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(240)(配布資料に見る)「地権者をカモる3本の矢」

投稿日:2024年12月2日

一部の再開発業者は「開発利益」の自社独占を図るため、「3本の矢」を地権者に向けて放ち、地権者が開発利益を享受できない仕組みを作り上げようとすることがわかって来ました。
「3本の矢」とは、以下の3つを言います。(注1)
【1本目】 開発利益なしの「従前評価方針」
【2本目】 激安「保留床単価」の設定
【3本目】 地権者への「増床制限」

(注1) 「3本の矢」のそれぞれについては、下記のトピックスで詳しく
解説していますので、是非ご参照ください。
(199)地権者をカモる「3本の矢」!
(211)地権者をカモる「3本の矢」!(続編)

3本まとめて矢が飛んで来るのですから防御は簡単ではありません。
しかも、これら「3本の矢」は業者が配布する資料の中にそれとなく仕組まれていることが多いので地権者は注意が必要です。
本トピックスでは、三菱地所の配布資料を再び事例として取上げます。
現場は前トピックス(239)でも取り上げた「芝三丁目西地区」です。
資料内に含まれる開発利益独占に向けた巧みな説明や仕掛けを、今回は「3本の矢」の観点から検証して参ります。

 

Contents
1.三菱の資料から「3本の矢」が見えてくる!
2.「1本目の矢」について
3.「2本目の矢」について
4.「3本目の矢」について
5.まとめ

三菱の資料から「3本の矢」が見えてくる!

 

1本目の矢について

先ずは、「1本目の矢」(=開発利益無しの従前評価)について解説します。
イメージ図右下の「権利床単価270万円」にご注目下さい。
保留床単価440万円と比較して大幅に低く設定されているため、地権者は一見すると「得をした」と思い込みがちですが、実はそうではありません。
なぜなら権利床単価はイメージ図左側にある再開発施設の「算定価格1,930億円」なる数字を基準に算出されているからです。
1,930億円と言うのは「従前評価の総額」に「補助金控除後の総事業費」を加えただけの単なる事業原価(=原価を積み上げただけの施設の価格)にすぎません。
そこには開発利益(=再開発で新たに創出される床の地価上昇分)が含まれていないことにご注目ください。つまり開発利益分を従前評価には反映させないと言うのが資料から見える三菱側の方針だと考えられます。

ここが「地権者をカモる1本目の矢」です!

おそらく三菱側は権利床単価270万円を地権者に「安い!」と錯覚させることでこの「開発利益無しの単価」を地権者に黙認させ、「イメージ図」に明記された通りの権利床面積57,000㎡(=17,000坪)でさっさと権利床を確定させてしまいたいのだと考えられます。そうすることで、三菱側は労せずして残りの床面積をすべて保留床として獲得できるからです。

もし地権者がこのカラクリに気付かずに問題を提起しないでいると、いつの間にか「開発利益無しの従前評価」が既成事実化されてしまい、気が付けば「地権者は等価交換して終わり」となりかねませんのでご注意ください。

2本目の矢について

次に「2本目の矢」(=激安保留床単価の設定)について解説します。
2本目の矢は実は1本目と表裏一体の関係にあります。
今度はイメージ図右上の「保留床単価440万円」にご注目下さい。
権利床単価270万円と比較して大幅に高く設定されているため、地権者は「三菱は高く床を買ってくれるので良心的だ!」と思い込みがちですが、実態はそうではありません。440万円と言う単価自体に問題があります。
実は「440万円」と言う数字はイメージ図左側にある再開発施設の「算定価格1,930億円」をベースに、意図的に安く算出された「単価」なのです。
1,930億円と言うのは開発利益が含まれていない、いわゆる原価ベースで計算された再開発施設の価格ですから、保留床単価が低くなるのは当然で、その仕組み上どう操作してもそれが近隣地区の実勢相場に近づくことは有り得ず、結局は「激安保留床単価」に落ち着くと言うカラクリです。
「保留床単価は低いほど保留床面積は増えて三菱は儲かる」と言う仕組みが地権者に気付かれぬよう、巧みに考案されたカラクリだと言えます。
まだよく理解できないと言う方は、以下の図説も参考にしてみてください。

要約すれば、三菱の目論見は原価ベースの激安単価で床を仕入れ、それを竣工後に実勢価格で売却して大儲けしようとする点にあり、そのために資料を用いて地権者が440万円と言う激安単価を「妥当だ」と思い込ませるよう印象操作を図ったものだと推測されます。

ここが「地権者をカモる2本目の矢」です!

昨今、近隣地区のタワマンでは(トピックス239でも報じた通り)最低でも坪単価1,300万円以上で物件の販売が行われています。
三菱が言う「保留床単価440万円」が如何に相場を無視した激安単価であるかがおわかり頂けるかと思います。
地権者を「等価交換して終わり」へと誘導する一方で、自分たちは最低でも坪1,300万円以上で売れる床を坪440万円で購入して儲けようとするのですから、もしこれが事実とすればこれ以上の不平等はありません。

このような説明は他地区の資料にも散見されますので、各地の地権者の皆さまも、業者が配布した資料を再確認されてみては如何でしょうか?

3本目の矢について

最後は「3本目の矢」(=増床制限)についてです。
三菱の「収支計画表」右下にある「増床負担金」の項目にご注目下さい。
ここには、通常はある筈の「増床負担金額」の計上がありません。
これは即ち、「地権者には最初から増床させない」ことを示唆しており、地権者には極めて厳しい対応です。
(注2)

(注2) 「増床」とは、一般には地権者が床を有償で追加取得することを言いますが、「増床」が増えるとその分保留床面積は減るので業者はこれを嫌がります。しかし地権者の一部は様々な事情から、権利変換の床面積に加えて「増床」を強く希望するため、多くの再開発現場では、制限付きで「増床」が認められています。

そもそも「保留床単価が激安なら地権者だってその単価で床を買い増したい」と考えるのは当然です。激安価格で購入して転売すれば利ザヤを稼げるからです。またそれ以外にも様々な理由で増床したいと考える地権者が多く存在します。「権利変換率が低く部屋が狭すぎる」、「家族が増えた」、「二世帯で住みたい」、「賃貸用にもう一区画ほしい」、等々。
しかし保留床の安値総取りを狙う再開発業者にとり「地権者の増床」は「自社の保留床面積の減少」を意味しますので増床を認めたくありません。
そこで業者側は様々な理屈をつけて増床に制限を加えようとします。
(三菱の場合は「制限」どころか増床自体を「否定」しているようです)

これが「地権者をカモる3本目の矢」です!

しかし彼らに動じる必要などありません。なぜなら「増床を認めるか否か」は本来は地権者(=再開発組合)が決める事柄であり、業者に決定権などないからです。業者側の「増床を認めない」或いは「制限を加えたい」との主張は、自分たちの儲けを地権者には取られたくないと言う「身勝手な考え」に過ぎず、保留床の安値独占を目論む再開発業者(=参加組合員)側の単なる希望に過ぎないことを先ずはご認識下さい。(注3)

(注3) そうは言っても、業者側は「再開発組合」を傀儡化することで、巧みに地元役員たちを誘導し、総会決議のもとで合法的に「増床制限」をかけようと工作して来ますので、この点にも警戒しておく必要があります。

まとめ

一部の再開発業者が「開発利益を独占する目的」で地権者に対して放つ「3本の矢」は、彼らの配布資料内でも随所で確認することができます。
今回は三菱地所が配布した資料を使ってそのことを検証してみました。
業者側の狙いは、

1本目の矢で地権者を「等価交換して終わり」へと追い込み、

2本目の矢で再開発業者側が「激安単価で保留床を独占」し、

3本目の矢で地権者による「激安単価での増床を制限」する、

と言うものですが、厄介なのはこれら「3本の矢」(=落とし穴)が、業者側が配布する膨大な資料の一角にそれとなく書き込まれると言う点にあります。今回取り上げた三菱地所の資料も例外ではありません。
地権者側がそのような「落とし穴」に気付かないままでいると、いつの間にかそれが既成事実化されてしまったりするので注意が必要です。

【地権者はどう対応すれば良いのか?】

百戦錬磨の再開発業者が次々と放つ「3本の矢」を、知識と経験において劣る地権者側が避け続けることは決して簡単ではありません。
問題点を指摘しても、彼らは論拠に乏しい主張を並べ立てて強引に正当化しようとしますのでなおさら厄介です。しかし狡猾な業者を相手に打つ手が全くないわけではありません。
「矢」ですからその飛距離には限界があります。この様な業者とは(矢が飛んでこないよう)「一定の距離」を保ち、決して彼らには近づかない(=対話しない、資料を受け取らない)ことも重要な防御策の一つではないでしょうか?(注4)

(注4) あくまでもこれは狡猾な再開発業者に対する防御策です。
本来、再開発は住民主体で進める「街づくり」ですから、誠実な業者とはむしろ積極的に話し合い、様々なアイデアを検討して行くことが理想です。
一方、地権者の犠牲のもとに開発利益の独占を図ろうとする業者に対してはこの限りではありません。その様な先に対しては「相手にしない」ことこそが有効な防御策となり得ます。「触らぬ神に祟りなし」とはまさにこのことを言います。

特に、まだ再開発など何も正式には決まっていない「都市計画決定」以前の準備組合段階で地権者が一定人数の集団でこれを実践するならば、極めて有効な防御策となり得る筈です。(注5)

(注5) 例えば泉岳寺地区では、権利率換算で合計15%に相当する地権者が「住友不動産」並びに「準備組合」に対し絶縁状を提出しています。絶縁ですから住友不動産は絶縁者と連絡を取ることさえ許されません。港区は地権者の概ね80%の同意を「都市計画決定」の判断基準としているため、この15%の絶縁者の影響力は甚大です。その効果なのかは定かではありませんが、住友側は2024年の年初から(少なくとも表面上は)活動を停止しており、「準備組合事務所」も今や実質閉鎖された状態にあります。

以上、業者の配布資料にそれとなく仕掛けられる「3本の矢」について警鐘を鳴らしました。 本トピックスが少しでも地権者の皆さまの参考となれば嬉しい限りです。

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