実際にあった再開発の破たん事例
前「トピックス(54)」では準備組合理事が準備組合を訴えた裁判事例を取り上げ、再開発事業者が実質支配する準備組合を放置しておけば、内部で「情報操作」や「書類の改ざん」と言った事態が起こり得ることを報じました。
本号ではさらに怖い話を取り上げます。
再開発事業者が無謀な再開発を進めた結果、巨額の損失が生じ、権利者(=地権者)全員が権利変換で受け取った権利床を取り上げられてしまったと言う実際にあった話です。
事件は岡山県津山市の市街地再開発事業で起きました。デベロッパーは熊谷組。
人口僅か11万人の小都市に320億円もかけて巨大すぎる再開発ビルを建設したものの、90年代のバブル崩壊も重なり、保留床が計画通り処分出来ず、組合資金の不正流用まで発覚して数十億単位の損失が発生。組合は事実上の倒産状態に陥ったため、その穴埋めに市が公的資金を投入する一方で、組合員(=地権者)全員が権利変換で受け取った権利床を賦課金として供出させられたのです。
取り立ては過酷を極め、多くの地権者が自己破産を余儀なくされ、また「年金口座の預貯金」まで差し押さえられた高齢の地権者もいたそうです。
まさに地権者が共同で事業リスクを負う事業の怖さが露呈した形となりました。
泉岳寺はもとより、全国の再開発計画の多くが津山と同様の事業形態で進められています。それだけに再開発区域内の地権者は細心の注意が必要です。
再開発に同意したのになぜ権利床まで失ったのか?
それは「第1種再開発事業」、つまり組合員(=地権者)が共同で事業リスクを負う形の事業だったからです。地権者がリスクを負う以上、当然そこには経済原則が働きます。再開発を進めてはみたものの「結果として経費がかさんでしまった」となった場合、地権者がその負担を担うことになります。実際に、都市再開発法第39条では、「組合はその事業に要する経費に充てるため賦課金として組合員に対して金銭を賦課徴収することができる」と定めています。
つまり事業に損失が生じた場合、組合員(=地権者)が損失を補てんさせられるのです。
デベロッパーではないのです。(多くの地権者がこの点を誤解している可能性があります)
地権者たるもの、この点をしっかりと肝に銘じておく必要があります。繰り返し言いますが、泉岳寺をはじめ、全国の再開発計画の多くがこの「第1種再開発事業」として進められています。 津山で起きた再開発事業の破たんは決して「他人事」でないのです。もし地権者が再開発事業者側の話を鵜呑みにして「彼らに任せておけば全てが順調に進み、最後に自分たちは無償で新築の床が貰える」などと楽観的にお考えでしたら、その様な考えはきっぱりと捨て去ってください。地権者による「無知」、「無関心」、「他人任せ」は致命的となり得ます。
再開発が破たんした原因は?
津山市では市議会が中心となり3年かけて同事業に関する「調査特別委員会報告」を纏めました。そこに記された「失敗の原因」は全国の地権者の皆さまにも大いに参考となりますので以下に明記します。
[引用元:津山市議会「再開発事業に関する調査特別委員会最終報告」]
(尚、津山市は失敗の原因を作った関係企業や個人を厳しく断罪しており、市民の税金が投入された経緯も勘案し、敢えて損失の原因を作った個人の氏名を市のホームページ上で公開するなど、前例のないほど厳しい内容となっています。)
【失敗を演出した当事者たち】
(注:以下の下線部分は報告書で使われた表現をそのまま引用)
1.デベロッパーとしての「熊谷組」
報告書は「バブル崩壊と言う日本経済の変革を無視して当初の計画通り進めた」ことを「無謀」であったとして激しく熊谷組を非難。一般地権者の被った損害を勘案すれば熊谷組が「事業を自作自演した責任は極めて重大」であり、その行為は「デベロッパーとしての資質に欠ける行為」とまで述べ、強く断罪しています。
2.組合の役員たち
報告書では「デベロッパー側や組合幹部の言い分を鵜呑み」にし、「事業全体を他人事のように認識」し、そして「役員としての責務を放棄してきたこと」が不正流用の問題等を誘発させ、事業の大きな損失を招いたと断言。
3.一般権利者(=地権者)
一般権利者もデベロッパー側の「行政や商工会議所がついているとの説明を鵜呑みにしてしまった」こと、更に一部の権利者に至っては「コンサルから絶対に大丈夫と言われそれを信じてしまった」など、調べもせずに相手任せにしたことが破たんの一因となったと指摘。
4.行政:
行政側も「再開発は組合を中心とする関係者が一体で行っているとの(他人任せの)認識」が強く、「自覚を持った指示・指導・監督と言う点において責任感が欠如」していたと報告書は断じています。
要するに再開発事業失敗の原因をひと言で総括すれば、それは
バブル崩壊と言う大きな経済変革が起きていたにも関わらず、デベロッパーがあたかも何ごともなかったかのように事業を進め、更に組合役員や一般地権者など関係者の多くがデベロッパー側の甘い説明を鵜呑みにしてしまった結果、街の規模にそぐわない身の丈を超えた、贅沢で巨大な再開発ビルを建ててしまい、それを処分出来ず損失を出してしまった点にあると言えます。
この報告書は、再開発をデベロッパー任せにすることの危険性と共に、地権者側の「無知」、「無関心」、「他人任せ」の姿勢がいかに悲惨な結果をもたらすかを具体的、且つ生々しく説明していますので、ご興味がおありでしたら是非とも下記URLをチェックしてみて下さい。
↓↓↓
(津山市ホームページ:「開発事業に関する調査特別委員会最終報告」)
https://www.city.tsuyama.lg.jp/city/index2.php?id=1198
さて皆さまの地域の再開発は大丈夫でしょうか?
泉岳寺の場合
津山市での再開発事業の破たんは、「他山の石」として泉岳寺では大いに参考になります。
津山と共通する点がとても多いからです。
●津山では計画段階で「バブル崩壊」と言う国内経済の大変革が起きました。
泉岳寺でも「コロナ禍」と言う世界を巻き込む社会経済の大変革が起きています。
●津山では「バブル崩壊」の影響を無視して事業が継続されました。
泉岳寺でも「コロナ禍」の再開発への影響を考慮せずに事業が継続されようとしています。
●津山では組合役員たちが責務を放棄し事業を「デベロッパー任せ」にしてしまいました。
泉岳寺はどうでしょうか?少なくとも「準備組合」は再開発事業者が運営を牛耳っています。いつも前面に登場して来るのは再開発事業者側の人間ばかりで、地元の役員たちの存在感などほとんどないのが実状です。
●津山では一般権利者(=地権者)がデベロッパー側の「甘い言葉」を安易に信じたことが再開発事業破たんの一因となりました。
泉岳寺でも事業者は地権者に対して「甘い言葉」をかけ続けており、「都合の悪い話」には触れようとしません。津山の事例を考えれば泉岳寺も極めて心配です
●津山では更に一般権利者の「他人任せ」の姿勢が事業破たんを招いたとされました。
さて泉岳寺はどうでしょうか?少なくとも地権者の再開発に対する「無知」、「無関心」、「他人任せ」は何としても慎まなければなりません。津山の二の舞にならないために。
●津山では身の丈を超えた巨大な再開発ビルが提案され、破たんの原因となりました。
泉岳寺でも現在多額の費用を要する「歩行者デッキ」が提案されており注意が必要です。
事業リスクを負うのは基本的には地元の地権者であることを皆が再認識する必要があります。
以上のように、津山と泉岳寺とでは多くの共通点があるように見受けられます。
さて全国の皆さまの地域の再開発計画は如何でしょうか?
昔から「歴史は繰り返す」と言います。
私たちも津山再開発の破たんを「他山の石」として、気を引き締めて行かねばなりません。
前の「トピックス(54)」でも指摘したように、再開発をデベロッパー任せにすることの危険性が立石の裁判だけで無く、津山でも立証されました。
しかしだからと言ってデベロッパーだけを責めるわけにはいきません。地権者側の「無知」、「無関心」、「他人任せ」の姿勢も悲惨な結果をもたらす一因だからです。
事業者の話を鵜呑みにして再開発に同意すれば「床面積の減少」どころか「資産を失う」こともあり得ます。津山の再開発事業の破たんはそのことを私たちに教えてくれました。