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(172)傀儡型「準備組合」:役員たちの責任は?

投稿日:2023年3月3日


本トピックスは(171) 傀儡型「準備組合」を見分ける法からの続きです。
前トピックスでは上記イラストで表示した通り、

① 素人+②丸投げ+③借金漬け=傀儡準備組合

の方程式が成り立つことを報じました。
本トピックスでは今度はそのような傀儡(かいらい)型の準備組合における役員たちの責務並びに訴訟リスクについて論じます。

準備組合役員たちの責任は重い?

そもそも準備組合は「地権者主体」で設立・運営されることが大前提です。万が一にも再開発事業者が主導することがあってはなりません。
その意味で理事長をはじめ準備組合の役員たちには、地権者としての主体性を持った上で組織を適切に運営して行く責任が課せられています。
いくら「準備組合は任意団体にすぎない」、「自分たちは素人だから」と弁解したところで、準備組合役員としての職務を怠り、結果として地権者(=組合員)の資産を棄損させるような事態となれば、役員たちには地権者から損害賠償請求を受けるリスクが生じるので注意が必要です。
ましてや、役員としての善管注意義務違反にとどまらず、懈怠(けたい)、更には背任行為の存在が認定されれば、訴訟を通じて役員たちには重い損害賠償責任が課せられ、結果として自らの個人資産まで失うリスクまで生じます。とりわけ、背任行為は刑法にも抵触し、懲役刑を含む重い刑罰が科せられるので注意が必要です。(注)
従い、準備組合役員たちは、たとえ素人であっても地権者とは利害の異なる再開発業者へ安易に業務を「丸投げ」する等の行為は許されないのです。

(注)
善管注意義務:
正式には「善良な管理者の注意義務」と言い、事務などを管理する際、
その地位にある者として普通に要求される程度の注意のことを言います。準備組合でも、理事、理事長にはそれ相応の管理責任があります。
懈怠(けたい/かいたい):
法律や規則に基づき実施すべき各種義務を怠ることを言います。準備組合に於いては、例えば役員の「職務怠慢」、「業者任せ」、「不作為」と言った行為がこれに該当します。
背任:
準備組合における背任行為とは、構成員である地権者のために財産上の事務処理を任された役員が、その任務に反し自己若しくは再開発事業者の利益のために行動し、結果として地権者に財産上の損害を与える行為のことを言います。因みに、背任は刑法第247条において「五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が定められている犯罪行為です。

「知らなかった」ではすまされない役員たちのリスク!

準備組合は法務局へ登記されていない、いわゆる法人格のない任意団体にすぎません。しかし、そこに「組合内規」(定款)が存在し、「役員」も任命され、且つ「総会」も開かれていると言った実体がある場合には、登記された法人と同等に扱われます。その場合、たとえ任意団体であっても、外部の第三者と締結した契約には順守義務が生じますし、第三者に損害を与えた場合には組合員全員で賠償しなければなりません。(民法第667~688条、他)
また、準備組合の役員に内規違反や、善良な管理者としての注意義務の懈怠(例えば、地権者の利益と相反する内容の契約への調印、不適切な資金計画や管理、等)があり、その結果、地権者が損害を被った場合には、役員たちに高額の賠償責任義務が発生する懸念もあります。
このことは、裁判でも確認されていますので役員たちは要注意です。

2019年に東京都葛飾区の「立石駅南口東地区」の再開発事業で準備組合が訴えられ敗訴した裁判の判決文では、「理事が職務の懈怠を理由として法的責任を追及される場合には、相当高額な賠償責任を負う危険性がある」と明記されました。理事(=役員)には相当高額な賠償責任を負う危険性があるとされた以上、もはや「知らなかった」、「業者に任せていた」、「業者の言われるまま借金を重ねていた」ではすまされない現実がそこにあります。
昨今、地権者が準備組合を相手取り訴訟を提起する事例が増えています。準備組合の役員たちは、地権者から損害賠償請求を受け、自らの個人資産をリスクにさらさないためにも、与えられた職務を地権者としての主体性をもって遂行する必要があるのではないでしょうか?

準備組合が訴えられた立石の裁判とは?

この裁判は、準備組合が再開発業者の傀儡であることが明らかになった点で画期的なものでしたが、同時に準備組合理事たちに「職務怠慢」、「業者任せ」、「不作為」と言った懈怠が認められる場合には相当高額な賠償責任を負う危険性があると判決文に明記された点でも画期的でした。
この裁判は2019年に、準備組合が再開発事業者(大手ゼネコン)の操り人形と化していることに疑念を抱いた某理事が、情報公開を求めて自らが所属する準備組合を東京地裁へ訴えた裁判です。
(結果は原告勝訴となり、被告の準備組合は敗訴)
裁判の過程で、「事業協力者」を名乗り準備組合事務所へ常駐していたゼネコン社員が「同意書を改ざん」していた事実が発覚する等、複数の不正が暴かれたと言う意味で、まさに傀儡型準備組合の存在、及びその弊害を社会へ知らしめた事案だと言えますが、判決文では準備組合理事(=役員)の賠償責任についても明記されましたので、その部分を以下に記します。

【判決文(原文)】
「被告の予算規模や借入金の額が高額であるにも関わらず、証拠上、その担保とされる資産がうかがわれないから、被告の理事が職務の懈怠を理由として法的責任を追及される場合には、相当高額な賠償責任を負う危険性がある。(中略) これを鑑みると被告の理事については、謄写はともかく、被告が所持する文書について、閲覧についての制限は課されないものと言うべきである

【判決文をわかりやすく解説すると…】
準備組合は資産の裏付けがないにもかかわらず、再開発と言う「膨大な資金を要する事業」に関与している。そのような組織の理事職にある者が、「職務怠慢」、「業者任せ」、「不作為」と言った事由(=懈怠)で地権者から訴えられた場合には、個人として相当高額な賠償責任を負う危険性がある。だからこそ準備組合のすべての情報は理事たちに対して開示されるべきである。

尚、この問題の詳細に就いては下記トピックスをご参照下さい。
(54)理事が準備組合を訴えた!(その1)
(59)理事が準備組合を訴えた!(その2)
(62)理事が準備組合を訴えた!(その3)

まとめ

「地権者が主体」となり設立・運営されるべき準備組合を、万が一にも再開発事業者が実質主導するなど決してあってはならないことです。
準備組合の役員たちには「地権者が主体」と言う本来の理念に基づき組織運営を行う責務があります。もしこれを怠れば、役員たちは個人として相当高額な賠償責任を負う危険性があることが裁判でも確認されました。また役員が自らの任務に反して再開発業者を利する行為(=地権者に損害を与える行為)を行った場合には背任行為として刑法に抵触する恐れもでてきますので注意が必要です。
昨今、知識と知見を身につけた地権者が準備組合側を相手取り訴訟を提起する事例も増えていますので、役員たちも安堵してはいられません。
また各地の準備組合の一般組合員の皆さまも、自らが所属する「準備組合」の役員たちに懈怠や背任行為がないか、一度調べられてはいかがでしょうか?

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