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(39)再開発はリスクだらけ

投稿日:2020年5月15日

1.再開発はリスクだらけ-事業者も大変だ!

コロナウィルスの感染拡大は、社会や経済のあり方を根本から変えてしまいました。
自粛要請の解除後も以前の生活様式に戻ることはないでしょう。
再開発事業の先行きにも暗雲が立ちこめてきました。

再開発事業の許認可権者である東京都は当面コロナ対策に人的資源と財源を集中的・重点的に投入する必要があることから、優先度が低いとして再開発事業の一時凍結や中断を決定しました。
一都三県全域でも同様に再開発の遅延が顕在化して来ています。(2020/5/15付日本経済新聞より)

東京都はまたコロナ対策費として既に1兆円を予算に計上しましたが、これで都の貯金と言われる「財政調整基金」をすべて使い切る計算となり、今後更に支出が増えるとなれば都が財政悪化に転じる懸念も出て来ます。
(2020/5/19付時事通信社・電子版より)
仮に都が財政難に転じれば、将来の再開発の許認可や補助金の支出にも影響が及ぶことになります。

一方で、再開発が終わっても開業出来ない事業も続出しています。
オリンピックイヤーの目玉であった筈の住友不動産「有明ガーデン」の再開発も、二度に亘り開業が延期となり暗礁に乗り上げています。
今も全面開業の見通しは立っていません。(5月29日現在)
せっかく竣工しても、開業ができなければ意味がありません。
開業できたとしても、人の移動が制限され続ける限り収益は期待出来ず、多大な出費だけが出て行くことになります。
「利益」=「収益」-「費用」ですから、いまや利益どころの話ではないのです。
ましてや1,000億円規模の事業となれば工事代金の支払いや有利子負債の返済なども相当な額に達する筈で、事業者側の台所事情は「推して知るべし」です。
このように再開発はリスクが大きく、事業者も実は大変なのです。
コロナ禍でまさに事業リスクの問題が表面化した形となりました。

2.住友不動産「有明ガーデン」でいま起きていること

「有明ガーデン」と聞いてもピンと来ないかも知れませんが、場所はお台場の外れ、国際展示場の近くにあります。
土壌汚染で問題となった豊洲市場からわずか600mの場所に位置し、近隣には選手村を始め、オリンピック関連施設が集積していますが、あまり生活感はないエリアです。
その土地に住友不動産は国家戦略特区の制度を利用してタワーマンション3棟、複合商業施設、ホテル、イベントホール、温浴施設等で構成される、まさに六本木ヒルズにも匹敵する巨大な「再開発都市」を造り上げたのです。

本来であれば既に開業して今頃は東京五輪の注目スポットとして賑わっている筈でした。
しかしそこに突然のコロナ禍が。オープンは当然のごとく延期となり、今も全面開業の見通しは立っていません。
例え開業しても、オリンピックが来ない今、この立地で果たして集客が見込めるのか疑問です。
因みに六本木ヒルズの場合は立地が都心一等地であったことも奏功し、年間4,000万人の来街者で栄えています。
たとえどんな立派な再開発都市を造ったとしても人が集まらなければ価値はないのです。

有明では再開発の事業リスクが一気に表面化したと言えます。
商業施設にはなんと200店舗が入居予定です。
テナントは既に設備投資も終わり保証金も払込済でしょうから、今は「延期も地獄、開業も地獄、撤退も地獄」の心境なのではないでしょうか。
749室を誇る住友系ホテルも出来上がりました。
場所が場所なだけにオリンピック需要が蒸発した今、開業しても果たして客が来るのか不安です。
8,000人収容のイベントホールや1,000坪近い大型温浴施設もありますが、「3密」との関連もあり、当面は施設のフル稼働は難しいと思われます。
更に3棟あるタワーマンション。1,539戸が分譲されています。販売実績は非公表のようですが、かなりの売れ残りがあるとの情報もあります。
最近ではタワマン自体が「3密」と捉えられる向きもあり(2020/4/20配信、フライデー)、またテレワークの普及景気の急激な悪化もあり、今後の販売は決して容易ではないと思われます。 
コロナは「想定外」だったとは言え、再開発は実に大きなリスクを伴う事業であり事業者も大変なのです。

3.住友不動産「羽田エアポートガーデン」でいま起きていること

「有明ガーデン」がオリンピック狙いだとすれば、「羽田エアポートガーデン」はインバウンド狙いの再開発だと言えます。
住友不動産は羽田国際線ターミナル脇に1,717室もある住友系ホテルと共に90店舗が入居する大規模複合施設を建設したのです。
しかし海外との門戸が閉ざされた今、当初予定されていた4月21日の開業は無期限延期となっています。
国内で自粛要請が緩和されても、海外では依然としてコロナが猛威をふるっていることから、たとえ開業しても当面インバウンド需要は見込めそうにありません。
どんなに立派な設備を建設しても人が集まらなければ無価値なのです。

このようにコロナ禍により住友不動産の展開する多くの事業が痛手を受けています。
好調な経済を前提に、賃貸収入に依存しようとする彼らの「中期経営計画」(残り期間約2年)も大幅な見直しは不可避だと思われます

4.泉岳寺も「対岸の火事」ではない

「有明」や「羽田」の事例の如く、再開発は長い年月を要するだけにその間に想定外のリスクが発生すれば事業者も大きな損失を被ることになります。
完成したのに開業できない事態すらあり得るのです。
コロナ禍はまさにリスクの存在を世間へ知らしめる結果となりました。

しかし私たちにとりこれは決して「対岸の火事」ではありません!
事業者は再開発事業のプロ集団です。
今回のコロナ禍を教訓として将来の再開発案件に対しリスク対策をより強化することが想定され、そのしわ寄せが地権者に降りかかる懸念があるからです。

今後不況が到来すると言われる中で事業者がそれでも再開発を進めようとすれば、当然彼らの期待収益は低くなります。
しかし彼らは営利企業です。
何としてでも利益を捻出しなければなりません。
そこで事業者が着目するのが事業コストとしての地権者の資産なのです。少しでも安く地上げが出来ればその分彼らの利益が増えるからです。
その様に考えれば、事業者が「同意書」は取るが地権者へ「保証」は一切与えたくない理由がおわかり頂けるかと思います。

自己の資産や再開発後の生活再建(新居の維持管理費、等)に対する書面による保証が住友不動産から得られぬ限り「同意書」は決して提出すべきではありません。
なぜなら現在の「同意書」は事業者に資産を一任する白紙委任状の性格を有するからです。

泉岳寺で事業者が取付けようとしている「同意書」のひな形をご覧下さい。(添付)。
再開発に同意すると言う内容のたった3行の文章しかありません。
そこには地権者の資産額についての記載は無く、そもそも資産が保証されるのかも不明です。
地権者にとり著しく不利な内容で、まさにこれは事業者へ提出する白紙委任状と同じなのです。
まったく不公平で不平等です。
このような紙切れ1枚で都市計画決定が実行され、地権者の運命が決められてしまってはたまったものではありません。

もう一度言います。
例え再開発に総論では賛成だったとしても、自己の資産に対する保証が事業者から書面にて得られぬ限り「同意書」は決して提出すべきではありません。
なぜなら現在の「同意書」は事業者に資産を一任する白紙委任状の性格を有するからです。
このことだけはしっかりと肝に命じておいて下さい。
そうでないと将来「こんな筈ではなかった」と後悔することになります。

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