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(65)オフィス空室率が急上昇!

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新型コロナの感染拡大は企業による「テレワークの普及」や「都心一極集中の是正」を促進させ、結果として都心のオフィスビルへの需要縮小をもたらす懸念があることを私たちは過去のトピックスでも何度か指摘して来ました。
いよいよその懸念が現実のものとなってきたようです。

都心のオフィス空室率は目下急上昇中

2021年1月14日付日本経済新聞(電子版)は都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)における12月のオフィス空室率が4.49%に達したと報じました。その5区の中でも私たちが住む港区の空室率は5.79%と最も高くなっています。
業界では「空室率5%」が好不況の分かれ目とされているため、その5%の大台を2か月連続で上回った港区は既に警戒すべき状況にあると言えます。
オフィスビル仲介大手である三鬼商事の調査によれば、都心5区の空室率は12月の時点で前年同月の3倍へと拡大し、10か月連続で上昇を続けており、オフィス面積の削減が進んでいることが示されたとしています。またその一方で、空室率上昇に反比例する形でオフィス賃料の下落も始まっていると報じています。

大手企業も続々とオフィスの縮小を開始

最近では大企業もテレワークの普及に伴う本社移転オフィススペース縮小の動きを加速化させており、今後の再開発事業への新たな懸念材料となりつつあるようです。
一般に大企業は社員数が多く、広いオフィススペースを求めて大型の「再開発ビル」へ入居する傾向があり、また経営も安定し資金力もあるため賃貸借の期間も5年などといった長期契約が多いため、大企業がコロナ禍に即座に反応し市中の「空室率上昇」へ影響を与える懸念は小さいと考えられてきました。
しかし現実には多くの大手企業がオフィスの縮小や移転に着手し始めたのです。

例えば富士通の場合、32,000人いる社員を今後は在宅勤務を基本とし、現行の賃貸契約を解約して3年後にはオフィススペースを半減させると発表しています。総合商社の丸紅も今年5月に移転する新本社では、社員用の座席数を3割減らすとしています。キリン花王なども、今後は社員の密集を避けるべくオフィス機能を分散させることを発表するなど、IT関連や、金融・商社などを中心に本格的に在宅勤務やオフィスの分散・縮小を行う動きが活発化してきています。
広告大手の電通グループに至っては、東京都港区内の本社ビル(自社所有)に勤務する社員9,000人の出社率が2割にまで低下したことから、もはやオフィススペースは不要になったとしてビルの売却検討を1月に発表し、3,000億円規模の過去最大級のビル売却だとして世間からも注目を集めています。
この他、音楽・映像事業を手掛けるエイベックスやアパレル大手の三陽商会も昨年末に本社ビルを売却しています。
「電通グループ」、「エイベックス」、「三陽商会」は何れもコロナ禍で大きな打撃を受けた業種であるという共通点があることから、今後もしばらくの間は不況業種を中心に大型のビル売却が続き、オフィス市況へは負の影響を与えるものと思われます。
そして極めつけは大手再開発事業者である三井不動産です。同社は再開発事業を積極推進する立場の企業であるにも関わらず、2度目の緊急事態宣言を受け約1,700人いる社員の出社率を10%へと引き下げ、社員には在宅勤務やシェアオフィスの利用を促す判断を下しました。これが果たして恒久的な制度となって行くのかは未知ですが、再開発事業を積極推進する立場の三井不動産でさえ社員にテレワークを推奨する事態となっているのですから、コロナ禍がもたらした「オフィススペース削減」や「都心一極集中」への動きはもはや社会の趨勢だと言っても過言ではありません。

オフィス空室率の上昇が意味するもの

「オフィス空室率の上昇」は、「オフィス需要の縮小」を意味します。
この傾向が今後も続くとすれば、これから再開発ビルを建設しても、そこで新たに創出される広大な事務所スペース(保留床)が果たして埋まるかが不透明になることを意味します。今まで再開発事業者が支えとしてきた「床は作れば埋まる」と言う神話が覆される可能性が出てきたのです。

テレワークが果たして定着するのか、そして都心一極集中が解消するのかは今後のコロナ禍の推移次第だと言う側面も確かにあります。しかし、例え将来コロナ禍が終息し社会経済の混乱が解消したとしても、私たちの生活様式は確実に変化しつつあるため、もはや過去と同じ常態には戻らないというのが多くの専門家の見方です。

再開発の事業性に暗雲が立ち込めてきた

再開発事業の中でも一般的な「第一種市街地再開発事業」は、デベロッパーではなく地権者が共同で事業リスクを取る形の事業です。
それだけに地権者は既存の再開発事業への見方や考え方を大きく変える必要があります。つまり、コロナ禍で社会のあり方が大きく変化しつつあるため、地権者としては都心で新たに建設される「再開発ビルの床」に果たして需要があるのかをよく見極める必要があります。
再開発事業者の発する「楽観的な見通し」を信じて安易に再開発に同意することは大きなリスクを伴うことを地権者は肝に銘じておく必要があります。

まとめ

オフィス空室率の上昇は、再開発ビルの床(保留床)の需要低下をもたらします。再開発ビルを建設しても、需要が無ければ保留床は埋まりません。
もし保留床が処分できないとどうなるのか?
第一種市街地再開発事業のもとでは、保留床が処分できない場合は地権者が損失の補填を行うことになります。(「都市再開発法第39条」)
再開発業者はこのことにあまり触れたがらないようですが、地権者側にとっては大変重要な点です!
損失額が軽微であれば、地権者は権利変換で得る予定の権利床の面積の一部を犠牲にしながらもなんとか損失補填は出来ます。しかし、損失額が莫大である場合、地権者は権利変換で得る筈だった権利床のすべてを失うリスクもあることを予め心得ておく必要があります。
せっかく再開発のためにと供出した資産であっても、事業が計画通りに進まなければそのすべてを失ってしまうリスクがあると言うことです。
実際に岡山県・津山市の再開発事業では多額の損失が生じ、結果として地権者側は権利床のすべてを失い、複数の自己破産者まで出る騒動へと発展しています。(詳しくは以下のトピックスをご参照下さい)
トピックス(55)地権者必見!再開発の破綻事例(その1)
トピックス(56)地権者必見!再開発の破綻事例(その2)

繰り返しになりますが、コロナ禍が原因でオフィス空室率は上昇を続けており、新たに再開発ビルを建設しても「保留床」の買手が果たして現れるのかと言う問題が地権者側の新たなリスク要因として浮上して来ました。
コロナ禍で再開発事業への不透明性が増している現在は、地権者が再開発を積極的に推進する時期でないことは明らかです。
今は様子見の時期ではないでしょうか?
決して再開発事業者の発する楽観的な言葉に惑わされるべきではありません。後日「こんな筈ではなかった」と後悔しないためにも。

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