泉岳寺の歩行者デッキ構想には要注意!
各地の地権者団体や専門家等との情報交換を通じてわかってきたことの一つは、「準備組合は設立されたものの、地権者同意がなかなか進まない」と言った場合、事業者側は「歩行者デッキ」、「歩道橋」、「エレベータ」と言った公共の利便性の高い設備を目玉として計画に組み込むことで、行政(及び地権者)から再開発への賛同を得ようと試みることがあるので注意すべきだと言う点です。(地元「地権者の会」が都内の某有名再開発事業を手がけたコンサル企業の代表取締役と面談した際にも同様の忠告を受けた由)
泉岳寺でもまさにその様な計画が打ち出されました。
住友不動産は再開発の目玉の一つとしてJR高輪ゲートウェイ駅と再開発区域との間の数百メートルを結ぶ「歩行者デッキ整備構想」を打ち出したのです。(下図ご参照)
たしかに「歩行者デッキ」はJR駅利用者の利便性を高める設備ですが、彼らが発行する「準備組合ニュース」を読んでも、都合の良い話ばかりで現実には触れようとはしません。
設置計画をめぐっては不自然な動きもいくつか確認されており、地権者には実態(とりわけ「事業リスク」)を詳しく説明しないまま計画だけが一方的に推し進められようとしています。
泉岳寺の再開発は地権者が事業リスクを負う形の事業であるだけに、もし彼らの話を額面通りに受け取り歩行者デッキの設置を是認してしまうと地元地権者は思わぬ損失を被る懸念が生じますので注意が必要です!
以下にその理由を説明します。
1.泉岳寺で行われようとしている再開発の種類
住友不動産が行おうとしている再開発は「第1種市街地再開発」に該当する計画です。
「第1種再開発」とは、組合員(=地権者)が共同で事業リスクを負う形の事業です。地権者が事業リスクを負うのですから当然そこには経済原則が働きます。
再開発を進めてみたものの、「結果として経費がかさんでしまった」となった場合、地権者がその負担を負うことになります。
多大な設置費用を要する「歩行者デッキ」はまさしくその経費の部分です。一部が補助金や第三者負担で補われたとしても原則的には地権者負担となるのです。
多額の経費がかかり事業収益が圧迫された場合、たとえそれが「地権者への金銭的負担」にまで波及しなくても、「権利変換率の悪化(=貰える筈の床面積の減少)」となって地権者へ跳ね返ってきますので注意が必要です。(例えば「権利変換で100平米の床が貰える」と見込んでいた地権者が事業コストの増加を理由に「70平米しか貰えない」と言うことが起き得ます)
再開発が決まってしまった後で「こんな筈ではなかった」と気づいてももはや手遅れです。
従い、もし再開発を是認するのであれば、「都市計画決定」が実行されるその前に必ず住友不動産から書面による保証を取付け、自己の資産が納得行く条件で権利変換されることを確認しておくべきです。(因みに、保証書の発行元はあくまでも「住友不動産」であり、財務基盤も保証能力も脆弱な「準備組合」ではありません!)
保証が得られない限り都市計画決定への「同意書」には記名捺印をすべきではありません。
2.そもそもなぜ「歩行者デッキ」設置なのか?
【疑問その1】 本来は行政が行うべき公共設備
たしかに歩行者デッキは駅利用客の利便性を向上させますし、誰も設置それ自体に反対はしないでしょう。
しかしこれは本来、行政が行うべき公共設備ではないでしょうか?特に泉岳寺に於ける歩行者デッキ構想は、国道15号線まで跨ごうと言うのですからまさしく国道の管理者である国土交通省並びに関係自治体が主体となり進めるべき公共事業だと言えます。
それを何故260名足らずの地元地権者の負担でこれを設置しなければならないのでしょうか?この不自然な取り組みを地権者は冷静に考えて見る必要があります。
例えば地元の交差点に「信号機を設置したい」からと言って果たして地元住民の費用負担でこれを行うでしょうか?それと同じ理屈です。
住友不動産が立ち上げた「歩行者デッキ設置構想」は明らかに何かが不自然です。
その目的は何なのか?
今も彼らは地権者同意が得られぬため、行政に対して「都市計画決定」を認めさせるための演出として「歩行者デッキ」構想を立ち上げたと考えられないこともありません。
真相は不明ですがそう考える地権者は大勢いますし、複数の地権者団体や専門家からも
この点に関しては「注意すべき」とのアドバイスを受けています。
【疑問その2】 周辺地区の7人の町会長が港区長へ設置の要望書を提出
歩行者デッキの設置に関しては、再開発区域外に住む7人の町会長たちが連名で港区長に対し設置の要望書を提出していますが、その内容には大きな疑問が残ります。
この要望書、表向きは万人が支持するであろう「歩行者デッキ設置の要望」の形を取りながら、後半になると、再開発事業の一環として準備組合経由手続きを進めてほしいなどと記載されています。
なぜ地権者でもない区域外の町会長たちが、道路管理者である国土交通省やその他の関係官庁に対して直接設置するよう要望せず、敢えて法人格すら有しない民間の任意団体である「準備組合」にこれを設置させるよう港区長へ要望したのか?不自然さは拭えません。
因みに、再開発区域内の町会長はこのような要望には加わっていません。なぜなら地権者として「事業リスク」が将来自分たちにかかってくることを充分認識しているからです。
3.住友不動産は設置問題をどう説明しているか?
彼らは「仮に再開発組合が負担することになった場合においても…容積率の緩和を受けるため、保留床が増え、事業に負担をかけることなくデッキを整備することができると考えられる。またデッキ接続により、資産価値が高まり、利便性の向上も含めて、費用対効果が充分見込まれると考えられる(準備組合ニュース2020.1月第21号)」などと述べていますが、これは経済の安定成長を前提とした楽観的見通し以外の何ものでもありません。
コロナ禍で再開発の前提条件が激変した今、このような主張を鵜呑みにすることは大変危険です。逆にそうならなかった場合にどうなるかを地権者は考える必要があります。
彼らは更に、「事業性の悪化により皆さまの負担が増大しない形となるよう整備費用の分担や追加の容積緩和等について関係各所との協議を行ってまいります(準備組合ニュース2020.5月第23号)」とも述べています。
これも単に「努力します」と述べているだけで地権者の資産保証には一切ふれていません。
再開発が進んでしまった後に「努力しましたが、結局は皆さまの負担が増大してしまいました」と言われたらどうなるでしょうか? 結局は地権者が泣き寝入りすることになりかねません。
新型コロナの感染拡大で将来の展望が見えない今、そうなる確率は確実に高まっています。地権者が安心するためには書面による住友不動産の資産保証は絶対必要なのです。
彼らは「権利変換の詳細は再開発の進捗と共に決まって行くものです」などと地権者へ説明しているようですが、決してそのようなことはありません。地権者は冷静に考えて見るべきです。
そもそも取引の条件が確定していないのにハンコを押す不動産取引などあり得ません。
事業者が用意した「同意書」も、良く見れば「事業者への白紙委任状」と言えるほど地権者にとり不平等な内容であふれています。
(詳しくは(42)これが同意書の正体だ!をご参照下さい)
4.まとめ
① 第1種再開発事業は「地権者が共同でリスクを負う事業」ですから、歩行者デッキの設置費用は地権者側に「事業コスト」として重くのしかかって来る可能性が大です。
② 歩行者デッキは駅利用者の利便性を高める公共設備です。しかも国道を渡るのですから本来は国土交通省及び関係自治体が主体となり進めるべき事業です。それを260名の地元地権者の負担でこれを行おうと言うのですから不自然と言わざるを得ません。
③ それでも歩行者デッキを再開発組合で設置したいと言うのなら、地権者が納得できる内容での資産保証を住友不動産から事前に書面にて取付けておくことが必須です。
④ 保証が得られない限り同意書には決して記名捺印すべきではありません。(泉岳寺では「アンケート」や「物件調書」と言った同意書以外の書類も出回っているようですが、これらも「同意」の一部であるとして恣意的に利用される懸念があるため記名捺印には慎重であるべきです)
5.編集デスクより
今も「再開発は事業者に任せておけば安心!私たちには後日新築マンションが自己負担なしで与えられる」との楽観的な考えを持つ地権者がおられるようです。
そのような地権者には是非とも「事業リスクは地権者が負う」ことを再認識して頂きたいと願っています。自己の資産がリスクにさらされることを認識すれば、他人任せにすることが如何に危険であるかが理解出来るはずです。その様な観点から「歩行者デッキ設置構想」をいま一度検証し、それが地権者にとり果たして「得」なのか「損」なのかを各自で慎重に判断頂きたいと考えます。
特に昨今、コロナ禍により将来への不透明さが増し、再開発事業の前提条件も根底から変化しつつあります。その様な状況下で、多額の設置費用やメンテナンス費用を伴う「歩行者デッキ」をあえて設置してまで「共同営利事業」に踏み切ることは大きなリスクを伴うことを地権者は認識すべきです。
皆さまがお住まいの地域でも「歩行者デッキ」と似たような事例があるのではないでしょうか?コロナ禍で将来が見えなくなった今は、あえて再開発に踏み切る時期ではないと考えます。事業者の言われるまま安易に妥協することをせず、しばらく様子を見てみるのも選択肢の一つではないでしょうか?