本トピックスは
(60)こんな地権者棟に住みたいですか?
(61)それでも再開発に同意しますか? の続編です。
1.地権者軽視の住友「地権者棟」案
地権者にとり、将来住むことになる「地権者棟」は最も関心の高い事項の一つです。
しかし残念ながら、住友不動産が自社の収益源となる「再開発ビル」を優先するあまり、
そのしわ寄せが「地権者棟」の設計に見事に出てしまった感があります。
なんと住友側が提案してきたのは、
住戸の半数が一年中まったく陽の当たらない地権者棟でした。
狭い再開発区域の中で高層再開発ビルのすぐ裏手に地権者棟を建設し、出来るだけ多くの地権者をそこへ押し込もうとすれば、多くの住戸で「陽当たりが犠牲」になるのは当然です。
しかし半数もの住戸が「年間を通してまったく陽が差さない」など言語道断です!
もはや完全に地権者を軽視した提案であり
誰もこのような住戸に住みたいとは思いません!
これだけでは終わりません。
地権者の信頼を損なう住友側の「提案手法」も問題なのです!
① 地権者全体に説明することなく、個別に地権者を説得しようとした
そもそも多くの地権者は建築設計やデザインの基礎知識など有していません。その様な地権者を相手に再開発のプロ集団が個別の地権者を対象に説得し同意を得ようとするのですからどう考えても公正とは言えません。知識に劣る地権者が個別に説明を受けたこところで正当な評価など出来ないからです。
② コンピューター解析で初めてわかった「地権者棟」の実態
住友側は素人目には素晴らしく見える図面を携えて地権者のもとへやって来ます。
しかし個別に地権者を説得しようとする彼らの進め方に不信感を抱いた某地権者が、建築設計事務所へ依頼し彼らの図面をコンピューターによる3D-CAD解析にかけたのです。
その結果「年間を通して全く陽の当たらない地権者棟」であることが判明。
③ しかも図面に描かれた「日影線」は実際よりも極小に描かれていた
これもコンピューター解析で初めてわかった事実です。地権者が個別に図面を見せられても判別できる訳がありません。もし故意に行われたとしたら地権者への重大な背任行為です。
この様な提案に驚いた地権者有志が昨年12月に集まり「地権者棟を考える勉強会」も発足しています。この件は今後大きな問題へと発展する可能性が出て来ました。
今後どうなって行くのか?全国の地権者の皆さまにも是非とも注視頂きたいと思います。
2.なぜこのような提案がなされるのか?
答えは簡単です。準備組合を実質的に仕切るのは地権者ではなく住友不動産だからです。
その様な組織の下では地権者の民意はなかなか反映されません。
まさに「年間を通して全く陽の当たらない地権者棟の提案」がその典型例だと言えます。
住友不動産の主導のもと、地権者たちは再開発へ同意し、土地を供出し、更には事業リスクまで取らされた上、最後は約半数が年間を通して全く陽の差さない暗い住居へと追いやられることになるのです。
これのどこが「地権者主体の再開発」だと言えるのでしょうか?
都市計画決定どころの話ではありません。
3.「陽の当たらない地権者棟」が提案される背景
一つの理由は準備組合内の「民意が反映され難い」その偏った役員構成にあると言えます。
泉岳寺の準備組合には現在7名の役員(理事+監事)がいます。
7名の内6名は以前から地元に住む地権者であり、残り1名は住友不動産です。
広い再開発区域内であるにも係わらず、6名の地元役員たちの内、3名は泉岳寺山門内の仲見世の一角にある「横並び3軒」で占められています。しかもこの3名は2016年の準備組合発足以来、一度も役員を交代すること無く現在に至っているようです。
役員の固定化と住まいの一極集中は「多様な意見を広く集める」と言った観点から望ましくないことは明らかです。これが果たして公平・公正だと言えるのでしょうか?
この実態こそが陽の当たらない地権者棟の提案へと繋がったのではと見ています。
何故そうなのか?
それは仲見世の3名の役員たちは「陽のあたらない地権棟」へ入居する心配がないからです。住友計画では彼らは仲見世の現在地に新たな低層住宅を手当てされるようです。
現在の仲見世は陽当たりの良い南向きです。その地に低層住宅を建てて貰えるのですから当然新居も陽当たりの良い南向き住戸となります。少なくとも彼らは「地権者棟へ入居」することも無ければ「陽当たりを心配」する必要もないのです。公平だと言えるでしょうか?
再開発区域内には260名もの地権者がいますが、
果たしてどれだけの地権者がこの実態を認識しているのでしょうか?
準備組合には7名の役員がおり、仲見世の役員3名+住友不動産1名を加えれば人数的には過半数となります。このような偏った役員構成では「1年中陽の当たらない地権者棟」が準備組合により提案されたとしても不思議では無いと多くの住民が感じはじめています。
「僅か数名の意思で大多数の地権者の運命が決められる」としたら大問題です。
4.住友不動産の次の一手は?
コンピューターがこの「地権者棟」の問題を指摘してから3ヶ月が経過しようとしていますが、住友不動産からは今も「設計やり直し」の話は聞こえてきません。
今後、彼らは様々な理屈を並べたてて現行案を既成事実化しようとするつもりなのかも知れませんが、果たしてその通りに行くのでしょうか?
地権者は誰もこのような住戸に住むことを望んではいないからです。
また監督官庁である港区はもとより、世間もこのような形で進む再開発を決して容認はしないでしょう。
さて住友不動産の「次の一手」ですが、私たちは彼らがこの地権者棟を「中層棟」と呼んでいる点に着目しています。確かに彼らは「中層棟」と共に、再開発ビル内へ入居する「高層棟」の2つのプランを地権者へ提案しています。
彼らに設計変更の意思が無いとすれば、次の一手として「不満であれば他にも選択肢がある」として「高層棟」を推してくることが見込まれます。しかしこれには注意が必要です。
高層棟へ入居する場合、「床面積が大幅に削減」されることに加え「高額の管理費」がかかって来ます。一般の地権者には高嶺の花なのです。しかもその条件やその他詳細はいまも公開されていません。詳細もわからないのに住友側は「取りあえず再開発に同意してほしい」と畳みかけてくるのですから地権者としてはたまったものではありません。
実は住友は過去にも「三田三・四丁目市街地再開発」で高層棟の提案を行っています。
しかし、この提案に応じた地権者はほぼ皆無であったと地元地権者は証言しています。その理由は「現実的な提案ではなかったから」と断じていました。一見素晴らしく見える提案でも「絵に描いた餅」では全く意味がありません。そのことを三田の事例は教えてくれています。
5.住友不動産の口約束にはご注意あれ!
首都圏各地の地権者団体から、再開発事業者は一般に「口約束」はしてもそれを書面で確認したがらず、結果として「口約束」は実行されないことが多いので注意すべきとの忠告を受けています。不動産取引では「口約束」は実行されないことが多いと心得るべきです。
従い、もし「あなたには陽当たりの良い南側の住戸を提供しますから」などと言われたら、後日「言った、言わない」でもめることの無いよう「書面による確約」を取付けておくことが必須です。 住友不動産が書面での確約に応じない場合、その約束は実行されないと考えて下さい。不動産取引では、相手が誰であれ、約束ごとは必ず書面で確認しておくことが何よりも重要です。
6.まとめ
泉岳寺では今も地権者が受け入れ難い問題が山積しています。とりわけ、
「住戸の半数が一年中陽の当たらない地権者棟」
など地権者にとっては言語道断です。
「都市計画決定」の話どころではありません。
第一種市街地再開発事業の根幹をも揺るがしかねない大問題だからです!
私たちは解決を求めて、行政のみならず、一般社会へもこの問題を提起してまいります。
住友不動産(準備組合)もこの問題を真摯に受け止めた上で、港区が定義付ける
「地権者が自らの発意と合意により共同で進めて行く街づくり」を誰もが納得できるよう、公平・公正、そして透明性・客観性を持った形でやり直して貰いたいと切に願っています。