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(35)情報公開制度活用のすすめ

投稿日:2020年3月16日

1.情報公開の重要性

首都圏各地の地権者団体と情報交換をしていてよく耳にするのは、地権者と事業者とでは圧倒的な情報格差が存在すると言う点です。
特に最近ではそのような傾向が顕著のようです。

再開発事業者側が地権者に対して自己に不利となる情報を出したがらないのは当然ですが、行政側においても(例えば東京23区の場合)区によって「地権者への情報提供」面での対応に大きな差があるようです。

この結果、地権者の知らぬ間に再開発計画が水面下で進んでしまい、気がつけば「再開発」がほぼ決定してしまっていると言ったケースも最近では多いと聞きます。

このような事態が現実に生じれば地権者はたまったものではありません。
では地権者が公平・公正な形で情報にアクセス出来るようにするにはどうしたら良いか?
もちろん日頃から地権者が行政の担当部局と密に連絡を取り合い、「良好な関係」を構築しておくことが何よりも大切です。
しかし、それでも「知りたい情報」が得られないことがあります。
ではどうすべきか?
一つの手段として「情報公開制度」を積極活用されることをお勧めします。

多くの都道府県や市町村では、市民が行政機関に対し、行政が有する情報の開示を求めることができる「情報公開制度」が整備されていますので、「どうも情報が入ってこない」、「こんな情報が知りたい」、或いは「何かがおかしい」などと感じたら迷わずこの制度の積極活用をお勧めします

個人情報を始めとして一般公開出来ない部分は黒塗りされた上で公開されますが、それでも多くの情報が公開されるので請求するだけの価値はあります。
地権者が「通常では知り得ない」情報を知ることが出来るのはもちろんのこと、「事業者側から意図的に誤った情報を知らされていた」などと言った事実も発見することができるからです。情報公開の結果、「不正と思われる書類」が見つかり、それが原因で地権者による訴訟が提起された事例もあります。
とにかく地権者にとり「情報公開制度」は情報の宝庫だと言えます。

因みに、私たち泉岳寺エリアを所管する港区の情報公開制度に関しては、次のURLを御参照下さい。
https://www.city.minato.tokyo.jp/kojinjouho/kuse/johokokai/sedo/index.html
(港区の場合、申請後2週間で情報が公開されますが、申請も閲覧も無料でこれを行うことができ、写しを取得する場合にのみ1枚につき10円の費用がかかります)

2.情報公開でこんなことがわかった!(実例)

①事業者の誇張宣伝が確認できた例

泉岳寺で発行された準備組合ニュース(2018年8月号)では、「当準備組合が港区から東京都へ進達されました」なる大きな見出しと共に、港区が同組合の進める再開発事業を正式に支援することが東京都に認知されましたなどと報じています。
このニュースを目にした多くの地権者が「再開発は半ば決定した」と感じ取った筈です。
この記事では「嘘」とならぬように極めて巧みな言葉の表現が使われています。しかし、実態は一般の地権者が受ける印象とは大きくかけ離れていました。
区の情報公開制度を利用して、この書簡を請求し入手したところ、確かに港区長が東京都知事宛に送った書簡でしたが、その内容たるや「準備組合結成届けが提出されたのでお知らせします」なる趣旨のたった2行の文章で、添付資料も準備組合の規約や加入状況等、ごくありきたりのものでした
当時から多くの地権者が「再開発への同意」に難色を示していたことから、事業者側が意図的に地権者を「同意」へと誘導するために、都知事宛の書簡であたかも再開発が決まったかのような雰囲気を作り出そうとしたのだと推測されます。因みに「進達」と言うのは役所用語で「連絡する」の意味だそうで、東京都は単に書簡を受け取っただけだと思われるのに、仰々しく「東京都に認知されました」などと表現するところは、この事業者が得意とする巧みなレトリック(=実質を伴わない大げさな言葉)と言わざるを得ません。
それにしても日頃から社会的責任を負い、且つ社内コンプライアンスも厳格な筈の大手不動産業者が関与する事業において、このようなやり方が横行するとは驚きです。地権者を見下しています。
情報と知識に劣る地権者を相手に決してフェアであるとは言えません
そのことがわかっただけでも情報公開制度を利用した価値はあったと言えます。

②準備組合が不当に設立されていたことが確認できた例

 
再開発の事業者とされる泉岳寺の「準備組合」が行政へ提出した「準備組合結成届」を、情報公開制度にて入手し精査したところ、なんと再開発とは無関係の協議団体を元に結成されていた事実が発覚
地元「地権者の会」では準備組合に対し、全体説明会を開催して住民全体に対し説明責任を果たすよう要望しましたが、彼らはこれを拒絶しました。おそらく地権者を納得させる説明が出来ないと判断したものと思われます。
(詳細はトピックス(34)準備組合の謎(その3)をご覧下さい)
再開発事業の根幹にも係わる重大な問題ですが、もし行政の「情報公開制度」を利用していなければ一般地権者は知り得なかった可能性があります。

③ 組合が正当に設立されていたのかが疑われる例

地元「地権者の会」では、勉強も兼ねて2019年に、隣町で進行中の再開発事業での「組合設立認可」に関する資料一式の情報公開請求を行いました。入手したのは1,000ページを超える膨大な資料で、それらの多くは個人情報保護の観点から黒塗りだらけのものばかりでした。しかし何度も資料を見返す内に「不自然さ」を感じる書類が随所にあることに気づきました。
その一例が、同一人物が書いたと思われる何枚もの「組合設立への同意書」です。
(その詳細はトピックス(30)この同意書はなんだ をご覧下さい)
この他にも不自然さを思わせる書類が複数見つかりましたが、残念ながら隣町の再開発事業のことでもあり、泉岳寺の住民には実態がどうなっているのかを正確に知る手段はありません。従って、これ以上のコメントは差し控えます。
然し乍ら、その後同様の事実に気づいた隣町の地権者が再開発を認可した東京都を相手取り「組合設立認可取り消し訴訟」を提起したと伝え聞いています。

このように、情報公開制度は単に「必要な情報を知る」目的のみならず、「訴訟を提起」する際にも重要な情報源として活用されているようです。

情報は決して向こうからはやって来ません。こちらから積極的に取りに行く必要があります。
全国の地権者及び地権者団体の皆さまも、是非とも行政の有する「情報公開制度」を積極活用されてみては如何でしょうか?

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