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(カラクリ-2)「木を見せ森を見せない」業者の手口!

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本トピックスは「カラクリと手口シリーズ」の第2弾です。
一般に再開発計画が立ち上がると、再開発事業者は先ず区域内の地権者たちを説明会場へ集め、「持ち出しなしで新築マンションに住める」などと言った地権者が興味を示す話(=木の話)ばかりを示し、地権者側に考える時間も与えぬまま、直後から再開発への同意を集めはじめます。
(注:地権者がまだ知識に疎い段階で1人でも多くの同意を取り付けてしまおうとするのも彼らの手口の一つです)
しかしその一方で、彼らはいつまでたっても事業全体の詳細(=森の話)を地権者に対し明らかにしません。多くの準備組合も同様です。
当地区でも然り。勧誘開始から既に5年が経過した今も住友不動産は事業の全体像(詳細)を開示せず、議論すらしようとしません。
地元地権者団体が住友不動産へ公開質問を行っても、彼らは「事業協力者にすぎない」との理屈で準備組合の陰に隠れ、書面による回答を拒絶し続ける有り様です。
一方の準備組合も、「詳細は再開発の進行と共に決まる」などと言った
玉虫色の回答に終始するばかりで、詳細を明らかにしようとしません。

要するに、再開発事業者側は地権者に対し、

「木」ばかり見せて「森」を見せないのです。

実はこれには理由があります。を見せれば、再開発事業が地権者に不利な条件を強いる「地上げ事業」であることが見えてしまうからです。

森を見れば地権者搾取のカラクリが見えてくる!

上記は再開発の全体像(=)を表した図で、その基本は次の通りです。

① 再開発は地権者が土地を供出することで成り立つ事業である。

② 再開発は地権者が主体となり、リスクをとりながら進める事業である。

③ 再開発は建てられた再開発ビルの一部(「保留床」)を再開発事業者(「参加組合員」)へ売却することで事業費を賄う仕組みである。

「保留床」を売却した残りが地権者の取り分(「権利床」)となる。

さて上図の通り、再開発ビルの床保留床権利床とで構成されます。
「保留床」は再開発事業者(参加組合員)の購入部分で、残りが「権利床」(地権者の取り分)です。
保留床面積が増えれば、その分「権利床」は減り、地権者は損します。
逆に保留床面積が減れば、その分「権利床」は増え、地権者は得します。
このように「再開発事業者」と「地権者」とは実は互いに利益が相反する関係にあります。この点は非常に重要ですのでぜひご認識下さい!

再開発事業者は営利目的で再開発を進める民間業者ですから、当然、保留床単価を安く設定し、その分出来るだけ広い面積を取得したいと考えます。
しかし、そうなると全体の床面積は不変ですから、その分権利床は減少し、地権者は不利益を被ることになります。

これが再開発の基本構造です。

しかし、保留床を格安で総取りしたい再開発業者にしてみれば、そこへ地権者の関心が向かわれては困る。下手をすれば、彼らが保留床を総取りするための様々なカラクリ手口まで露呈しかねない。

そこで業者側は木ばかり見せて森を見せない戦略をとるのだと考えられます。

森を見せないための手口

その一つに再開発業者が各地で地権者に対して発する常套句があります。それは、

地権者は従前評価に応じた権利床を権利変換で取得します

と言う言葉です。
これは地権者に再開発の本質を理解させないための曖昧な説明だと言えます。そこに「保留床」と言う言葉が入っていない点にもご注目下さい。

地権者の関心を土地資産の「従前評価」に向かわせることで、「保留床の安値総取り」を狙う再開発事業者の企てから地権者の目をそらすと同時に、先に「権利床」を確定させてしまえば、残る保留床を意のまま獲得できると言った再開発業者側の思惑があるからだと考えられます。
業者側のこの手口に乗せられてはいけません。

本来、再開発業者が行うべき正しい説明は、

地権者は保留床を売却した残りを「権利床」として取得します

です。「地権者が主体」の再開発ですから、これは当たり前の説明です。

さて両者の説明の違いがご理解頂けたでしょうか?
業者が言うように、最初に「権利床」が決まり、続いて「保留床」が決まるのではなく、先ずは事業費を補うための「保留床の売却額」が決まり、次に「保留床単価」を決めることで「保留床面積」が決まり、最後に総面積からの引き算で「権利床の面積」が決まるのが本来のあるべき姿です。
地権者はこの順序を取り違えるべきではありません。

地権者のなかには「従前評価に応じて権利床が決まるのだからよいではないか」と言う議論もあります。
しかし、「従前評価」が果たして公平、公正、且つ透明性をもって決定されるのかと言う点に注意する必要があります。
再開発事業者が実効支配する準備組合(注1)のもとでは、彼らは自社の息のかかった「鑑定士」や「コンサル」を起用することで、再開発業者側に一方的に有利な評価額(=地権者側には不利な評価額)を算出させ、その数字があたかも相場であるかの印象操作を地権者に対して行う懸念があるからです。この点も再開発業者の手口の一つとしてご認識下さい。

(注1):準備組合が果たして実効支配されているのかについては、トピックス(171)傀儡型「準備組合」を見分ける法をご参照下さい。

まとめ

一般に、再開発事業者は土地の「従前評価」や「権利変換」と言った地権者が興味を示す話(=木の話)ばかりを持ち出す一方で、事業全体の詳細(=森の話)を地権者に対し明らかにしようとはしません。準備組合も同様です。
その理由は単純明快です。
再開発(第一種市街地再開発事業)は「地権者が主体」とは名ばかりで、その実態は、

地権者に著しく不利な条件を強いる「地上げ事業」

だからです。
を見せないのは、業者側が安易に事業の全体像(=森)を明らかにすれば、その不平等な実態が地権者に知れ渡ってしまうからだと考えられます。

そして、その実態を地権者に悟られぬために存在するのが様々な事業のカラクリ(=巧みな細工)であり、業者の手口(=やり口)であると言えます。
再開発には多くの「落とし穴」がありますので、地権者の皆さまはくれぐれもご注意下さい。
(注:もちろん地権者に寄り添う善良な再開発事業者もいる筈ですので、最終的には各地域の地権者の皆さまにてご判断願います)

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