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(37)危機への備え(同意書は大丈夫か?)

投稿日:2020年4月2日

1.突然の危機と再開発事業のゆくえ

突如として発生した新型コロナウィルスの感染拡大はまたたく間に世界へ波及し、いまや「人・もの・金」の流れも停滞して経済に大きな打撃となり、好調だった経済も一気に不況へと逆回転をしはじめたと多くの専門家が論じています。

このことは「再開発事業」にも赤信号が灯り始めたことを意味します。
再開発は経済の安定成長を前提として始めて成り立つ事業だからです。
このため、地権者側も経済の混乱に巻き込まれて損をすることがないよう、あらゆる事態に備えて対策を練っておく必要があります。

2.泉岳寺の現状

泉岳寺では、再開発はまだ計画段階にあるため、正式には何も決まっておらず、2年前から事業者側が「都市計画決定」の実施に向けて地権者から同意を集めようとして勧誘を続けている状況が続いています。
他のトピックス欄でも随所で述べていますが、泉岳寺では事業者による再開発への勧誘が不公平・不公正な手段で行われてきたことから、多くの地権者が現在のやり方での再開発には難色を示しており、その結果、勧誘開始から2年が経過した現在も、まだ地権者による合意形成は出来ておらず、再開発の第一段階と言われる「都市計画決定」には至っていません。

3.地権者が提出した「同意書」は大丈夫か?

突然の社会経済の混乱を目の当たりにし、地権者の多くも今後どう対処すべきか暗中模索の状態のようです。

その様な状況下で心配すべき点が一つあります。
それは、既に都市計画の手続きを行うことに「同意」を行った地権者の、その「同意書」の今後の扱われ方
についてです。

先ずは、本トピックスの最後に添付した「同意書」のサンプルをご覧下さい。
これは事業者が用意した「同意書」の定型フォームで、泉岳寺の地権者はこの同意書に記名捺印をして事業者側へ提出するよう求められています。

しかしこの「同意書」。よく読むと、シンプルながら事業者側に実に都合良く作られており、地権者の「権利」や「保証」に関する記載は全く見当たりません。
この同意書は事業者に対する実質的な白紙委任状だと見ることも出来ます。
同意書は提出したものの、地権者が土地と家屋を失う代わりに受け取る新居の具体的な条件は一切事業者側から示されていないからです。過去にモデル権利変換が地権者へ示されていると言われても、それは単なるモデルに過ぎません。「具体的条件は後から決めるもの」と事業者側は説明しているようですが、これを鵜呑みにすると後で後悔することになりかねません。一旦都市計画決定が実行され組合が設立されてしまった後では、提示された条件にたとえ不服であっても、同意を取り消して元に戻ることなどもはや出来ないからです。
これは地権者に取り全く不公平なやり方です。

本来ならば事業者から事前に「保証」を取付けておくことは必須なのですが、残念ながら事業者は泉岳寺の地権者には何の「保証」も与えぬまま「同意書」だけは先行して取付けてしまおうと、あの手この手で勧誘を続けているのです。
そこに大きな問題と不安があります。
一般の不動産取引をイメージすれば理解しやすいと思いますが、自分の不動産を売却する際に、具体的な売却条件も知らされぬまま印鑑を押すことなど決してしない筈です。再開発への同意もこれと全く同じことなのです。

4.同意書は一旦撤回すべき?

本来、再開発に同意するか否かは、地権者一人一人が判断すべき事柄であり、本人が状況を充分理解し、そして納得した上で同意を行うのであればなんら問題はありません。
しかし、どのような状況下であっても地権者の権利と保証が確認されぬまま同意書へ捺印すべきではありません。後日トラブルの元となるからです。

特に今のような状況下では特段の注意が必要です。
今や世界中の「人・もの・金」の流れが停止し、経済が突如として不況へと向かい始め、まさに「一瞬先は暗闇」の時代となってきたからです。
再開発事業の将来が見通せなくなったいま、何の保証も得られぬ状態で「都市計画決定への同意書」を事業者へ預けたままでいて大丈夫なのか?本当にそれで自己の資産を守ることができるのか?と言う心配が現実味を帯びてきます。

「安定的な経済成長」や「好調な市場環境」と言った再開発事業を成り立たせる前提条件が崩れ去ったいま、白紙委任状に近い「同意書」を事業者へ預け続けることのリスクを地権者は真剣に考えるべき時です。

因みに泉岳寺を管轄する港区役所も「都市計画決定の申請前であれば同意書はいつでも撤回可能」であることを確認しているそうです。

5.なぜ一旦撤回が必要なのか?

経済情勢が急変し、今後も更なる悪化が予想される状況にも係わらず、もしこのまま再開発が進められたとした場合、最終的に組合員(=地権者)が収益悪化のシワ寄せを被る可能性があるからです。

なぜそうなるのか?
「同意書」はその実態が事業者への白紙委任状に近く、地権者側の権利は何も保証されていないため、事業者側に都合良く処理されてしまう懸念があるからです。

例えば、不況下において再開発がこのまま進められたとします。不況下ですから当然事業者側の期待収益は当初の見込みよりも低くなります。しかし一方で事業者は営利企業ですから何としてでも利益を捻出しなければなりません。収入が減るのであれば、コストを減らすしかありません。そこで事業者が着目するのが事業コストとしての地権者の資産なのです。少しでも安く地上げが出来ればその分彼らの収益が増えるからです。
そのように考えれば、事業者が「同意書」は取るが「保証」は一切与えたくない理由がおわかり頂けるかと思います。
事業者にしてみれば、「地権者の資産」と言う事業コストの一部を地権者への「保証」で縛られることなく最後まで自由度を持って運用して行きたいと考えるであろうことは容易に想像出来ます。
彼らも長期に亘るリスクを自ら背負って再開発を進めて行く訳ですから、様々なリスクヘッジ策は当然必要であり、これを否定することまでは出来ません。

しかし、だからと言って再開発が地権者の犠牲の下に進められることがあってはなりません。経済がどのような状況にあろうと、地権者は自己の「権利」と「資産」が保証されぬまま再開発に同意することだけは避けるべきではないでしょうか?

とりわけ再開発事業を取り巻く社会・経済情勢が急変してしまった今、地権者の「権利」と「保証」が確認されぬまま「同意書」を事業者へ差し入れ続ければ、将来どのような結果が待ち受けているかを地権者はしっかりと頭の中でイメージすべきです。

決して再開発それ自体に反対しているわけではありません。
突然不確定の世の中になった今だからこそ、一旦「同意書」を回収し、事態が収束し将来が見えて来た段階で改めて再開発への同意を検討する。ただそれだけのことですが、このことこそが真に地権者本位の再開発を実現して行くための正当なやり方ではないでしょうか?
行政も都市計画決定前であれば撤回は可能と言ってくれている以上、地権者は是非ともこの選択肢を検討すべきです。

(他地域で再開発にお悩みの地権者の皆さんも、是非このテーマについてお考え頂ければと思います。)

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