3本の矢は、もともとは戦国武将が「領土を守るための戦術」として説いた教えですが、今や一部の再開発事業者がこれを「地権者から開発利益を奪い取るための戦術」として利用し始めたようです。地権者の皆さまはご注意ください。
その再開発事業者が放つ「3本の矢」とは次の3つです。
《目的》 地権者にそう信じ込ませることで権利床を最小限に
抑え、残りの床を保留床として独占!また権利変換
者と転出者とを分断させる目的も併せ持つ
《目的》 自社の息のかかった鑑定士等に激安価格を算出さ
せ、それを既成事実化させることで保留床を独占!
《目的》 激安単価なら地権者だって床を買いたい!しかし、
地権者にはそうさせず自社だけで保留床を独占!
再開発業者は3本の矢のどれもが、あたかも正当であるかの主張をしてきます。しかし、彼らの主張は「地権者は無知である」との前提の上に成り立っているため、実は論拠に乏しい主張ばかりなのです。このことに気づけば、地権者は自信を持って再開発業者と渡り合うことが出来ますし、また彼らの主張を正論で論破することも容易となります。
本トピックスでは業者が放つ「3本の矢」の具体的手口を、その対策と共に皆さまへ詳しくお伝えして参ります。
地権者をカモる「3本の矢」
【1本目】 開発利益なしの従前評価方針
再開発は地権者が土地を供出した上、事業リスクまで負いながら進める事業ですから、再開発で創出される膨大な面積の床、即ち「開発利益」を地権者が享受するのは当然の権利です。
しかし、多くの再開発業者はこの点には触れようとせず、
「地権者は従前評価に応じた権利床を取得する」などと地権者に本質を理解させない曖昧な説明を繰り返すことで、いつの間にか自社で「開発利益」を独占してしまおうと画策するようです。
彼らの指導に従えば「地権者は等価交換して終わり」と言う結末となりかねませんので、くれぐれもご注意ください。
上記イメージ図で言えば、再開発ビルにおける地権者の権利床を業者側が先に「従前評価額(=等価交換相当額)」だと決めつけてしまうことで、残った床面積をすべて再開発事業者(=参加組合員)が獲得してしまおうとする算段です。
また再開発業者側は、開発利益なしの従前評価方針を既成事実化させることで、地権者を分断させようとする意図も見え隠れします。
再開発業者が何よりも恐れるのは地権者が一致団結して業者側に対抗してくることですから、業者としては、開発利益の希望が残る「権利変換者」とそうでない「転出者」との間で待遇の差をめぐり両者を分断させ、あわよくば互いに争わせることで、地権者が一致団結して業者に対抗して来る可能性を削ぎたいと言う目論見です。「漁夫の利」とはまさにこのことを言います。地権者はこの点にもお気を付けください。
尚、開発利益についての更なる詳細は、
(180)「開発利益」をめぐるカラクリと手口をご参照下さい。
【2本目】 激安「保留床単価」の設定
「保留床単価」の設定は再開発事業者の最大の関心事です。
「保留床単価」が低いほど再開発事業者(=参加組合員)の得る保留床面積は増えるため、彼らの収益性は高まります。
(一方で保留床が増える分、地権者の権利床は減ります!)
彼らは営利企業ですから「激安の保留床単価」を演出してでも再開発ビルの床(保留床)を最大限確保したいと考えます。
業者によっては、地権者の権利床面積を削ってでも自社の
保留床を増やそうとしますので厄介です。
さて、この目的を実行するために一部の再開発業者が仕組むのが、「準備組合/組合組織の傀儡化」から始まる一連の壮大なシナリオです。時系列で以下の通り纏めてみました。
【保留床を総取りするためのシナリオ】
① 素人役員ばかりを集め準備組合/組合組織を傀儡化させる
↓
② それらの組織内に業者自らが事務局として入り込む
↓
③ 自社の意向に従う「鑑定士」や「コンサル」を起用する
↓
④ 起用した鑑定士等を使い「開発利益なしの従前評価方針」へと地権者を誘導
↓
⑤ その従前評価方針により、「権利変換者」と「転出者」とを対立させ、地権者の分断を謀る
↓
⑥ その間に起用した鑑定士等に「激安の保留床単価」を算出させる
↓
⑦ 算出された「単価」を傀儡化した組合役員たちに追認させる
↓
⑧ 最後は、地権者が分断された状態の中で委任状中心の組合総会で「激安単価」を決議してしまう
さて、皆さまの再開発地区における状況は如何でしょうか?
一部の業者が設ける上記の仕掛けには警戒が必要です。また再開発業者は地権者にとり「利益が相反する相手」ですから、その業者の指導に従えば、地権者が本来得られる筈の権利床面積を失う危険性があることも併せご認識下さい。
この事態を防ぐには「保留床単価」が、
中立的な「第三者機関」により、
「近隣相場に準拠」して算出されることの確約を
業者(参加組合員)から事前に書面で取付ける
ことが何よりも重要です。商取引の世界では当たり前の要求ですので、地権者だからと言って遠慮する必要などありませんし、また極めて重要な点ですので譲歩もすべきではありません。
尚、「保留床単価」についての更なる詳細は、
(178)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(前編)、
(179)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(後編)、
をご参照下さい。
【3本目】 地権者への「増床制限」
1~2本目の説明をご理解頂ければ、もう3本目の説明は不要かもしれません。再開発業者は地権者が無知、無関心であることを見越してか、相場の半値と言った「保留床単価」を平気で提示してくる実態も各地からの報告でわかってきました。
これほど安く床が購入できるのなら地権者だって床を買い増したいと考えるのは当然です。安く買って転売すれば売却益が期待できるからです。しかし地権者に増床を許せば、そのぶん再開発業者の得る保留床は減ってしまいます。そのような事態とならぬよう再開発業者が地権者に対して設けるのが「増床制限」なのです。
しかしよく考えて見れば、これは「自分たちは安い単価で独占的に床を手に入れるが、地権者にはそうさせない」と言った業者側の身勝手なルールそのものです。一部業者のこの矛盾だらけの再開発の進め方にいち早くお気づきください。
尚、増床制限についての更なる詳細は、
(182)業者が設ける「増床制限」の手口にもご注意あれを
ご参照下さい。
まとめ
今回取り上げた「3本の矢」は、何れも再開発業者が保留床(=開発利益)を独占する目的で放つ矢であることをご認識下さい。
業者側の保留床が増えれば、そのぶん地権者の「権利床」面積が減ることも併せご認識ください。(例えば、地権者が権利変換で本来得るべき床面積が、当初予定の7割、8割に減ってしまうと言った事態が往々にして起きます。)
では「3本の矢」をどう捉えるべきかの結論を申し上げます。
再開発(第一種市街地再開発事業)は地権者が主体となり進める事業ですから、この原則に従えば、
*「従前評価方針」を策定するのは地権者側です!
再開発業者ではありません。業者に決定権などない筈です。
*「増床制限」の内容を最終判断するのも地権者側です!
再開発業者ではありません。制限は「業者の単なる希望」にすぎません。
*「保留床単価」の決定に於いてのみ、地権者と再開発業者(=参加組合員)、双方の合意が必要となります。なぜなら再開発業者(=参加組合員)は保留床を購入する当事者でもあるからです。
以上のメカニズムをご理解いただけたでしょうか?
もちろん、最終決定に際しては行政との協議も必要となりますが、少なくとも再開発事業者に関する限り、彼らが決定プロセスに深く関与できるのは「保留床単価」に際してのみと言うことになります。決して業者側のレトリックに惑わされてはいけません。再開発業者が主導しようとする再開発取引にはこのような「矛盾」と「落とし穴」が数多く存在しますので地権者は細心の注意が必要です。
また再開発業者側の主張を安易に信じるべきではありません。
彼らは地権者とは「利益が相反する相手」だからです。
彼らが不当に「保留床」を増やせば、そのぶん地権者の「権利床」が減ってしまうことを肝に銘じてください。
冒頭でも記しましたが、再開発業者は3本の矢のどれもが、あたかも正当であるかの主張をしてきます。しかし、彼らの主張は、実際には論拠に乏しい主張が目立つのでご注意ください。
彼らは都市再開発法の曖昧な条文を都合よく解釈するのが得意で、その解釈を関係先の専門家(コンサル、鑑定士、弁護士、等)に説明させることであたかもそれが正論であるかの演出を行い、最後は傀儡化した組合を使い、委任状ばかりの組合総会で承認させると言った一連の仕掛けで地権者を畳みかけようとしますのでくれぐれもご注意ください。
最後になりましたが、今回取り上げた「3本の矢」に関する記述はあくまでも一部の再開発業者が実践する手口を解説したものであり、全ての再開発事業者がそうだと断じるものではありませんのでこの点お含み置きください。実際にそうであるか否かは本トピックスを参考にして頂きながら、各地域の皆さまにてご判断願います。