泉岳寺地区では住友不動産が7年間続けた勧誘活動を表向きは停止したようです。
再開発の前提となる「地権者の同意」が集まらないのですから当然だと言えます。
しかしそのような場合、一部の再開発業者は、表面上は活動停止(=死んだふり)を装いながら、
水面下で裏工作を行う
ことが知られていますので地権者は注意が必要です。
公平・公正、且つ透明性を保つ形で地権者の合意形成がなされるのであれば何ら問題はありませんが、それが人為的に歪められてしまうところに問題があります。
実際に各地からも様々な裏工作の事例が寄せられており、中には訴訟へ発展したケースもあるようですので、地権者側としては予め業者の裏工作の種類と概要について知っておく必要があります。何ごとも「備えあれば憂いなし」です。
1.一部の再開発業者が行う裏工作はこれだ!
2.地権者に必要なのは「相手を疑う目」
3.まとめ
一部の再開発業者が行う裏工作はこれだ!
裏工作にはそれこそ大小様々なものが存在し、中には当方も感心する(=あきれる)ほど緻密に練られたものまで報告されていますが、本トピックスでは一般的に見られる裏工作として以下の3つの手口を取り上げて解説します。
1.土地の細切れ分筆
2.地権者の買収
3.同意書の偽造・変造
1.土地の細切れ分筆
これは業者側が所有する一筆の土地を、まるで「羊羹を切る」ように何筆もの土地へと分割(=分筆)することで地権者数(=同意者数)を増やし、都市再開発法が定める「地権者全体の三分の二の同意」を人為的に達成しようとする行為です。
たとえ「分筆」手続き自体は合法であっても、「都市計画決定」や「本組合設立」の直前に業者側が実行する「細切れ分筆」が再開発推進を目的としたものであることは明白であり、地元の民意を人為的に歪める行為であることに疑いの余地はありません。実際に分筆をめぐり各地でトラブルとなったケースが複数報告されています。
2.地権者の買収
これは業者側が特定の地権者へ密かに金銭その他の利益供与を行う見返りに「再開発への同意」を取得しようとする行為です。
「買収行為」は、それが社会常識の範囲内で行われる限りにおいては企業の正当な経済活動の一環だと見做される場合がありますので、違法性・不当性の有無については個別事例ごとに判断して行く必要があります。
再開発で問題となるのは、地権者への利益供与が社会常識から著しく逸脱した形で行われる場合です。特定の地権者に対して「優遇的な従前評価」を行ったり、「高額な金品や不動産を供与」したりするケースがこれに該当します。
再開発は市民の税金まで投入される公共性の高い事業であることから、公平性や透明性が厳しく問われることを地権者一人一人が認識することが肝要です。
3.同意書の偽造・変造
同意書の偽造とは、作成権限のない者が文書の名義人の許可なく勝手に同意書を作成する行為を言い、また変造とは文書の名義人でない者が既に存在する文書の一部または全部を無断で変更する行為を言います。
これらの行為は「地権者の合意形成」を故意に歪めようとする悪質な行為であり、刑法第159条の「私文書偽造・変造罪」にも該当し得る犯罪行為です。
まさか大手業者がそんなことをする筈はないとお思いでしょうが、過去には裁判の過程で「同意書の偽造」が発覚し、業者側がその事実を認めた事例まで存在しますので注意が必要です。
地権者に必要なのは「相手を疑う目」
再開発事業では様々な「裏工作」が確認されているだけに「相手は大手の再開発業者だから任せておけば大丈夫だろう」と言った考えは直ちに捨て去るべきです。
一般に再開発の勧誘に地権者の元へやって来るのは誰もが知る大手不動産業やゼネコンなどの社員たちです。彼らは真っ先に名刺を差し出すのですぐわかります。名刺には有名企業名が書かれているだけに、地権者の多く(とりわけ高齢者層の多く)は、「○○不動産なら悪いようにはしないだろう」などと安易に相手を受け入れてしまいがちです。しかし、そこに「落とし穴」が潜んでいますのでご注意ください。
過去には再開発業者を信じたばかりに多大な損失が生じ、地権者が土地資産のすべてを失った事例まであるくらいです。
再開発業者は自らを「事業協力者」などと名乗っていますが、実態はそうではありません。彼らは地権者側とは正面から利害が対立する「利益相反相手」であることをしっかりと肝に銘じておく必要があります。彼らを安易に信用すれば開発利益をすべて持って行かれることになり兼ねません。(注1)
1. 先ず、再開発業者は「事業協力者」を名乗り準備組合内に入り込み「事務局」業務を一手に担います。
2. そして地元理事たちが大型投資事業の知識と経験に疎い素人たちであることに乗じて準備組合の運営主導権を握り、自社の息のかかったコンサルや鑑定士等を次々と採用することで自社利益が最大となる仕組み(=事業計画)を作り上げて行きます。
3. 彼らの最大の目的は自社の収益源となる保留床を激安単価で購入することにあります。このため傀儡化した準備組合や本組合に近隣相場の半値以下と言った「激安の保留床単価」を認めさせ、それを正当化・既成事実化させることに腐心します。
4. そして再開発の最終段階になると、なんと彼らは地権者側に寄り添う「事業協力者」から地権者とは利益が相反する「参加組合員」(=保留床の取得者)へと変身し、予め仕掛けておいた「激安保留床単価」を用いて再開発ビルの床(=開発利益)を安値で独占しようとするのです。(地権者からみれば「裏切り行為」であり、「飼い犬に手を噛まれる」とはまさにこのことを言います!)
5. 保留床単価が低いほど保留床面積は増えるので再開発業者は得をしますが、その一方で、権利床面積はその分減るので地権者は損をすることになります。
黙っていれば最終的に「地権者は等価交換して終わり」で処理され兼ねません。まさにこれが、再開発業者が「利益相反相手」である所以なのです。
当然のことながら、この様な業者を相手に「性善説」は通じません。再開発業者は地権者を犠牲にしてでも「自社利益を最優先」させる存在だと理解すべきです。(注2)
まとめ
再開発業者が組合事務所を閉鎖するなどして活動を停止(=死んだふり)すれば、一般に地権者は安堵して「警戒心」を緩めがちです。
しかし「死んだふりをする」こと自体が業者側による地権者攻略の手口である可能性がありますので、地権者は決して気を緩めるべきではありません。
一部の再開発業者はその間に水面下で「裏工作」を行い形勢挽回を図ろうとすることが各地との情報共有で明らかとなっているからです。
今回取り上げた代表的な裏工作、即ち
1.土地の細切れ分筆
2.地権者の買収
3.同意書の偽造・変造
の3点に関しては何れも各地で複数の事例が報告されており、中には訴訟に発展した事例までありますので、今後のトピックスで「ケーススタディ」として更に詳しく解説して行く所存です。
私たちは再開発事業を決して否定的には捉えてはいませんが、
再開発は「注意一秒、怪我一生」の世界
であることだけは、全ての地権者の皆さまに知って頂きたいと願っています。