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(163)「保留床買取り」の落とし穴

投稿日:2022年12月19日

準備組合の曖昧な説明にはご注意あれ!

住友不動産は本当に保留床を買取るのか?との地権者からの質問に対し、当地区の準備組合は彼らの定期刊行物である「準備組合ニュース」を通じて「住友不動産は保留床の買い取りを約束している」と報じました。
しかしここで「ああ、よかった」と手放しで喜ぶべきではありません。

大きな落とし穴が潜んでいるからです!

そこには住友不動産が「市場価格で買う」ことについての言及が一切ありません。
市場価格より安ければ誰だって買いたいと思います。いくら住友不動産が買い取りを約束しているからと言って、準備組合の発する言葉に安堵していたら、いつの間にか住友不動産に保留床を破格の安値で買われてしまうかも知れません。
もし住友不動産が安値で保留床を買い取れば、安く買われた分だけ地権者側は損をすることになります。地権者はこの点に注意すべきです。

なぜ地権者が損をするのか?

それは住友不動産が当地区で進める再開発は第一種市街地再開発と言い、組合員(=地権者)が事業リスクを引き受ける形の事業だからです。
この形態の事業のもとでは、せっかく立派な再開発ビルを建てても、もし保留床を適切に処分することができずに損失が発生すれば、期待利益の逸失(注1)も含めて地権者側が損失を負担しなければならないからです。特段の取り決めが存在しない限り住友不動産ではありません。

(注1)逸失利益とは、本来得られる筈だったが得られなかった利益のことを言います。まさに「得べかりし利益」であり、これも損失の一つと言えます。

住友不動産が全国各地で推進する再開発計画の多くはこの「第一種市街地再開発事業」の形態であると思われます。住友が再開発を進める手法はどこもほぼ同じですので、各地の地権者の皆さまもぜひ本トピックスを参考にして頂きたいと思います。

住友不動産の思惑

住友不動産の思惑は

保留床を出来るだけ安価で手に入れようとする

点にあります。
住友不動産は営利目的で再開発を進めようとする不動産業者ですから、自社の利益極大化を図るため「いかに安く保留床を買うか」に関心が向くのは当然の事です。そのこと自体は決して悪いことではありません。
しかし彼らは再開発のプロですから、当然自社の息のかかったコンサルなどを起用して相場より低い「保留床単価」を算出させ、地権者の無知に乗じ、あたかもそれを合理的な価格に見せかけると言った不当な手法を用いて安値買取りを実行する可能性があります。現段階ではあくまでも懸念に過ぎませんが、もし実際にそんなことをされたら地権者は損をしてしまいます。従い、地権者はそのような事態とならぬよう、「保留床の算出」方法に関しては予め細心の注意を払う必要があります。

住友準備組合の不自然な対応に注目!

だからこそ当地では、準備組合が住友不動産と締結した「事業協力に関する覚書」を開示させ、そこに「住友不動産が市場価格で買う」ことが明記されていることを確認する必要があります。
しかし当地の準備組合はその「覚書」を地権者へ開示しようとしません。
日頃から「地権者が主体」であることを標榜する準備組合が、その構成員である地権者に対して住友不動産と締結した基本覚書さえ開示できないと言うのですから明らかに不自然です。
やはりそこには開示できない理由があると考えざるを得ません。

また「保留床の買い取りを約束している」と言っているのは「準備組合」と言う任意団体にすぎない点にも注意が必要です。肝心の買い手とされる住友不動産は一切沈黙したままである点も極めて不自然です。

「覚書の不開示」や「住友不動産の沈黙」と言った彼らの言動を見る限り、やはり「住友が市場価格で買う」取極めなど最初から存在しなかったと推測せざるを得ません。住友が後日安値で購入できるよう、意図的にそのような条文を「覚書」には明記せず、準備組合側も「力関係」や「契約への知識」の差からそのことを黙認せざるを得なかったのでしょう。
いくら準備組合が「地権者が主体の組織」だと主張したところで、準備組合が住友不動産から数億円単位の融資まで受けて活動している以上、その実態は住友不動産の「御用組合」だと見做すのが自然です。
従い、準備組合が住友不動産と締結したとされる「事業協力に関する覚書」も、実は住友不動産側が起草し、内容が専門家により吟味されることも無く、住友不動産に言われるまま準備組合の代表者が調印してしまった可能性が否めません。当然、「覚書」の中身も地権者側にとり不平等な内容となっていることが十分想定されます。
準備組合が「地権者が主体の組織」を標榜しながらも、その地権者に対して「覚書」の全文を開示しないのは、まさにそのような事情があってのことだと推測されます。開示しないのではなく、開示できないのでしょう。

まとめ

再開発事業には、一般の地権者にはわかりにくい落とし穴が随所に散見されますので注意が必要です。
住友不動産を「有名企業だから」、「事業協力者だから」、「参加組合員だから」と言って安易に信用し、全てを任せきりにすると後日後悔することになります。住友不動産と地権者とでは利害が全く異なるからです。
住友不動産が実質主導する「準備組合」に対しても同様の注意が必要です。

このような住友不動産の一連の進め方を、地権者の「無知」、「無関心」、「他人任せ」に乗じた不当な手法だと批判する意見もありますが、地権者の側もまた自らの「無知」、「無関心」、「他人任せ」の姿勢を改めるべきではないでしょうか?

再開発は地権者の大切な土地資産を供出することにより初めて成立する事業であり、且つ、地権者の将来の生活再建や人生設計にも大きな影響を与える大事業です。それだけに再開発は地権者自身の問題であり、「無知」、「無関心」、「他人任せ」と言った姿勢は改めるべきです。
これを怠れば後日「こんな筈ではなかった」と後悔することになります。
まさに岡山県津山市で起きた再開発事業の破綻事例が如実にそのことを語っています。
【詳しくは、(55)地権者必見!再開発の破たん事例(その1)(56)地権者必見!再開発の破たん事例(その2)、をご参照下さい】
「歴史は繰り返す」と言う名言がありますが、津山市の悲劇が繰り返されること無きよう、最大限の注意と努力を払うのが地権者の責務ではないでしょうか?

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