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(254)「増床制限」:業者の理屈もいろいろ!

投稿日:2025年5月19日

保留床単価が激安なら地権者だってその単価で床を買い増したいと考えます。しかしそうはさせないのが再開発業者が仕掛ける「増床制限」です。
安易に増床を認めれば、その分だけ保留床面積が減ってしまうからです。
前トピックス(253)三菱地所の次の一手は「増床制限」か? では三菱地所が開発利益(=保留床)の独占を図るため、何れ地権者に対して「増床制限」を課してくるだろうと予告しました。
ただ、前トピックスで取り上げた芝三丁目西地区はまだ都市計画決定前の準備組合段階にあるため「増床制限」はこれからの問題となります。
一方で、他地区に目を向けると既に多くの再開発業者が様々な理屈のもとで地権者に対し増床制限を課している実態がはっきりと確認できます。
彼らの理屈は常にもっともらしく聞こえますが、実際には論理的根拠に欠しいものが多いので地権者は注意が必要です。
本トピックスでは再開発業者らが行う様々な「増床制限」の口実をいくつかのパターンに分け、それぞれについて問題点や注意点を解説して参ります。

 

Contents
1.【パターン①】 増床の「面積」や「単価」を制限
2.【パターン②】 増床の「定義」を意図的に設定
3.【パターン③】 「増床は厄介だ!」なる印象操作
4.まとめ

【パターン①】 増床の「面積」や「単価」を制限

最も一般的な制限方法。それは、「増床は従前の床面積まで」、「増床は従前の床面積の1.2倍まで」と言った増床面積に上限を設ける手法です。
同様に、「増床は従前評価額の1.3倍まで」と言った金額に限度額を設ける手法も広く見られます。また増床を認めるとしても、「増床単価は保留床単価×1.2倍」と言うように買い取り単価を高く設定したりもします。
実際には上記をそれぞれ複合的に組み合わせるパターンが広く見受けられます。例えば「権利床面積が従前の床面積に達するまでは保留床単価とするが、それを超える部分についての増床は保留床単価×1.3倍とする」と言ったようにです。
業者側は、とにかく高いハードルを設けることで地権者が安易に増床できない方向へ誘導しようとするのが手口です。

【パターン②】 増床の「定義」を意図的に設定

そもそも都市再開発法には「増床」に関する明確な定義は存在しません。
また、再開発では「増床」と似た概念で「特定分譲床」(注1)と言う用語も使われますが、こちらも都市再開発法における明確な定義が存在しないため、業者側は両者をそれぞれ都合良く定義づけた上、両者を意図的に混同させたりして地権者を混乱させますのでご注意ください。
更に再開発業者側は自社に都合の良い定義づけを行うだけでなく、それを配布資料などに何度も繰り返し掲載することで「既成事実化」を図ろうともしますので地権者はこの手口にも要警戒です。(注2)

(注1) 法令上の明確な定義は存在しないながらも実務面では、「増床」権利床と同一の区画を有償にて買い増す場合を言うのに対し、「特定分譲床」権利床とは別区画の床を特定の者が有償で購入する場合を指す等、両者は区別して使用されているようです。
(当然、両者の扱いも異なってきます)

(注2)多くの場合、増床制限に関わる説明は再開発業者の意向を受けたコンサルが担当します。そのようなコンサルは言うまでもなく再開発業者側の利益を優先させようとしますので注意が必要です。

意図的に設定される定義として例えば「増床とは現状面積までの床の買い増しを言う」などがあります。(最近の実例です!)このような定義づけを一方的に行うことで地権者が一定の面積以上は増床出来ない仕組みを先に決めてしまおうとするのが業者側の目論見です。このような定義の多くは論理的根拠に乏しいため、地権者側から問題提起されても論破できないことを彼ら自身もよく承知しています。そこで彼らは配布資料に何度も繰り返し一方的な定義を書き込むことで、いつの間にかこれを既成事実化してしまおうと画策しますので地権者の皆さんはくれぐれもご注意ください。

【パターン③】 「増床は厄介だ!」なる印象操作

もし再開発業者側から「増床は保留床の売却である」なる説明が出てきたら要注意です!増床を「権利変換の一環」としてではなく、「保留床の切り売り」だと位置づけることで手続きが極めて煩雑になるからです。
一部の業者は増床を「保留床の売却」だと説明することで、地権者に「手続きが複雑でわかり難い」、「契約に時間がかかる」、「増床は厄介だ」との誤った印象を植え付け、地権者が増床を諦める流れを作り出そうとしますのでご注意ください。(因みに都市再開発法には地権者の増床を明確に制限する条文は存在しません!)

業者側のこの手法をもう少しわかりやすく説明します。
前述の通り、床の買い増しに関しては「増床」と「特定分譲床」と言った2つの用語が実務上区別して使われています。
簡単に言えば、「増床」 権利床と同一の区画を有償にて買い増すことであるのに対し、「特定分譲床」 権利床とは別区画の床を有償にて買い増すことを言います。
この内、少なくとも「増床」については都市再開発法の基本的な考え方ですから、これを不当に制限することは一部例外(注3)を除いては法の趣旨に反します。
一方、「特定分譲床」は都市再開発法上の明確な定義は存在しないものの、実務上は「保留床の一部を特定の者へ分譲する際の床」として扱われるため、保留床の処分を定めた都市再開発法第108条の制約を受けることは妥当だと考えられます。

問題は、一部の業者が意図的に「増床」と「特定分譲床」とを混同させ、増床を「保留床の売却(=特定分譲床)」だと説明することで地権者側に「手続きが煩雑になる」との誤った印象を植え付け、地権者の正当な「増床機会」を奪おうと目論む点にあります。知識に疎い地権者を見下す極めて狡猾な手法ですが、その目的が業者の「保留床独占」にあることは言うまでもありません。

(注3)「一部例外」と記したのには理由があります。「増床」を無制限に認めてしまうと、地権者の中に超富裕層が存在した場合、当該地権者が激安の床を一人で買い占めてしまうと言った事態も考えられるからです。
これは地権者間の不平等を促進するだけでなく、再開発業者側にも不利益をもたらします。
再開発業者も営利企業ですから、当然、彼らも働きに見合う分の保留床(=開発利益)だけは確保してやる必要があります。
このため、「都市計画決定」の実行前に、地権者側(=傀儡ではない準備組合)と再開発業者側とが対等な立場で協議し、「増床」や「保留床単価の決め方」等の基本条件を書面で取り決めておくことが強く望まれます。

「増床は厄介だ!」なる印象操作を図で表現したのが下図です。
これは再開発施設において、地権者が既存の権利床20に加え、新たに10の床を増床する場合を想定した図です。
本来は①で「権利変換の一部」として増床手続きが完結できるところを、一部の業者は敢えて②「保留床の一部の売却」だと説明することで、地権者に「恐ろしく複雑な手続きの世界が待ち受けている」との印象操作を行い、最終的に「増床」を断念させようと仕組むのです。

「恐ろしく複雑な手続きの世界」とは?

そもそも、増床が「保留床の一部の売却」だと解釈されると保留床の処分に関して定めた都市再開発法第108条の適用を受けます。保留床はもともと事業費の不足分を賄うために用意された組合の財産ですから、売却に際しては総会の決議が必要となる他、処分に際しては価格や条件も含め厳格なルールのもとで透明性をもってこれを行う必要が出て来ます。
また「保留床の売却」となれば、新たな「売買契約書」の締結が必要となり、印紙税もかかって来ます。

このような説明を聞かされれば、
地権者の増床意欲は間違いなく減退します!

しかしこれは業者側が地権者に増床を思いとどませるための仕掛けだと理解すれば過度に心配する必要もなくなります。もし業者の説明に不自然さを感じたら、必ず業者から説明根拠を書面で取り付けてください。
そして弁護士などの専門家を交えて内容を精査してください。
これを行うことで実態が明らかになります!

まとめ

「増床」は都市再開発法の基本的な考え方であり、「増床」を「権利変換における権利床と一体」として処理する方式自体に法的な問題はありません。従い、再開発業者側が「事業協力者」の名のもとで不当に増床制限を加えようとする行為は「法の趣旨」はもとより、「再開発事業の基本理念」にも反する行為だと言っても過言ではありません。(注4)

(注4)再開発は「地権者が主体」の事業であることを業者側も良く理解しています。このため彼らも形式上は再開発組合が「増床ルール」を決定したとの体裁を整えます。一部の再開発業者が準備組合の設立段階から「ヒト、モノ、カネ」の物量作戦を用いて、いち早く組合組織全体を傀儡化(=操り人形化)してしまおうと画策するのは正にこの理由からだと考えられます。

再開発業者側の説明には論理的根拠の乏しいものが含まれていることが多々ありますので、地権者は彼らの言質を決して額面通り受け取るべきではありません。もし業者の説明に疑念があれば直ちに業者から書面を取り付け、専門家を交えて内容の妥当性を精査することが肝要です。

「都市再開発法」には「増床制限」に関する規定がないため、業者によっては「増床」を自社に都合良く解釈し、それを配布資料に何度も記載することで、いつのまにか「増床制限」を既成事実化させてしまおうと画策しますので地権者はこの手口にもお気を付けください!

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