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(161)地権者に「事業リスク」がとれるのか?(続編)

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本トピックスは(160)地権者に「事業リスク」がとれるのか?からの続きです。

再開発(第一種市街地再開発事業)は「組合」(=地権者)が主体となり進める事業です。(注1)
そこで損失が発生すればそれを補填するのは原則として地権者となります。(注2)
特段の取り決めが存在しない限りデベロッパーではありません。

(注1) 第一種市街地再開発事業は、地権者が主体となり進める「組合施行」以外にも、公共団体施行、企業施行、個人施行、等、いろいろありますが、組合施行型が一般的です。
(注2) 厳密に言うと、「組合」は都市再開発法上の「法人」として「組合員(=地権者)」からは独立した存在です。このため「組合のリスク」が即時「地権者のリスク」となるのではなく、例えば「賦課金徴取決議」といったような組合内部の手続きを経た上でリスクが地権者へ転嫁される形をとります。何れにしても事業リスクを地権者がとる原則に変りはありません。

そうなると総工費が数百億円、或いはそれ以上の規模にも及ぶ再開発事業のリスクマネーを、果たして「地権者」が引き受けることができるのか?と言った疑問が生じて来ます。
本トピックスではこの問題をもう少し掘り下げて考えてみます。

一般的な「地権者」とは?

地権者にもいろいろあります。「個人」の他に「法人」もいますし、「神社」や「寺」、それに「公園」などもあります。「デベロッパー」が区域内で地上げを行えば、彼らも地権者です。
また再開発対象区域もいろいろです。商業地域では「法人」が中心となりますし、「公的機関」が所有する大規模な敷地が対象となるケースもあります。
しかし、数の上で一番多いのは「個人」ではないでしょうか?
一般に市街地再開発では住宅街(とりわけ古くからある住宅密集区域)が対象とされるケースが多く、そのような地域には「個人の地権者」が多く住んでいるからです。
古い住宅街ですから、ご高齢の地権者が多く居住しているのも特徴です。

個人の「地権者」は特に注意!

再開発が始まれば、このような個人の地権者(ご高齢の地権者を含む)にも巨額の「事業リスク」が生じることとなります。
再開発へ自らの意思で「同意」した地権者であれば本人の「自己責任」を問うことができます。しかし、再開発事業は「不同意」であった地権者に対しても一律に組合員として事業リスクを負わせてしまう点に問題があります。
また再開発事業では「リスク額」が大きいことに加え、金融機関のような、「個人の支払い能力」に対する事前の「審査制度」も整備されていないので、この点にも注意が必要です。

再開発を「住宅ローン」と比較してみた

住宅購入の際に個人が銀行から融資を受ける「住宅ローン」。「住宅ローン」では、年齢が70歳を超えると金融機関から融資を受けることが原則できなくなります。例え70歳を迎える前に融資が受けられたとしても、「80歳までの完済」が条件とされます。
80歳を超えると団体生命保険も付保できなくなります。
また、いわゆる「年金生活者」に対して銀行は基本的に融資を受け付けません。

なぜ金融機関はそこまで審査や条件が厳格なのか?

それは、金融機関は高齢者に対する与信リスクが高いことを経験則上知っているからに他ありません。

では、再開発事業の場合はどうなのか?
再開発事業におけるリスクマネーの規模は「住宅ローン」の比ではありません。
それにも関わらず、再開発では金融機関が行っているような個人に対する「事前審査制度」は存在しません。
存在しないのですから、「損失の負担額」に上限もなければ住宅ローンのような「年齢制限」もありません。
たとえ年金収入で生計を立てている80歳代、90歳代の高齢地権者であっても、他の地権者と同様に巨額の事業リスクを引き受けることになります。

なぜ再開発では厳格な審査や条件が設けられないのか?

それは再開発を実質的に主導するのは「地権者」ではなく、営利目的のデベロッパー(再開発事業者)だからだと考えられます。
彼らにとっては再開発を実現させることが目的であり、その過程で「事業リスク」を引き受けるのは地権者の側ですから、デベロッパーにとっては「他人事」なのかも知れません。
また、彼らにとり「年齢」や「支払い能力」を理由に、地権者が次々と開発区域から抜けられたのでは「再開発事業」が成り立たなくなると言う事情もあると推測されます。
デベロッパー側はそれでよいかも知れません。しかし「事業リスク」を引き受ける地権者側(とりわけご高齢の地権者)としては、たまったものではありません!

都市再開発法も「事業に要する経費に充てるため、組合員に対し金銭を賦課金として徴取できる」(第39条)と定めているだけで、そこに「負担金の限度額」や「年齢制限」に関する規定はありません。
これが再開発事業(第一種市街地再開発事業)の現実なのです。

「住宅ローン」と「事業リスク」とでは多少観点は異なるものの、個人の支払能力への「事前審査」と言う点で、再開発は極めて無防備だと言わざるを得ません。

岡山県津山市の地権者たちは地獄を見た!

実際に地権者に「事業リスク」が及んだ典型例として、岡山県津山市の再開発事業があります。
【詳しくは、(55)地権者必見!再開発の破たん事例(その1)(56)地権者必見!再開発の破たん事例(その2)、をご参照下さい】

この事業では「損失額」があまりにも膨大であったため、地権者は権利変換で受け取った権利床の全てを賦課金として供出させられました。つまり資産(=権利床)の全てを失ったのです!
その結果、多くの地権者が自己破産を余儀なくされました。

なぜ事業は破綻したのか?その原因を一言で総括すれば、バブル崩壊と言う大きな経済変革が起きていたにも関わらず、デベロッパー(熊谷組)があたかも何ごともなかったかのように事業を進め、更に地権者側もデベロッパー側の甘い説明を鵜呑みにしてしまった結果、街の規模にそぐわない贅沢で巨大な再開発ビルを建ててしまい、結局それが処分できずに大きな損失を出してしまった点にあります。
多額の事業損失が出たとしても、地権者が大企業であれば何とか生き延びる手立てはありますが、個人の場合はそうは行きません。
再開発に夢を託した津山市の地権者たちは、結局土地資産のすべてを失い、長年住み慣れた土地から出て行かざるを得なかった。まさに「地獄を見た」ことになります。

まとめ

コロナ禍を契機に、「テレワークの普及」や「人口の郊外シフト」が進み、都心オフィスビルの需要停滞が鮮明になってきました。
日本経済新聞は2022年11月3日付朝刊において、都心の「新築ビル」の空室率は40%にも及ぶと報じました。あり得ないほどの高い率です。
従来の「好不況の循環サイクル」では説明のつかない、事業環境そのものの変革が起きている可能性があります。
再開発事業にとっては間違いなく逆風となります。
そのような状況下で再開発を進めれば、事業者は大きな「事業リスク」を覚悟せざるを得ません。個人の地権者にはあまりにも酷ではないでしょうか?
立派な再開発ビルを建てても、床が処分できず損失が生じれば、それを負担するのは地権者です。デベロッパーではありません。

地権者は「事業リスク」を軽く考えるべきではありません!

多くの地権者が資産(=権利床)の全てを失い、自己破産を余儀なくされた岡山県・津山市の破綻事例は、決して「対岸の火事」ではありません。地権者はこの事例をしっかりと心に刻み付け、決して忘れないようにすべきではないでしょうか?

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