のビジネス街です。
業者側は「土地の形状に問題があるから分筆した」と区へ説明したようですが、5坪では住宅すら建てることが出来ません。5坪の狭小地でいったい所有者は何をしたかったのでしょうか?そのように考えると、このタイミングでの細切れ分筆は極めて不自然であり地元の意向を無視した再開発目的の行為であったことは明らかです。
(関連記事については、(109) 虎ノ門でも同意者数の「水増し」が!をご覧ください)
また、この問題に関し都計審では区議らが港区を追及していますが、その模様は「第245回港区都市計画審議会議事録(令和3年2月4日付)」に記録されていますので、ご興味のある方はこちらも併せてご覧ください。
(Googleの検索エンジンで探すことが出来ます)
似た手口に「借地権の水増し」もある!
一方、土地の細切れ分筆と似た手口に借地権の水増しがあります。
都市再開発法第14条は本組合設立にあたり「地権者及び借地権者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない」と定めていることから、借地権者も土地所有者の場合と同様に「同意者を増やすこと」が業者にとり至上命令となります。
再開発を目指す業者が区域内で行う借地権の水増しは、土地の細切れ分筆と同様に同意率が人為的に歪められてしまうところに問題があります。
先ずは下の画像をご覧ください。
この画像は東京都中野区内の、ある再開発現場で撮影された画像です。
左隅の小屋は、某大手再開発業者が時間貸駐車場内に設定した借地権だとされています。これで立派な「借地権者1人」の出来上がりです。この手法なら同じ敷地内に借地権をいくらでも増やすことが可能になります。このような小細工で借地権者を安易に増やされたのでは地元地権者たちはたまったものではありません。
一方、大規模、且つ大胆に行われた借地権の水増しとしては、2012年に日本橋高島屋再開発の舞台裏で地権者たちの奇をてらい「借地権者が大幅に水増し」された事件が有名です。
再開発組合の設立に必要な「借地権者の三分の二の同意」の要件が地元住民の反対でどうしても達成できないため、再開発業社側は関係先の合資会社30社を動員し、組合設立認可申請直前に30もの借地権を設定。その結果、「借地権者三分の二の同意」が達成されたとして強引に組合設立認可申請へと踏み切ったのです。
これを不当行為と見た地権者たちは、後日東京地裁へ「組合設立認可取消訴訟」を提起しましたが、被告側は一貫して「手続きは合法的に行われた」との主張に終始。しかし次第にマスコミもこの事件を取り上げるようになったことから、最終的には和解金が原告側へ支払われる形で幕引きとなったようです。(尚、この事件は、「週刊東洋経済2019年6月29日号」が詳しく報じていますので、ご興味のある方はバックナンバーにてご覧ください)
問題点と対策
通常の「分筆」行為であれば、その手続きも含め正当な経済行為とみなされることから、分筆を行った側はたとえ問題指摘を受けても「再開発とは無関係」であること、更には「分筆手続き自体は合法的に行われた」ことを強調するので厄介です。
また過去の事例を見る限り、行政も業者側の主張をサポートする傾向が強いので要注意です。
不当な分筆行為を防ぐ妙案は思い浮かびませんが、やはり地権者同士で日頃から情報共有を行い、怪しげな土地があれば定期的に土地登記簿謄本を取りつける等、監視体制を続けることが重要だと考えます。もし細切れ分筆が見つかれば、可及的速やかにその実態を調査し、不当な分筆であれば地権者が一致団結して公の場でこれを容認しない姿勢を貫くことが大切ではないでしょうか?(注1)
とっておきの秘策?
決して望ましいことではありませんが、「細切れ分筆が合法」であるのなら、理屈の上では地権者側も同様の手段に訴えることが出来ることになります。
「目には目を、歯には歯を」と言う対抗策です。港区の場合は「都市計画決定」の判断基準を「概ね80%の地権者同意」としていますから、仮に1人の地権者が自己の土地を「5分筆」すれば(注:相続などでは実際にあり得る正当なケースです!)、再開発業者がこれに対抗するには新たに「20分筆」が必要となる計算です。
地権者総数が僅か数十名の再開発現場で業者側が20も30も土地所有者を増やせば、当然不自然さが目立ちメディアも関心を示すこととなり、結果として社会の注目を集めることになるので大手業者にとっては自社の「企業イメージの低下」を招く結果となり兼ねません。
当HPはこのような敵対的な「分筆」を推奨はしませんが、狡猾な業者に対する最後の対抗手段として考えておくことは有意義かも知れません。
まとめ
今回は再開発業者が水面下で行う裏工作の内、「土地の細切れ分筆」及び「借地権の水増し」について取り上げました。
再開発を進める目的で業者が人為的に「同意者」を増やそうとする行為は、業者がいかなる弁解をしようと地元地権者が主体となる再開発事業の理念を根本から踏みにじる行為ですので地権者側は決してこれを容認すべきではありません。
再開発業者に「裏工作」を行わせないためには、日頃から地権者間で情報交換を行い、地元の土地取引や噂話には神経をとがらせておくことが何よりも肝要です。
「何かが不自然だ」と感じたら是非とも法務局へ出向き、土地の登記簿謄本を取得されることを推奨します。
(1件600円で誰でも取得することができます。また、料金は異なりますがインターネット経由での謄本取得も可能です。)
登記簿謄本は嘘をつきません!
登記簿謄本を見れば過去から現在に至るまでの土地登記の状況が確認できます。
「分筆」以外にも多くの情報を得ることが出来ますので、疑惑の土地があれば定期的に登記簿を取り付けてみては如何でしょうか?