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(252)三菱地所に見る「地権者攻略」の手口

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本トピックスは(251)三菱地所に見る「激安保留床で大儲け」の仕掛けからの続編です。引き続き「芝三丁目西地区再開発」で三菱地所が実際に地権者へ配布した資料を使い、今回は地権者攻略の手口について解説して参ります。(注1)

(注1) 本トピックスにおいても引き続きデベロッパーとして関与する三菱地所三菱地所レジデンス丸の内よろずの三菱系3社を、まとめて「三菱地所」又は「三菱」と呼ぶことにします。

Contents
1. 先ずは三菱が地権者へ配布した資料から
2. 配布資料から三菱の手口を探る!
3.まとめ

先ずは三菱が地権者へ配布した資料から

前トピックスに引き続き三菱地所が2021年及び2024年の二度にわたり地権者側へ配布した資料を掲載しますのでご覧ください。

配布資料から三菱の手口を探る!

手口その①: 地権者に「誤り」を「真実」だと錯覚させる!

先ずご注目いただきたいのは、権利床単価(270万円)が保留床単価(440万円)よりも大幅に低く設定されている点です。これは地権者に「得をした」と錯覚させる効果を狙った「落とし穴」だと考えられます。(注2)

(注2) 例えば、ある地権者の従前評価額が5,000万円だったとします。その地権者が得る権利床面積は、
[単価440万円/坪の場合] 5,000万円÷440万円=11.36坪ですが、
[単価270万円/坪の場合] 5,000万円÷270万円=18.52坪となるので
両者を比較して地権者は7.16坪分「得をした」と思い込みがちです。

この点についてもう少し詳しく説明します。
三菱が配布した「権利変換イメージ図」では、再開発施設(タワマン)の価格1,930億円に対して施設の総床面積は166,000㎡(=50,303坪)ですから、施設全体の平均床単価は約380万円です。

1,930億円÷50,303坪=約380万円/坪

これに対し資料では三菱地所が参加組合員として買う「保留床の単価」を約440万円へ引き上げる一方で、地権者の得る「権利床の単価」は約270万円と平均単価よりも低く設定しています。このため一般の地権者にしてみれば、「三菱地所は良心的だ!自分たちの権利床単価をこんなに安く設定してくれている」などと誤解しがちです。
これは「地権者は保留床よりも自己の土地資産に関る権利床に対してより強い関心を示す」と言った地権者心理を逆手に取った手法だと考えられます。しかし、実際に地権者がこの論法で「得をする」ことはありません。
なぜなら権利床面積に影響を与えるのは「権利床単価」ではなく、三菱が設定する「保留床単価」だからです。(注3)

(注3) ここは再開発業者が地権者に語りたがらない大変重要なポイントですので、地権者の皆さまはぜひ忘れぬようご記憶ください!
尚、そのロジックに関しては以下のトピックスで詳しく解説していますのでご参照ください。
(178)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(前編)
(179)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(後編)

手口その②:「激安保留床単価」の既成事実化

三菱地所が「権利変換イメージ図」の中で設定した440万円/坪と言った保留床単価は、近隣地区のタワマン実勢相場の半値以下と言った激安保留床単価であることにもご注目ください。
(詳細についてはトピックス(251)三菱地所に見る「激安保留床で大儲け」の仕掛けをご参照ください)

資料には「現時点での想定価格」との但し書きはあるものの、三菱側は2021年に続き2024年にも440万円/坪なる激安単価を記した資料を地権者へ配布しています。都心の超一等地ですから当然3年間で近隣地区の分譲相場は上昇していますが、そんなことはお構いなしです。
三菱側は地権者に対し「270万円/坪」という見せ球を投げておきながら、自分たちはその裏で440万円という「激安保留床単価」を既成事実化させてしまうのが彼らの目論見だと思われますので地権者は要注意です!
近隣相場を無視した「激安保留床単価」が設定されれば、それこそ開発利益のすべてを三菱地所に吸い取られてしまい、地権者は「期待利益の逸失」と言う形で損をしますのでご注意ください。(注4)

(注4) トピックス(251)で行った検証では、三菱地所が事業費1,500億円の再開発で2,560~9,242億円もの「利益」(=開発利益)を出すとの試算結果が出ました。まさに「ぼろ儲け」とはこのことを言うのではないでしょうか?日本経済新聞社も2024年8月22日付朝刊で、三菱地所は2023年に業界最大の4兆8,499億円もの「含み益」を得たと報じ、私たちの指摘を間接的にサポートした形となっています。

手口その③:地権者の「マインドコントロール」

マインドコントロールとは、他人の心を自分の思い通りに操ることを言います。
ここでは資料の下段に明記された

「想定される施設の価格から権利床の床単価を算定し、
地権者様の従前評価に対してお返しする床面積を算出しています」

なる文章にご注目ください。
そもそも再開発(第一種市街地再開発)の事業主体は地権者であり、三菱地所は「事業協力者」(=協力業者)にすぎません。従い、地権者が事業主体でもない先から床を「返して貰う」筋合いなど全くありません。
それにも関らず、三菱地所が資料内で敢えて「お返しする」なる用語を使用したのには理由があります。
「お返しする」と言う言葉の裏には、「三菱が主で、地権者は従」と言う誤った考えを地権者へ浸透させよう(マインドコントロールしよう)とする意図が透けて見えます。地権者に「従」だと錯覚させることができれば彼らの「異議申し立て」の意欲を削ぐことができ、三菱は思い通りに再開発を進めることが可能になるとの目論見が垣間見えます。
再度言いますが、

再開発の事業主体は地権者です。
三菱地所ではありません!

従い、三菱が仕掛けるマインドコントロールには毅然とした態度を示す必要があります。「安易な妥協」や「黙認」は三菱側の言い分の既成事実化に繋がりますので地権者はくれぐれもそうならぬようご注意ください。

手口その④:「権利床」を先に決めようとする

再び資料の下段に明記された

「想定される施設の価格から権利床の床単価を算定し、
地権者様の従前評価に対してお返しする床面積を算出しています」

なる文章にご注目ください。
どうやら三菱地所には

権利床面積を先に決めてしまおう

との思惑があるように見受けられますが、これは正しい考え方ではありませんので地権者は要注意です。(注5)

(注5)再開発は、再開発施設の一部(=保留床)を地権者側が再開発業者(=参加組合員)へ売却することで事業費の不足分を賄う仕組みです。従い、最初に決まるのが保留床の「処分額」、「単価」及び「面積」であり、保留床を差し引いた残りの床面積が自動的に「権利床」として決まることになります。つまり「保留床」が先に決まり、続いて「権利床」なのです。
この順番を逆にしようとするところに三菱の狡猾さが垣間見えます。

なぜ三菱は「権利床」を先に決めたがる?

三菱が恐れるのは地権者の関心が保留床に向かい「激安保留床単価」が公の場で問題視されることだと考えられます。このため、資料からもわかる通り、先ず彼らは権利床単価が低く設定されていることを強調することで、地権者の関心を保留床ではなく権利床へ向けさせようとします。
次に、地権者側が知識に疎いことに乗じて、あたかも自分たちが「主」で地権者たちが「従」であるかの如くふるまい、権利床は再開発業者が地権者へ「お返し」するものだとの印象操作を行うのです。そして最後に、地権者が「激安保留床単価」のカラクリに気付く前に地権者の権利床面積を早急に確定させてしまうのだと考えられます。
先に権利床面積を確定してしまえば、残りの床は自動的に保留床となるので、地権者から「激安保留床単価」の矛盾を指摘される心配もなくなり、労せずして莫大な額の開発利益を独占できると言う業者側の算段です。

まとめ

今回は、三菱地所が地権者へ配布した数十ページにも及ぶ資料の中の僅か1ページを事例として取り上げただけですが、その中にも

地権者攻略のための手口

が数多く仕掛けられていることが皆さまにご認識頂けたかと思います。

過去のトピックスで何度も指摘して来た通り、「激安保留床単価」こそが業者の開発利益独占の根幹だと言っても過言ではありません。
従い、今回の事例のように、地権者へ正しい情報を与えぬ一方で、配布資料の片隅に「激安保留床単価」の数字をそれとなく書き込み、知らぬ間にそれを既成事実化してしまおうとする三菱側のやり方は極めて狡猾だと言えます。まさにそれは

地権者との信頼関係を著しく損ねる行為

だとも言えます。少なくとも地権者たちにはその様に映るようです。
実際に地元地権者たちは三菱への対応に大変苦慮していると伝え聞いていますが、他地区の地権者の皆さまは如何でしょうか?
三菱地所に限らず、再開発業者には常に地権者に対してフェアで透明性ある対応を心がけて貰いたいものです。

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