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(218)住友の錬金術(続編):もしも保留床単価が適正だったら・・・

投稿日:2024年5月11日


本トピックスは(217)住友の錬金術:1,300億円の事業で含み益が1,300億円?の続編です。
前トピックスでは、南池袋二丁目C地区の再開発事業に於いて

住友不動産側が
「総事業費1,279億円」の再開発で
なんと「含み益1,364億円」を得る

驚くべき試算結果が出たことを報じました。そしてその

大儲けのカラクリは「激安保留床単価」にある

ことを報じました。更には、住友不動産の錬金術の裏で

犠牲となるのは地権者である

ことも報じました。では、

もし「保留床単価」が適正水準であったなら、
地権者はどれだけの「権利床」を得られたのか?

本トピックスではこの点を検証してみます。

前トピックスで集めた事業計画数字をもう一度

本来得られた筈の「権利床面積」を試算してみる!

前トピックスでは近隣の分譲相場が約750万円/坪であることから、住友不動産が本来購入すべき保留床の適正単価は概ね600万円/坪(業者の粗利20%差引後の適正単価)であると報じました。
しかし、住友不動産側が設定した保留床単価は306万円/坪でした。
言うまでもなく、これは近隣相場の半値と言う激安単価です。

そこで住友の購入単価が「激安306万円」の場合と「適正600万円」の場合とで、地権者の得る権利床面積がどれだけ変化するのか?
この点を試算してみました。結果は下図の通りです。

【激安単価306万円/坪の場合】
再開発ビル(タワマン)の総床面積36,506坪の内、住友不動産側は激安単価を設定したことで保留床30,749坪を取得します。
従い、差し引き権利床面積は5,757坪となります。

総床面積36,506坪 – 保留床30,749坪 = 権利床5,757坪

【適正単価600万円/坪の場合】
このケースでは住友不動産の得る保留床面積は15,700坪となります。

保留床処分金942億円÷保留床単価600万円/坪 = 15,700坪

従い、差し引き権利床面積は20,806坪となります。

総床面積36,506坪 – 保留床15,700坪 = 権利床20,806坪

【結論】
適正単価を採用することで地権者の得る権利床面積は5,757坪から20,806坪へと一挙に3.6倍も増える試算結果となりました。
再開発ではすべてが交渉事ですから、実際に地権者が試算通り3.6倍もの床面積を得られるかは別問題です。しかし、

住友不動産の大儲けの錬金術が
地権者の犠牲の上に成り立っている

ことが上図からはっきりとご確認頂けたかと思います。
(もし適正な保留床単価が適用されれば住友不動産側の「含み益」が1,364億円から235億円へ激減する点も併せご認識下さい。)
この実態を知れば、地権者が当事者意識を持たず、無知、無関心、他人任せでいることが如何に恐ろしいことかがおわかり頂けるかと思います。

昨今の事業費高騰にも注意が必要!

実は再開発事業にはもう一つ大きな壁が立ちはだかっています。
世界的な建築資材の値上がりや職人不足などで、ここ数年、再開発に関する総事業費が急騰していることです。
総事業費の高騰はトピックス(215)でも検証した通り、業者側の「保留床単価」を引き上げない限り、権利床面積を減少させる要因となります。
それだけに地権者は「保留床単価」に対して厳しい目を持つことが要求されます。業者が一方的に設定する「激安保留床単価」など論外です!
「激安保留床単価」や「事業費高騰」が権利床面積に及ぼすイメージは
以下の図の通りです。

詳細は(215)「事業費高騰」で地権者はこれだけ損する!をご覧ください。

まとめ

前トピックス(217)を含め、私たちが今回行った一連のシミュレーションにより、

地権者の利益を犠牲にしても、
自社利益の極大化にまい進する

住友不動産の企業姿勢

が地権者目線からはっきり見えてしまった感があります。
もし私たちのこの認識が正しくないと言うのであれば、住友不動産は各地区の再開発現場で事業計画数字を開示した上で、地権者に対してしっかりと説明責任を果たすべきです。
住友不動産は事業計画の開示要求に対し、「今は回答できない」、「組合設立後にお示しします」などと言ったその場しのぎの弁解を決して行うべきではありませんし、更には「自分たちは単なる事業協力者に過ぎないので準備組合へ問い合わせてほしい」などと言った詭弁を使って逃げるべきではありません。(注1)

(注1)再開発は市民の税金まで投入される公共性の高い大規模投融資事業ですから、住友不動産のような大手企業ともなれば、当然、準備組合設立前の段階から詳細なる「事業計画書」が存在しています。存在していないなどあり得ません。それをいつまでも事業主体である地権者に対して開示しないのは極めて不誠実であり、地権者に知らせたくない何らかの理由(=手の内を見られたくない等)があるからだとご理解ください。

また住友不動産が数字に基づく具体的な事業計画を地権者へ示さないまま各地で「都市計画決定」や「組合設立」に持ち込もうとする行為は言語道断であり、即刻止めるべきです。
そもそも住友不動産は地権者へ基本情報を知らせようとしない一方で、なぜ「同意書」だけはしっかり地権者から取り付けようとするのか?
考えれば考えるほど、この会社への疑念は深まるばかりです。

もし再開発が地権者の利益になるとの確証があるのなら、
地権者の疑問や要望に率直に答え、
隠し事などせずにそれらを具体的に書面で提示する。
これこそがデベロッパーの役割であり責務です!

住友不動産はこのことを今一度しっかりと認識すべきです!
各地の地権者が情報共有を通じて連携し始めた今、過去の住友不動産の一方的なやり方はもう通用しません。
地権者は見ています!

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