再開発は補助金(=税金)まで投入される公共性の極めて高い事業です。
その事業で大儲けを狙う再開発業者が仕掛けるのが激安保留床単価。既に多くの現場で地権者たちがそのカラクリに気づき始めて行政へ問題提起を行っており、中には「激安保留床単価」を非難した地権者に対して組合理事が暴力をふるう事件まで発生。各地で混乱が起きています。
これらの多くは「行政への陳情」や「株主総会」と言った公の場での問題提起を通じて一般社会も知るところとなっており、どうやら政府もこのような状況を黙って見過ごす訳には行かなくなって来たようです。今般、国土交通省は「激安保留床単価」の是正に向けて動き始めました。
1. 国土交通省が遂に動き始めた!
2. しかし油断は禁物!
3. 2027年度以降も安心できない?
4. まとめ
国土交通省が遂に動き始めた!
国土交通省は「令和7年(2025年)3月31日付事務連絡書」を関係行政機関に向けて送付し、再開発事業関連要綱の一部が改正されたこと、並びにその詳細規定に関して関係先へ周知徹底を行いました。
(添付「事務連絡書」をご参照ください)
今回の要綱改正では、「補助金対象」となる再開発案件が「必要性・緊急性の高い事業」に絞り込まれると同時に、補助金交付の判断基準として
保留床処分単価が
市場価格と比較して適切であること
と明記され、その保留床処分単価は
近隣同種の物件の売買実績等から
把握される単価から著しく乖離していないこと
と具体的に明示された上、更に保留床が再販される場合には
参加組合員等が取得する保留床単価が
再販予定単価と著しく乖離していないことを確認すること
を求めると明記されました。つまり「激安保留床単価」は認めないとの内容です。これだけではなく、更に続きがあります!
今回の要綱改正に関連して国土交通省は2025年8月29日に国会議員へのレクチャーを行いました。その席上で、
著しく乖離していないことをどのように確認するのか?
との質問に対し国土交通省からは
あくまでも便宜上の目安としてではあるが、一般的には
業者の保留床取得価格は再販予定価格の70~80%程度
と考えている。(注1)
との返答がなされました。。
要するに、国として
今後は激安保留床単価は認めない
との姿勢がこの場でも再確認されたことになります。
この様な実態を勘案すれば、今般、国交省があくまでも目安とは言え「再販価格の70~80%程度」と具体的数値を提示したことは画期的であると考えます。
因みに、不動産業者が新築マンションを分譲する際の取り分(=粗利)は20~25%程度と言われており、この観点からは「再販価格の75~80%」が妥当な線となります。国交省の数値はこれとも概ね一致しています。
当サイトでは以前から、住友不動産や三菱地所と言った一部の再開発業者が「激安保留床単価」を使って開発利益を独占するカラクリを解明し、再開発の理念から逸脱する行為であるとして、都内各地の地権者団体とも連携しながら広く行政や一般社会に対し問題提起を行って来ました。
ここへ来てようやく国土交通省が動き始めたことから、先ずは一歩前進だと言えます。
しかし油断は禁物!
一方、地権者としてはまだこれを手放しで喜ぶわけには行きません。
なぜなら今回の「事務連絡書」には経過措置が盛り込まれており、それは
2026年度末(令和8年度末)までに
事業着手(=都市計画決定)がなされた事業については
従前の例によることができる
と言う内容だからです。換言すれば、
2026年度末までに都市計画決定が実行される事業
については「激安保留床単価」の排除は行わない
と言うことになります。
本トピックスの掲載月である2025年10月を起点とすれば、2026年度末まで「あと18カ月間」あります。従い、業者側からすれば
18カ月以内に何としてでも都市計画決定まで進めよう!
と考えても不自然ではありません。(地権者にとっては一大事です!)
しかし本当に業者側はそのような駆け込みに走るのか?
8月29日の国交省レクでもそのような質問が出席者から出ました。
国交省側の返答は「あり得る」でした。
まさに「論より証拠」で、早くも某地区では問題が山積中にもかかわらず再開発業者側から「2026年度中に都市計画決定をめざす」との宣言が出されたようですので、地権者はくれぐれもお気を付けください。(注2)
しかし、限られた時間帯の中で、開発利益の独占を狙う一部の業者が都市計画決定を急ぐあまり「土地の細切れ分筆」や「地権者の買収」と言った禁じ手を使う可能性も排除できませんので、地権者側は常に団結して監視の目を緩めない姿勢が何よりも望まれます。
2027年度以降も安心できない?
考えられるシナリオとしては、一部の再開発業者が
「補助金ゼロ」でも構わないので
従前のやり方で再開発を進めてしまおう
と決断するケースです。
「補助金」も再開発業者にとっては貴重な収益源です。(注3)
しかしその交付額は一般的には50億円、100億円と言った単位であるのに対し、「激安保留床単価」による業者の儲け(=含み益)はケタ違いに大きく、住友や三菱の最近の事例では1,300億円、1,800億円と言った
莫大な額です。
従い、理論上は
補助金を捨てても良いから、激安単価で大儲けしよう!
と言う考えが十分成り立つので地権者は要警戒です。
但し、実際にそのようになるかはわかりません。
激安保留床単価による「ぼろ儲け」の手口が行政はもとより、広く一般社会にも知れ渡ってしまった以上、それでも再開発業者が「激安保留床単価」にこだわり続ければ行政を敵に回すことになり兼ねず、また社会の反発も必至だからです。更に企業倫理の問題も出て来るため、健全な企業であれば実行は難しいのではないでしょうか?
(注3)補助金は、本来は「公共の福祉への寄与」目的で事業に交付される国民の税金ですが、実際には補助金も再開発業者の収益源となっている現実があるようです。なぜなら補助金交付により再開発ビルの原価がその分引き下げられるため、再開発業者(=参加組合員)が負担する保留床処分金も同様に減額されるからです。結果として補助金交付額の大半が業者側へ還流されると言う仕組みです。この様な交付金の使われ方が果たして本来の「公共の福祉」の目的に合致しているのか、はなはだ疑わしいと考えざるを得ません。
まとめ
再開発(第一種市街地再開発事業)は市民の税金である「補助金」が数十億円単位で投入される極めて公共性の高い事業ですから、営利目的で再開発事業に参入する業者が地権者の無知に乗じて開発利益を独占するようなことがあってはなりません。
当サイトでは、住友不動産や三菱地所など一部の再開発業者が「激安保留床単価」を用いて開発利益を独占するカラクリをいち早く解明し、3年前から各地の地権者たちへ注意喚起を行うと共に、広く一般社会に向けて問題提起を行って来ました。(注4)
また、豊島区、渋谷区、品川区、新宿区などでもこのカラクリに気づいた地権者たちが行政や国会議員等に対し様々な行動を起こしていることから、さすがに政府もこのような状況を見過ごす訳には行かなくなり、今般「激安保留床単価」の是正に向けて動き始めたのかも知れません。
今回、国土交通省が関係行政機関に宛てた事務連絡書において「保留床単価が適正であること」が明記されたことは一歩前進だと言えます。
然しながら、「経過措置」が設けられていることから地権者はまだこれを手放しで喜ぶわけには行きません。
また今回発出された「事務連絡書」は、現場レベルの業務遂行に直結する重要な指示書ではあるものの、命令的な文書である「通達」よりはワンランク下位に位置するため、地権者側は引き続き行政に対し「適切な保留床単価」が遵守されるよう活動を継続して行くことが望まれます。
(178)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(前編)(2023/4/11)
(179)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(後編) (2023/4/17)
【添付】 国土交通省・令和7年3月31日付事務連絡書
(注:本トピックスの要点部分に茶色のマーカーを引いてあります)