本トピックスは
(カラクリ-3)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(前編)、
(カラクリ-4)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(後編)、
の続きとしてお読みください。
今回は、多くの現場で再開発事業者が再開発組合を誘導して地権者に対して課す「増床制限」について取り上げます。
再開発事業者(=参加組合員)の主な収益源となるのは「保留床」です。従い、その保留床を「いかに安い単価で多くの面積を確保するか」は彼らにとっての大きな関心事です。
保留床の「安値総取り」を目指す彼らは、当然「面積を減らされたくはない」と考えます。しかし、床単価が安ければ地権者だって床を買い増したいと思うのは当たり前です。相場より安く購入して転売すれば売却益が期待できるからです。しかし、地権者による購入を許してしまえば、再開発事業者が得る保留床の取り分(面積)は減ってしまいます。
そのような事態とならぬよう彼らが地権者に対して課すのが「増床制限」だと言われています。
本トピックスでは、そのカラクリと手口について説明します。
増床制限とは?
「増床」とは、地権者が従前資産に対応して取得する権利床の枠を超えて、新たな床を追加的に購入することを言います。
再開発事業者が自社の息のかかった「鑑定士」などを起用して相場より安い床単価を算出させ、再開発組合がその床単価を保留床単価と認定すれば、地権者だって床を買い増したいと考えるのは当然です。
しかし多くの現場では、再開発事業者が自ら実効支配する組合の理事会等を通じて、地権者の「購入金額」や「面積」に上限を設けると言った「増床制限」ルールを設定し、地権者に床の追加購入を自由に行わせない策が講じられています。
あたかもそれは「地権者が自ら設定したルール」であるかに見えますが、その実態は、保留床を独占的に手に入れたいと考える再開発事業者の
「自分たちは安く独占的に床を手に入れるが、地権者にはそうさせない」と言う身勝手な論理に沿って再開発組合を誘導してルール化させたものだと考えられます。
「増床制限」は単なる業者側の希望にすぎない!
ここで重要なことは、「保留床単価の決定」や「従前評価方針」の場合と同様に、「増床制限」に関しても地権者と再開発事業者との間では利益が相反すると言う点です。当然のことながら利益相反相手の言質を額面通りに受け取るべきではなく、従い、業者側が言い出す「増床制限」は、先ずは業者側の希望だと捉えるべきです。
そもそも都市再開発法に「増床制限」に関する規定など存在しません。
本来、増床制限を課すか否かは地権者側(=地権者が主体となる組合)が決める事柄であり、再開発事業者(=参加組合員)の都合で決めるべき事項ではないのです。
その「参加組合員」についても、都市再開発法は単に「参加組合員に参加の機会を与える」と規定しているだけで、「参加組合員」の存在を再開発の要件とすら見做していないのです。
このような現状を勘案すれば、「増床制限」は、実は再開発事業者側の利益極大化の手口の一つにすぎず、そこに法的根拠すら存在しない以上、それは業者側の単なる「希望」にすぎないことがおわかり頂けるかと思います。
「増床制限」は地権者にとり不平等そのもの!
再開発事業者が、自社の息のかかった「鑑定士」などを使い「安い床単価」を算出し、再開発組合がその床単価を保留床単価と認定すれば、当然、地権者だって床を買い増したいと考えます。
もし「自分たちは安く床を手に入れるが、地権者にはそうさせない」と言うのなら、それは業者側の「身勝手な論理」そのものだと言えます。
「増床制限」は地権者にとり基本的には不利となることをご認識下さい。
例えば地権者が「権利変換前に外部へ土地建物の権利を売却」するとなった場合、増床制限があると、買い手側の床取得の選択幅が狭まるため、増床制限が無い場合と比べて外部からの評価が下がると言った不都合が生じます。
このように「増床制限」は地権者側にとりメリットはありませんから、地権者側が率先して「増床制限」を設ける意義などないのです。(注)
再開発事業者は営利企業ですから、当然、彼らの働きに見合った利益(=保留床)だけは確保して貰う必要があります。
このため、「都市計画決定」の実行前に、地権者側(=地権者が主体の準備組合)と再開発事業者側とが対等な立場で協議し、「増床」や「保留床単価の決め方」等の基本条件を書面で取り決めておく必要があります。
まとめ
再開発にはトピックス(177)~(180)においても報じた通り、「保留床単価の決め方」、「従前評価の手法」、「開発利益の還元方法」等、あらゆる場面で地権者に不利となる「落とし穴」が存在することがわかって来ました。
今回取り上げた「増床制限」もその一つです。
因みに、当地区における住友不動産は上記疑念に対する詳細説明を、同意書集めから5年が経過した今も地権者に対して行っていません。
地権者側が住友不動産に対して各種質問状を送付しても、彼らは「準備組合に聞いてほしい」の一点張りで回答を拒絶して来ます。
「無知な地権者とは話をするが、知識を得た地権者とは対話しない!」
まさに住友不動産は、
再開発は「地権者の無知」に乗じて進められる地上げ事業
であることを露呈したと地権者が考えても不思議ではありません。
「地権者の無知に乗じたビジネスモデル」である以上、一旦地権者が、「知識」、「知見」、そして「知恵」を身につけてしまうと、次々と「矛盾点」や「落とし穴」が表面化し、再開発業者は「質問されても回答に窮してしまう」と言うのが実情ではないでしょうか?
しかし、「地権者が主体」であることを日頃から標榜する住友不動産が、その地権者からの公開質問等に対して書面による回答を拒絶し続けると言う対応は如何なものか?
地権者の疑念に対し、しっかり説明責任を果たす!
それこそが再開発事業者の責務です。
地権者宅を住友不動産の社員が自ら訪問して一方的に自分たちの論理を口頭で並べ立てる一方で、地権者からの公開質問への回答は拒絶すると言った住友不動産の企業姿勢では再開発は進む筈がありません!
他地区の地権者の皆さまにおかれましても、業者側の説明において「増床制限」を含む数多くの「矛盾点」や「落とし穴」を認識された際には、是非とも自信を持って再開発事業者と渡り合って頂きたいと思います。
わからない点は、自身で納得できるまで質問をし続けることが肝要で、
決して安易に妥協すべきではありません。
これを行ってこそ、真に「地権者が主体の街づくり」が実現出来るのではないでしょうか?