本トピックスは(244)再開発業者の「死んだふり」にはご注意あれ!の続編です。
「地権者の同意」がどうしても集まらない場合、一部の再開発業者は、
水面下で裏工作を行う
ことが知られていますので地権者は注意が必要です。
トピックス(245)では細切れ分筆の手口について注意勧告を行いました。
本トピックスでは
地権者の買収
について取り上げ、疑わしき事例と共に解説して参ります。
1.地権者の買収とは?
2.この土地登記簿はなんだ?
3.まとめ
地権者の買収とは?
地権者の買収とは、主に業者側が特定の地権者へ密かに金銭その他の利益供与を行う見返りに再開発への「同意」や「協力」を取り付ける行為を言います。
「買収行為」は、社会常識の範囲内で行われる限りにおいては企業の正当な経済活動の一環だとして許容される場合もありますので、違法性・不当性の有無については個別事例ごとに判断して行く必要があります。
再開発で問題となるのは、地権者への利益供与が社会常識から著しく逸脱した形で行われる場合です。特定の地権者に対して「優遇的な従前評価」を行ったり、「高額な金品や不動産を供与」したりするケースがこれに該当します。
水面下で密かに行われるため、なかなか把握が難しいと言った現実もありますが、
再開発は市民の税金まで投入される公共性の高い事業であり、そこでは公平性や透明性が厳しく要求されるため、不当な「地権者買収」に対しては地権者一人一人が日頃から厳しい目を持つことが望まれます。
この土地登記簿はなんだ?
地権者の買収を語る上でどうしても避けて通れない疑惑の事例として、三田小山町西地区再開発で発見された合計42名の地権者と思われる個人及び法人により登記された不可解な共同名義物件が挙げられます。しかも登記が「準備組合の閉鎖期間中」に行われたことから、まさに業者側が「死んだふり」をしている間に実行された裏工作の典型例と言えるかも知れません。今も業者が沈黙を続けているため真相は不明ですが、登記前後の経緯を簡単に時系列で表すと以下の通りとなります。
● 1998年(平10):準備組合が活動を休止
● 1998年(平10): 39名の地権者と思われる個人及び法人が1,483㎡の土地を共有名義で取得(しかしその1か月後にはなぜか登記抹消)
● 1999年(平11):(上記39名を含む)42名の個人及び法人が50㎡&93㎡の土地を共有名義で取得(しかしその1か月後には登記抹消)
● 2001年(平13):準備組合が活動を再開
● 2023年(令 5):不可解な共同名義の登記が発見される
1998年から1999年にかけ、3筆の土地(面積合計で約500坪)が42名の共有名義で登記されました。しかしその1か月後には全員の所有権が抹消されています。
まさに不自然そのものです!
現場は「六本木ヒルズ」や「麻布台ヒルズ」まで1キロ圏内と言う都心の超一等地ですから土地取得には一人当たり億円単位の分担金が必要です。しかし登記簿謄本には抵当権が設定された形跡はありません。42名全員が現金を拠出したのか?
疑惑は深まるばかりです。この地区では当初から激しい反対運動が展開されており、その影響もあってか、1998年~2001年まで準備組合事務所は閉鎖されていました。疑惑の登記はまさにその期間に行われたのです。これも単なる偶然なのか?疑惑には更なる続きがあります。当該地区の再開発には合計4社のデベロッパーが参加組合員として関与していますが、その中の1社である三菱地所レジデンスに対し、区内の某地権者団体が質問状を送ったところ、なんと怪文書が団体代表宅に投げ込まれると言う事件まで発生。この話を聞いた都内17の住民団体が連名で三菱地所レジデンスの社長宛に質問状を送り、不可解な登記に関わる再開発業者としての責任ある回答を求めました。しかし、同社は今も沈黙し続けたままです。
同社が沈黙している以上、真相は謎のままですが、考えられるのは、
業者側が同意者数を増やすため、
瞬間的に42名を約500坪の地主に仕立て上げ、
登記の事実を以て42名の「従前評価額」を増やした
と言うシナリオです。
当該地区における平均的な地権者の従前評価額は5,000万円前後と聞いていますので、今回の不可解な「瞬間的所有権登記」分が従前評価額へ上乗せされたとすれば、42名の「従前評価額」はそれぞれ3倍程度増えた計算になります。
従前評価額が3倍増となれば、権利変換で貰える床面積も3倍増となるわけですから、そのような好条件なら全員が再開発へ同意するのも納得できます。
三菱側が口を閉ざしているため真相は今も不明のままですが、本件「登記簿疑惑」について、更に詳しくお知りになりたい方は、是非下記トピックスをご参照ください。
(203)えっ?この「土地登記簿」は何だ?
(204)この「土地登記簿」は何だ?(続編)
(205)登記簿疑惑で関連業者から「怪文書」が!
(210)登記簿疑惑:17団体が三菱社長へ質問状!
(219)登記簿疑惑に三菱社長は回答せず!
(220)登記簿疑惑に三菱社長は回答せず!(続編)
まとめ
今回は、一部の再開発業者が水面下で行い得る裏工作として「地権者の買収」を取り上げました。
再開発は市民の税金まで投入される極めて公共性の高い事業ですから、公平性や透明性が厳しく問われなければなりません。
「特定の地権者に対し見返りを求めて秘密裏に過度な利益供与を行う」と言った行為を地権者側は決して容認すべきではありません。
また日頃から「容認しない姿勢」を示すことだけでも業者への抑止力に繋がります。
「地権者の買収」は極めてセンシティブな問題ですので、違法性・不当性の有無については個別の事例ごとに慎重に判断して行く必要があります。もし違法性や不当性が強く疑われる場合には、出来れば弁護士等の専門家の助言も得ながら、
公の場で問題指摘を行い、
業者側へ書面による回答を求める
ことが何よりも大切です。(注1)
地権者が抱く疑念に対して説明責任を果たすことは再開発業者の責務ですから、地権者側は躊躇する必要などありません。
業者側は「自社に不都合な問題」を指摘されると、指摘を行った相手に対し、個別の話し合いを求めて来ることがありますが、応じるべきではありません。
そもそも百戦錬磨の再開発業者を相手に地権者が一人で話し合うこと自体、地権者には不利となります。また面談だと後日「言った、言わない」で揉める原因となります。更に、たとえ話し合いが決裂したとしても、狡猾な業者は地権者と話し合った事実をもって「一定の理解は得た」などとして一方的に幕引きを図る懸念があります。
従い、問題指摘は公の場で行い、必ず業者から書面で回答を貰うことが先決であり、個別面談はそれからです。