「時代劇はお好きですか?」
先日、都内某区で住友不動産が関与する再開発事業と戦っている住民団体代表のA氏からそのような質問を受けました。唐突な質問に一瞬私たちは戸惑ったのですが、A氏いわく「行政」と「デベロッパー」との関係は時代劇に登場する「悪代官」と「越後屋」との関係に酷似していると言うのです。
そう言えば、昭和から平成にかけて「時代劇」は茶の間の人気番組でした。
「銭形平次」、「水戸黄門」、「大岡越前」、「鬼平犯科帳」、等々、数えればキリがありません。そしてこれらのドラマで良く登場したのが「悪代官」と「越後屋」とが密会するシーンです。菓子箱の底に詰めた小判を差し出す越後屋に対し、いかにも悪人面をした代官が「越後屋、お主も悪やのう」と言って苦笑いします。すると越後屋の商人がすかさず「いえいえ、お代官様ほどでは…」と切り返すお決まりのシーン。ワンパターンながらも江戸時代の「商人」と「お上」との癒着の存在を象徴する名セリフとして多くの方々が今も記憶されているのではないでしょうか?
さすがに現代社会では「収賄罪」などの厳格な法規定が存在するため、時代劇に出てくるようなあからさまな金銭の授受などは無いのでしょうが、それでもA氏が居住する区では、全体的には似たような構図が今も存在するとのこと。
果たして真実なのか?実際には区市町村により状況は大きく異なるでしょうし、またそのような状況が仮に存在するとしても、それを検証することは容易ではありません。しかし、「行政が再開発事業者寄りの姿勢をとる」と言う点に関しては、各地の地権者や地権者団体が認めるところですから、「行政」と「デベロッパー」との間で何らかの「暗黙の了解」が存在する可能性は否定出来ません。
そして何と言っても、今も昔も共通している点。それは、時代を超え「常に食い物にされるのは町民」だと言う点です。これを再開発の話にあてはめて考えれば、「いつもカモにされるのは地権者」と言うことになります。
更に興味深いのは時代劇に登場する「岡っ引き」と言われる人たちです。
いつも十手をもって町人を取り締まるので、あたかも公的権力を持った人物であるかのイメージがありますが、実は彼らは正規に認められた人たちではなかったようです。「岡っ引き」は「役人の手先」として私的に犯罪者の調査や逮捕に協力した人物に過ぎないというのが定説となっています。
そうなると「岡っ引き」は、なんだか今の「準備組合」と似ていませんか?
準備組合はあたかも自分たちこそが行政にも認められた再開発推進の為の正規の組織であるかの態度を取りますが、その実態は法人格すら有さぬ単なる「任意団体」に過ぎません。あたかも権力があるかのように振る舞う点では明らかに「岡っ引き」との共通点が認められます。
しかし、「岡っ引き」の場合は非正規ながらも「役人の手先」として町の治安維持に立派に貢献しました。では「準備組合」はどうでしょうか?残念ながら準備組合は、「街づくり」や「にぎわいの創出」と言った美辞麗句を並べながらも、実際には営利目的の「デベロッパーの手先」として活動する組織にしか私たちの目には映りません。
準備組合の実態は、「信用」も「業歴」も「賠償責任能力」もない「任意団体」にすぎませんから、原則として「契約の締結」も出来なければ、銀行から融資を受けることもできません。そのような「準備組合」を、あたかも再開発の正規の窓口であるかの如く信じ込まされ相手にさせられる地権者はたまったものではありません。
「歴史は繰り返す」と言う言葉を世間では良く耳にします。
難解だと言われる再開発事業のカラクリも、時代劇を始め、過去に起きた様々な事例に照らし合わせて考えてみると意外と単純で理解しやすいかも知れません。