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(247)業者の裏工作③:同意書の偽造・変造

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本トピックスも(244)再開発業者の「死んだふり」にはご注意あれ!からの続編です。
「地権者の同意」がどうしても集まらない場合、一部の再開発業者は、

水面下で様々な裏工作を行う

ことがわかって来ました。地権者は普段から注意が必要です。
トピックス(245)では「細切れ分筆」を、続くトピックス(246)では「地権者の買収」を取り上げ、皆さまへ注意喚起を行いました。本トピックスでは

同意書の偽造・変造

について取り上げ、事例と共に解説して参ります。

 

Contents
1.同意書の偽造・変造とは?
2.同意書等の偽造・変造事例
3.偽造・変造を見抜くには
4.まとめ

同意書の偽造・変造とは?

同意書の偽造とは、作成権限のない者が文書の名義人の許可なく勝手に同意書を作成する行為を言い、また変造とは文書の名義人でない者が既に存在する文書の一部または全部を無断で変更する行為を言います。
これらの行為は「地権者の合意形成」を故意に歪めようとする悪質な行為であり、
刑法第159条の「私文書偽造・変造罪」にも該当し得る犯罪行為です。
まさか大手業者がそんなことをする筈はないとお思いでしょうが、過去には裁判を通じて「同意文書の偽造」が発覚し、業者側がその事実を認めると言った事例まで存在しますので注意が必要です。

同意書等の偽造・変造事例!

象徴的な事件が東京都葛飾区内の「立石駅南口東地区」の再開発事業で起きました。準備組合の理事たちに(事務所内で保管されている)重要文書への閲覧が認められないことを不審に思った某理事が、情報公開を求めて令和元年に準備組合を訴えた事件です。結果は原告勝訴。裁判を通じて同意文書の捏造や各種書類の改ざんの事実が確認され、当時事業協力者として事務所に常駐していた某大手ゼネコン社員が自ら改ざんに加担していた事実を認めたそうです。
(更に、令和2年1月22日の判決言い渡し直後に同社は工事の受注辞退を表明)
裁判を通じ、再開発業者側が同意書等の偽造・変造を行っていた事実だけでなく、彼らが準備組合を実効支配することの弊害までもが明らかとなった形です。
詳しくはトピックス(54) 理事が準備組合を訴えた!をご参照ください。
また朝日新聞(2021年11月17日付夕刊)もこの事件を詳しく報じています。

偽造・変造を見抜くには

再開発は自己の土地資産の処分を伴う不動産取引ですから、業者側の説明を鵜呑みにせず、常に「性善説」ではなく「性悪説」を以て彼らと接して行く姿勢が大切です。(注1)
偽造・変造を見抜くのは簡単ではありませんが、「性悪説」の立場をとることで、重要文書への開示要求が高まり、また開示された文書に対しては内容の整合性合理的根拠を求めるようになるため、結果として偽造・変造を発見しやすくなります。(またこのような姿勢は相手側へ不正行為を思いとどまらせる抑止力にもなり得ます)

(注1) 性善説が「業者は常に思いやりがあり、且つ、清く正しく仕事をするのだから
彼らを信じて任せよう」と考えるのに対し、性悪説は「業者は狡猾で欲深いので何をするかわからない。だから常に注意・監視を行いながら付き合って行くべきだ」と考えます。文書の偽造・変造を見抜くためにどちらが有効かはもはや明白です。

再開発業者にとり「地権者による合意形成」は再開発推進の前提条件となるため、不正行為は主に「同意関連の文書」で行われる可能性が高いと推測されます。
とりわけ準備組合が行政に対して提出する様々な文書には注意が必要です。
以下は「性悪説」に立つ地権者が、行政から取得した1,000ページにも及ぶ黒塗りだらけの文書の中から見つけ出した変造が疑われる文書の事例です。

先ずは「画像①」をご覧ください。
これは住友不動産が主導する都内港区の「三田三・四丁目再開発」において、地権者が組合設立の許認可権者である東京都知事に対して提出した合計約150枚の「同意書」の一部です。行政へ情報公開請求を行ったところ、「日付欄」以外はほぼ全て黒塗りされた状態で公開されました。そこで仕方なく「日付別」に仕分け、「平成30年1月26日付」の同意書10枚を抽出して並べてみた結果が以下です。

次に「画像②」をご覧ください。
こちらは上記同意書10枚の「日付部分」を拡大したものです。
手書きで記入された「日付の筆跡」をよくご覧ください。(赤い矢印の部分)
素人目にも同一人物が記入したものであることが見てとれます。
因みに10名の地権者はそれぞれ別人です。

【解説】
この「同意書」は地権者各人の土地資産の処分に関わる実印付の重要文書であり、都市再開発法に基づき印鑑証明や登記簿謄本も添付された厳かな文書です。
飲食店等で客に発行される「日付無しの領収書」の類とは性格が全く異なります。
その様な重要文書を、たまたま同じ日に提出した10名全員が「日付の記入」を忘れてしまったとは常識的には考えられません。不自然だと考えるのが妥当です。

実はこの地区では「借地権者数の計算に不正があり、組合設立要件は満たされていなかった」として、平成30年に地権者の一人が東京都を相手取り「組合設立認可取消訴訟」を起こしています。上記10枚はその裁判での関係書類としても用意されました。原告は不正が行われた事実を争う予定でしたが、途中で和解が成立したようで、真相は闇のまま訴訟は取り下げとなってしまいました。(当HPでは原告への取材を試みましたが「守秘義務」が課されたようで、残念ながら取り下げの理由や和解金の詳細等を聞き出すことは出来ませんでした。しかしご本人から不満の声は聞こえませんでしたので、どのような結末であったかは皆さまにてご想像ください。)

まとめ

同意書の偽造・変造は、「地権者の合意形成」を故意に歪めようとする悪質な行為であり、刑法第159条の「私文書偽造・変造罪」にも該当し得る犯罪行為です。
多くの場合、文書の偽造・変造は再開発業者が牛耳る準備組合事務所内で行われると考えられます。(「立石駅南口東地区」の裁判事例がこのことを裏付けました)

もし皆さまの地区の準備組合で、理事長をはじめ地元理事たちが「事務所の鍵さえ持たされていない」と言った不自然な実態が認められるようでしたら要警戒です!
業者が準備組合事務所をブラックボックス化させている可能性が高いからです。

各地の準備組合では、地元理事たちが再開発業者側へ「業務を丸投げ」し「事務所へも出入りしない」ケースが散見されますが、このような「職務の放棄」ともとれる行為は実に危険な行為であることを理事たち自身が認識すべきです。
なぜなら立石の裁判では、「準備組合の理事である以上、もし不正が発覚したり事業が損失を被ったりすれば地権者から相当高額の賠償責任を問われかねない」ことが判決文に明記されたからです。もし理事たちに「不作為」や「業者への丸投げ」などの職務上の怠慢が認められれば、地元の地権者たちから法的責任を追及され、場合によっては自己の私有財産をすべて失う危険性があることを理事たちは認識する必要があります。

準備組合理事たちの責任は極めて重い!

のです。
さて皆さまの地区の準備組合は如何でしょうか?
業者に「細切れ分筆」、「地権者買収」、「文書の偽造・改ざん」、と言った不正行為を行う隙を与えない、真に地権者主体の開かれた組織となっているか、一度皆さまで検証されてみては如何でしょうか?

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