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(43)準備組合は設立すべきか?(その1)

投稿日:2020年7月2日

最近、首都圏各地の複数の地権者団体から、「再開発に向けて準備組合を設立したいとの提案が出されているが、果たして応じるべきか?」との相談を受けています。
もちろん、地域ごとに事情は異なりますし、地域全体を幅広くカバーする形で地権者の皆さまが「勉強会」や「街づくり協議会」と言った協議の場に参加され、しっかりと時間をかけて検討をした結果、次の段階へ進むために「準備組合の設立が必要だ」と言うのであるならば何ら問題はない筈です。

しかし、第1種市街地再開発事業は共同営利事業ですから、個々の地権者は最終的には市場リスクにさらされると言う点で覚悟が必要です。(現状のように個々で物件を所有していれば自己の裁量でそれなりの対応が可能ですが、共同事業となればそれが出来なくなり、もし事業が採算割れに陥れば、各組合員(=地権者)に損失の負担が及ぶ恐れが出て来ます。)準備組合設立はまさにその事業の「入り口」となりますので慎重な判断が必要となります。また準備組合は一度設立したら、事業性に懸念が出て来たとしても、事業者側は簡単には中断や解散などには応じようとしませんので、この点でも慎重な判断が必要です。

残念ながら、泉岳寺においては「準備組合」が不当な形で設立されていた事実が港区への情報公開請求を通じて判明しています。また、「準備組合」が設立されるや否や、実質的な事業者である住友不動産は、待っていましたとばかりに「準備組合」の名の下に地権者宅を訪れ、甘い話ばかりを口頭で持ちかけ、実際には不公平・不公正な条件の下で、当時まだ再開発事業に対する知識も乏しい地権者たちを相手に一気に再開発への同意をとりつけようとした苦い体験があります。(もちろん彼らに違法行為はありません。しかしやり方は全くフェアではありませんでした)
この様な経験から、「準備組合設立の是非」について相談を受けた際に、私たちは、決して妥協することなく、細部まで検討し納得した上で慎重に判断をされるようアドバイスをしています。大切な資産にかかわる問題であるだけに、「石橋を叩いても渡らない」くらいの慎重姿勢でも良いと考えています。
[注:私たちの中には、「準備組合」は再開発事業者が自らのリスクヘッジを図るために考案した都合の良い仕組みであるとして、その存在自体に否定的な見方もあります]

慎重姿勢が必要とされる理由

そもそも準備組合とは何であるかを考えてみる必要があります。
法人格を持たない任意団体であることに加え、業歴も、信用力も、資金力も持たないこの組織に対し、地権者は自己の資産を託すことになる「同意書」を提出させられるからです。
しかもその同意書の中身は事業者側に一方的に有利な内容となっており、まるで地権者の資産を無条件で事業者へ差し出す「白紙委任状」だと公言する地権者もいるほどです。
(注:泉岳寺の「同意書」の場合です。詳細については、(42)これが同意書の正体だ!をご参照下さい)
「同意書」の提出先が再開発事業者(泉岳寺の場合は住友不動産)ではなく、信用力も資金力もない「準備組合」となっていることには特段の注意が必要です。その様な先へ地権者が自己の資産を託せば、万一「こんな筈ではなかった」として将来、訴訟を提起するにしても、賠償能力のない「準備組合」を相手にしなければならないからです。
「準備組合」制度は、再開発事業者が自らの企業名を前面に出すことはなく、裏方で実質的に事業を進めることが可能となると言った、実にうまく出来た仕組みだと言えます。
準備組合は再開発事業者が自己を守るための「防波堤」だと言えないこともありません。
(詳細については、(32)弱点を覆す策略?をご参照下さい)

さて「準備組合」が設立されると、再開発事業者は待ってましたとばかりに「準備組合」の名の下に地権者宅を訪れ、甘い話を持ちかけながら、知識に乏しい地権者たちから一気に再開発への同意を書面で取付けようとします。(注:あくまでも泉岳寺の場合です)

泉岳寺では現在この「同意取付け活動」の段階までしか進行していません。従い、ここから先、どうなっていくのかについては実は私たちも経験がありません。しかし、一旦、必要数の同意書が集まると、区市町村はその他の状況も総合的に判断の上、都市計画決定(=地域への法の網掛け)を実行し、その後続いて地権者及び借地権者のそれぞれ2/3の同意を以て再開発組合(本組合)設立へと手続きが進むこととなります。
ここで注意すべきは、一旦、再開発組合が設立されると、以後地権者は好むと好まざるに関係なく、全員が再開発組合の組合員になると言う事実です。泉岳寺の場合は、第一種市街地再開発事業、いわゆる「組合が自己の責任に於いて施工を行う形の再開発」ですので、もし再開発事業が採算割れとなった場合、組合員(=地権者)に再開発の損失の負担が及ぶ恐れが出て来ます。
この点はとても重要です!
何故なら、今年に入り突如として発生した新型コロナウィルス感染拡大による社会経済情勢の急変により、再開発の事業性そのものに暗雲が漂い始めてきたからです。
もし、コロナ禍が収束し景況感が回復することを見極めぬまま再開発を進めたとしたら、将来、地権者側に損失が及ぶことになるかも知れません。
安易に「準備組合の設立」を認めれば、上述した理由により一気に再開発が進んでしまう懸念があります。再開発自体を否定するつもりはありませんが、少なくとも今はその時期ではないと考えます。
コロナ禍は、百年に一度の世界的大災害と言われているだけに、たとえ収束に向かったとしても、社会経済に大変革をおこさせる可能性があり、現時点では誰も将来を予測することは出来ないからです。まさに「一寸先は暗闇」であると言えます。
従い、私たちは再開発の経験に乏しい素人ながらも、自信を持って「今は準備組合を設立すべき時ではない」とはっきり申し上げています。(2020.7月時点)

今は準備組合を設立すべき時期ではない具体的理由

再開発を取り巻く環境の変化
昨今発生したコロナ感染拡大の影響による社会経済情勢の急激な変革の中で、いままで再開発事業を支えてきた前提条件そのものが崩れつつあります。
テレワークの普及やソーシャル・ディスタンスに代表されるように、私たちの新しい働き方や生活様式は、都心部のオフィス、タワーマンション、ホテル、商業施設、と言った再開発事業を構成する施設すべてにわたり、需要の縮小をもたらす懸念が出て来ました。
(日本経済新聞をはじめ、多くの主要メディアもこの問題を何度も取り上げています)
例えば、在宅勤務者の増加は、都心部の大規模オフィスビルにおける賃貸床面積の減少をもたらすので、今後空室率が高まることが懸念されます。また通常、再開発ビルの地下には飲食店などの商業施設が入居することが多いのですが、人が減れば商業施設の売上げも打撃を被ります。事業として成立が難しいと判断すれば、入居者も減ることでしょう。
オフィスや商業施設の空室率の上昇は賃貸料の値下げ圧力となり事業者へ跳ね返ってきます。今後は景気の悪化もほぼ確実視されていますので、状況は更に深刻です。
また、大都市への通勤者が減れば、人口の一極集中も解消し、その結果、都市部にあるタワーマンションの人気も衰退しかねません。コロナ禍が世界的規模で収束しない限り、当面の間、インバウンド需要も期待出来そうにありませんから、再開発により建設される大規模ホテルも同様に打撃を受けそうです。
このようにコロナ禍による社会経済の混乱は、一瞬にして再開発を取り巻く事業環境を根底から変えてしまう可能性が出てきました。
これから再開発を行っても果たして事業として成り立つかが不透明になって来たのです。

一方で、私たち地権者側も新たな生活様式へのパラダイムシフト(=価値観の劇的な変革)を求められています。景況感の急速な悪化に加え、コロナ感染拡大の第二波の到来も懸念されるなか、「所得の減少」や「事業の縮小」等で生活防衛を迫られる地権者も増え、将来の生活設計への不安も増してきています。  

まとめ

皆さまの地域で準備組合設立の話が持ち上がったら、地域全体の皆さんで細部にわたり検討し、納得した上で設立の是非をご判断下さい。とりわけ、地権者の資産がどうなるのかについては充分な理解と覚悟が必要です。
しかし、例え皆さまが「準備組合の設立は必要だ」と判断されたとしても、今はその時期ではないかも知れません。しばらくの間、様子を見られてはいかがでしょうか?
コロナ禍は、百年に一度の世界的大災害と言われているだけに、たとえ収束に向かったとしても、社会経済に大変革をおこさせる可能性があり、現時点では再開発が果たして事業として成り立つかが不透明になって来ているからです。

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