コロナ禍以降、「保留床」の買手が果たして現れるのかと言う問題が地権者側の新たなリスク要因として浮上し、メディアでも頻繁に報じられるようになって来ました。
理由は明確です。コロナ感染拡大による社会経済情勢の急激な変革の中、今まで再開発事業を支えてきた前提条件そのものが崩れつつあるからです。例えば、テレワークの普及やソーシャル・ディスタンスに代表されるように、私たちの新しい働き方や生活様式は、都心部のオフィス、タワーマンション、ホテル、商業施設、と言った再開発事業を構成する施設すべてにわたり、需要の縮小をもたらす懸念が出て来ています。今後都心への一極集中が解消し、人口が郊外へと分散される動きが顕著となれば、現行の再開発計画のままでは大量の「保留床」が引き取り手のないまま残る懸念が生じ、地権者にとっては大きな痛手となります。「第一種市街地再開発事業」のもとで事業リスクを取るのは地権者側ですから、地権者がその痛手を受けることとなります。
このことを以下のイメージ図でわかりやすく説明します。
例えば、40階建ての再開発ビルを建設したものの、保留床の買手が見つからず事業収支がマイナスとなった場合、地権者の資産から賦課金の徴収が行われることとなります。(都市再開発法第39条)
賦課額が軽微であれば、「権利変換率の悪化(=貰える筈の床面積の減少)」程度で済むかも知れませんが、その額が大きい場合には、地権者は資産のすべてを失うリスクすらあります。実際に岡山県津山市の市街地再開発事業では、地権者全員が権利変換で受け取った床のすべてを供出させられ、自己破産者まで出しています。
(詳しくはトピックス(55)地権者必見!再開発の破たん事例(その1)及び(56)地権者必見!再開発の破たん事例(その2)をご覧下さい)
地権者が共同で事業リスクを負う「第一種市街地再開発事業」の怖さがここにあります。
再開発事業者側に「保留床を引き取らない」選択肢はあっても地権者側にはそのような選択肢はありません。
このことから、特にコロナ禍で社会経済の大変革が生じつつある現況下において地権者は再開発に対する見方や考え方を大きく変えなければなりません。
さて前置きが長くなってしまいましたが、泉岳寺において
住友不動産は果たして本当に「保留床」を買うのか?
結論から先に言うと「不明」です。書面による保証が存在しないからです。
「不明」である以上、地権者側が高い事業リスクを背負うことになります。
保留床が売却される確証のないまま、地権者は自らのリスクにおいて再開発事業を進めなければならないからです。
住友不動産は基本的に「コロナの影響はない」との立場をとっており、さかんに地権者に対し「安心である」ことを演出しようと腐心しています。
彼らの発行する「準備組合ニュース」でも「余った保留床は住友が取得する」などと記されています。しかし、彼らの巧みな言葉遣いには注意が必要です。ここでは彼らは単に計画を述べているに過ぎず、そこには地権者が安心することができる「保証」はありません。
一方、東京新聞も2020.12.13付朝刊にて、泉岳寺の某準備組合理事が、「今回はすべての保留床を住友不動産が買い取る予定」なので「心配はない」と言い切ったなどと報じています。準備組合の理事がメディアに対して「心配ない」と言い切った以上、その根拠となる書面(=住友不動産の保証)を是非とも地権者へ提示願いたいものです。前述した通り、保証の無い状況下で再開発が進むとなれば地権者は大きな事業リスクを背負うこととなります。
そもそも住友不動産は営利目的の民間企業です。
更に、泉岳寺では住友不動産は「事業協力者」としての立場であり「事業者」ではありませんから、もし事業性がないと判断すれば保留床を引き取らないことも当然あり得ます。
営利企業としての経営判断であれば彼らを責めることも難しくなります。
ここに地権者のリスクがあります!
これを回避するには「保証」の取付けが不可欠です。
この点を熟考せず安易に「同意」を行ってしまうと、後日後悔する結果となりかねません。
さて、以上で私たちが述べたことは、
全国の住友再開発計画においても共通点が多いのではないでしょうか?
特に各地の地権者の皆さまにおかれましては、「第一種市街地再開発事業」がどのような事業であるかをしっかりと理解する必要があります。
また住友不動産は口頭で「良い話」はしても、書面では確認をしたがらない
傾向があることが、他地域の住友再開発の地権者団体との情報交換を通じてわかって来ました。
不動産取引における「口約束」は後日トラブルを誘発しかねません。
彼らが地権者に対して行うすべての口約束は必ず書面にて取付けておく必要があります。後日「こんな筈ではなかった」と後悔しないためにも…