保留床単価が激安なら地権者だってその単価で床を買い増したいと考えます。しかしそうはさせないのが再開発業者が仕掛ける「増床制限」です。
安易に増床を認めれば、その分だけ保留床面積が減ってしまうからです。
本トピックスは(254)「増床制限」:業者の理屈もいろいろ!と重複する記述もありますが、「地権者が注意すべき点」として再度整理し直し、コラム形式でまとめてみました。
1. 地権者として知っておくべき点
2. 増床ルールの「先延ばし」と「既成事実化」には要注意!
3.「地権者は従」なるマインドコントロールにも注意!
4.一方的な増床ルールは地権者の権利の侵害
5.「自由な増床」は開発利益を取り返すチャンス!
6.まとめ
地権者として知っておくべき点
1. 再開発(第一種市街地再開発事業)は地権者が主体となり進める事業であり、「増床」は事業主体の地権者が当然に有する権利である。
2. 一方、都市再開発法には「増床」に関する明確な定義は存在しない。
3. 従い、同法には「地権者の増床を制限する条文」も存在しない。
4. 「増床」に似た用語で「特定分譲床」が論じられることがあるが、都市再開発法には「特定分譲床」に関する定義も存在しない。
5. 「増床」や「特定分譲床」と言った用語に明確な定義が存在しないことから、再開発業者の中には都市再開発法を自社に都合良く解釈し、それを傀儡化させた組合組織に認めさせる手法で、最終的には「増床制限」を制度化させようとする傾向が見られる。(注1)
このように再開発業者は地権者が法律の知識に疎いことに乗じ、様々な理屈をつけて「増床制限」を課そうとして来ますのでご注意ください。業者側の説明に対しては必ずその根拠を書面で貰い、専門家の力も借りて内容の妥当性を精査することが何より肝要です。
6. 「増床」は事業主体である地権者が有する固有の権利であることから、再開発業者が地権者へ「増床制限」を課そうとする行為に合理性は無く、その実態は業者側の希望に過ぎないと理解すべき。(注2)
そのような立場の再開発業者が事業主体である地権者に対し「増床制限」を課そうと言うのですから理不尽であり、地権者は注意すべきです。
7. 特に「増床」を「保留床の売却」(=特定分譲床)だと説明する業者の手口には要注意。(注3)
(注3)保留床の売却となれば、売却に際して「公募」や「組合総会の決議」等、様々な要件を定めた「都市再開発法第108条」が適用となる他、印紙税のかかる売買契約書の締結も別途必要となるため手続きが煩雑になるからです。業者は「保留床の売却」説を持ち出すことで「増床はあくまでも例外的な特別措置で煩雑だ」と言った印象操作を行い、地権者側を増床断念へと誘導しようするので注意が必要です。
8. 都市再開発法に「増床」や「特定分譲床」に関する明確な定義が存在しない以上、業者側による上記7のような不可解な説明が地権者に対して頻繁になされる懸念は除去できない。
従い、これを防ぐには、(傀儡化されていない健全な)組合組織を通じて地権者が自ら「増床」や「特定分譲床」について明確な定義付けを行うことが何よりも重要。(注4)
(注4)例えば、組合組織が以下のような簡単な定義付けを行うだけで、業者の不当な増床制限を抑制することが可能となります。
「増床」=権利床と一体の区画の買い増しを有償で行うこと。
「特定分譲床」=権利床とは別区画の買い増しを有償で行うこと。
上記の定義付けにより、少なくとも「増床」に関しては「地権者の権利変換の延長線上にある床の取得であり、保留床の売却ではない」と主張できます。また後者の「特定分譲床」についても更に一歩踏み込んで「保留床の売却ではなく、地権者との調整により配置される床」と定義付ければ、都市再開発法第108条が規定する「保留床の処分」には該当しないと見做すことも可能となります。
尚、定義付けに際しては、専門家の意見も仰ぎながら「都市再開発法」や「行政のガイドライン」との整合性を事前にチェックする必要があり、また場合によっては行政とのすり合わせも必要になるかも知れません。
しかし、都市再開発法に明確な定義が存在しない以上、(傀儡化されていない健全な)組合組織を通じて自ら「増床」や「特定分譲床」に関しての定義付けを行うことは極めて有益であり、業者側が一方的に仕掛ける「増床制限」を防止する上でも効果的であると考えます。
増床ルールの「先延ばし」と「既成事実化」には要注意!
例えば再開発業者側が「増床は現状面積まで」などと言う一方的な増床ルールを提案し、地権者側がこれに正面から反発したとします。
もともと一方的なルールですから合理的根拠に乏しく業者側も正攻法では論破出来ないことを知っています。
そこで反発者に対して業者側が発するのは「まだ増床ルールは未決定」と言うセリフです。彼らは「議論」を避け、意図的に「先延ばし」を選択するのです。これには業者なりの算段があります。先延ばしする間に「増床は現状面積まで」と記した文言を「説明会」や「勉強会」などで配布する資料の一角にそれとなく繰り返し書き込み続けるのが手口です。いわゆる増床制限の既成事実化です。そしていざ正式に増床ルールを決める段階になると、彼らは「何度もご説明しており、既にご了解頂いたものと認識しております」などと言って強行突破を目論むのです。
前述した通り、そもそも「増床ルール」を決めるのは再開発業者ではなく地権者であり、本来それは(傀儡化されていない健全な)組合組織内部で協議・決定されるべきテーマです。知らぬ間に配布資料の一角に都合の良い「増床ルール」をそれとなく何度も書き込み、既成事実化を図ろうとする一部業者の狡猾な手口にはくれぐれもご注意ください。
「地権者は従」なるマインドコントロールにも注意!
一方的な「増床ルール」を地権者に認めさせる手段の一つとして、「業者が主で、地権者は従」と言う誤った考えを地権者へ浸透させるマインドコントロールの手法があります。
業者がマインドコントロールを行うために使用する説明例としては、「地権者は権利を貰う側であり、事業を指揮する立場にはない」、「業者こそが事業を成功させる主体であり、業者の収益確保が最優先」、「地権者の自由な増床は、事業の収益性を損ねる障害要因である」、「地権者の従前評価に対してお返しする床面積を計算しています」と言ったものがあります。
一旦、「業者が主で地権者は従である」と地権者を誤認させることができれば、地権者の「増床意欲」を減退させることが容易となり、結果として業者側は「増床制限」を思い通り実行できるようになると言う算段です。
一方的な増床ルールは地権者の権利の侵害
地権者が負担して床を取得する「増床」は都市再開発法の基本的な考え方であり、事業主体である地権者が持つ固有の権利です。もちろん都市再開発法には地権者の増床を制限する条文など存在しません。
このため再開発業者主導で決められる一方的な「増床制限」は地権者の権利の侵害だとも言え、「地権者が自由に床を取得する機会の喪失」に繋がるだけでなく「事業主体としての自由な意思決定そのものまで制約」されかねない、まさに再開発事業の基本理念を正面から否定する行為だとも言えます。先ずは地権者が権利意識を持つことがとても重要です。
「自由な増床」は開発利益を取り返すチャンス!
一部の再開発業者が、世間相場から著しく乖離した「激安保留床単価」を既成事実化させることで保留床(=開発利益)を独占しようと企てることは過去のトピックスで何度も報じてきた通りです。
しかし、仮に「激安保留床単価」が強行突破されてしまったとしても、地権者側も同様に激安の保留床単価で「自由な増床」が出来るのであれば、さほど悪い話ではありません。
激安価格で床を購入して相場で売却すれば瞬時に莫大な「売却益」が見込めるからです。売却せずに保有し続けた場合は莫大な「含み益」を得ることが可能となります。
このことは即ち
激安保留床単価による「自由な増床」は、
業者側に吸い取られた開発利益の一部を
地権者が取り戻す貴重な手段となり得る
ことを意味します。
従い、業者側が設定しようとする理不尽な増床制限に対しては決して安易に妥協すべきではありません。
まとめ
一部の再開発業者が仕掛ける「増床制限」の巧妙な仕掛け(=地権者を床の買い増しから締め出すルール作り)には注意が必要です。
本来地権者が資産を供出して再開発を行う場合、「増床」は地権者の当然の選択肢であり、増床のルールは再開発業者ではなく事業主体である地権者が(傀儡化されていない健全なる)組合組織を通じて決めるべきものです。従い、業者側が一方的に設けようとする増床制限に合理性は無く、業者側の単なる希望に過ぎないと理解することが大切です。(注5)
(注5)但し、再開発業者(=参加組合員)も営利目的で再開発事業に参画する協力業者である以上、彼らにも働きに見合う分の保留床(=開発利益)は確保してやる必要があります。従い、例えば「保留床が総床面積の45%を割らぬ限りにおいて地権者の増床を認める」と言った形で一定の「増床制限」を設けるのは理にかなう公平なやり方だと考えます。
再開発業者が主張する増床制限は合理的根拠に乏しいものが多いため、彼ら自身も正攻法では論破出来ないことを知っています。
従い、理不尽な増床制限を課そうとする再開発業者に対しては、必ずその根拠を書面で取り付け、その内容を専門家の協力を得ながら精査し、正論を以て議論して行くことが肝要です。
最後に、自由な増床は、地権者が激安保留床単価を通じて再開発業者側に吸い取られてしまった開発利益の一部を取り戻すチャンスとなり得ることをご記憶ください。それだけに、業者側が設定しようとする合理的根拠に乏しい「増床制限」に対しては決して妥協すべきではありません。安易に彼らを信じたばかりに、後日「こんな筈ではなかった」と後悔することだけは何としても避けたいものです。