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(236)もしも観覧車が空中で停まったら…

投稿日:2024年10月15日

再開発の突然の「延期」や「中断」を観覧車内の閉じ込め事故に例えてみました。
前トピックス(235)不動産・建設業界は今や火の車!?では、事業費の高騰で各地の大型建設プロジェクトが昨今次々と「延期」や「中断」に追い込まれている現状を報じました。
再開発事業(第一種市街地再開発事業)では事業者(=地権者)が「事業リスク」を引き受ける仕組みですから、

「延期」や「中断」で事業損失が発生すれば、
しわ寄せは地権者側に来ることになります。

従い、地権者側はあらゆる不測の事態を想定し、適切なリスク対策を講じておくことが求められます。これを怠ると、観覧車に閉じ込められた無防備の乗客たちと同様の事態となりかねません。

Contents
1.事業の「延期」や「中断」は大きな事業リスク!
2.もしも観覧車が空中で突然停まったら?
3.リスク対策の重要性
4.停止せずに無事地上に戻れたら安心なのか?
5.まとめ

事業の「延期」や「中断」は大きな事業リスク!

地権者にとり厄介なのは、「都市計画決定」の実行後に事業が「延期」または「中断」となることです。今、各地でそのような事態が起きています。一旦「都市計画決定」が実行され再開発が正式な事業として動き出してしまうと、「金」や「利権」の問題に加え「行政」までもが意思決定に関与してくるため、簡単には再開発を中止できなくなると言う現実があるからです。(注1)
そうなると地権者はひたすら「事業の再開」を待つしか手立てが無くなり、まさに遊園地で観覧車が空中で突然止まるのと似た状況に陥ることとなります。

(注1) もっとも、再開発の第二段階である「本組合設立」においては、「地権者及び借地権者それぞれの2/3以上の同意を得ること」が法的要件とされていますので、ここで同意者数が法定要件に達しなければ、事業をそれ以上進めることは出来なくなります。しかし、組合不成立をもって即座に「事業中止」となるわけでもないようですし、また組合の借金をどう返済するかと言う新たなリスク問題も発生します。

もしも観覧車が空中で突然停まったら?

地権者が遭遇する再開発の「延期」や「中断」の問題は、

遊園地で乗った観覧車が空中で突然停止

する事故と情況が似ています。
ただ観覧車の場合は、よほど特殊事情でもない限り停止時間は長くても数時間程度でしょう。一方、再開発の場合は簡単ではありません。再開発はもともと竣工までに20年前後を要する息の長い大規模投融資事業ですから、一旦「延期」や「中断」となれば事業の再開は容易ではなく、場合によっては「数年単位」の時間を要する懸念も出て来ます。(注2)
数年となれば多くの地権者、とりわけ高齢の地権者にとっては致命的です。(注3)

(注2) 前トピックス(235)で報じた「五反田TOCビル」では突然9年間の計画延期が発表されました。同時に取り上げた「麻布台ヒルズのタワマンプロジェクト」でも、現時点で竣工は計画より2年半延期となっていますし、「中野サンプラザ」でも業者側が先日「施行認可申請」を取り下げる旨を区へ伝え、延期が決定的となりました。
(注3) 再開発が高齢の地権者層にとり、いかに障害が多いかを知るには
(117)高齢者はつらいよ(わかりやすく説明)をご参照ください。
また、当HPでは4分間のYouTubeビデオも用意しておりますので、併せご覧ください。以下のURLをクリックすることでご視聴いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=azNJqQr4TVk

【天国と地獄?】

リスク対策の重要性

先ずは、観覧車のゴンドラに無防備のまま(=リスク対策無しで)乗り込んでしまい、空中で何時間も閉じ込められている自身の姿を想像してみてください。
トイレに行けません!のどが渇いても飲み物はなく、空腹でも食べ物はありません。日が暮れて寒くなっても着替えはありません。スマホを忘れてしまったので何が起きているのか情報もとれません。辛さに耐え兼ねてゴンドラから飛び降りるわけにも行きません。まさにゴンドラ内は「生き地獄」と化します!
これと似たような状況、いやそれ以上に悲惨な状況に陥るのが再開発事業です。
従い、地権者には予め十分なリスク対策を講じておくことが強く望まれます。

リスクを想定した事前対策の重要性を観覧車事故で説明するなら…
*乗り込む前にトイレへ行っておけば、当面便意を催す心配は和らぎます。
ペット飲料を持参していれば、のどの渇きを癒せます。
スナック菓子などを持参していれば、しばらくは空腹を癒すこともできます。
セーターやパーカーなどを1枚余分に携帯していれば寒さにも対応できます。
スマホを持参していれば空中にいても情報をとることができます。
まさにここでは「備えあれば憂いなし」と言う言葉がピッタリと当てはまります。
このように万一に備えた事前準備こそが実は自身の命や財産を守るためにはとても重要であり、これが再開発で言うところの「リスクヘッジ策」になります。

再開発では「都市計画決定が実行された時点」が、まさに観覧車で言うところの「ゴンドラに人が乗り込み、空中に向け動き出した時点」だと言えます。
一旦動きだすと後戻りはできない点で両者は共通しています。
事前のリスク対策を怠ると、問題が生じた際にパニックに陥る点でも両者は共通しています。
残念ながら、再開発は観覧車の設例とは異なり、巨額のリスクマネーを伴う大型事業投融資案件です。しかも竣工まで20年前後と言った長期間を要する事業ですから、「事業リスク」の範囲は極めて広く、また種類も多岐にわたります。
単なる金銭的な損失リスクだけでなく、現状が凍結されたまま何年も「無期限で待たされる」と言った時間的なリスクも考慮しなければなりません。

停止せずに無事地上に戻れたら安心なのか?

実はそうではありません。リスクは最後の最後までついて回ります。
観覧車が無事地上に戻り、安心してゴンドラから出ようとした瞬間に足を踏み外し骨折することだってあり得ます。再開発もこれと同様です。
権利変換が無事終わり、従後資産の「還元率」も決まり「やれやれ」と仮住まい先で安堵している地権者がいたら要注意です。昨今では工事期間中にも事業費が予想外に高騰し事業が立ち行かなくなるケースがあるからです。
前トピックスで取り上げた、「麻布台ヒルズのマンションプロジェクト」がまさにその典型例です。追加費用の負担に関しては、基本的には工事請負契約を締結したデベロッパーと工事業者との二者間の問題ですが、両者の交渉が決裂したり、或いは工事業者が倒産したりすれば、そのしわ寄せは最終的には事業リスクの受け手である地権者側へ来ることになりかねません。
従い、再開発組合(=地権者)としては例えば「参加組合員契約」において「権利変換後の事業費増加分は参加組合員の負担とする」と言ったリスク対策を予め講じておく必要があります。(因みに、参加組合員契約とは再開発組合が保留床の購入先である参加組合員⦅通常はデベロッパーやゼネコン⦆との間で建築費や保有床面積等の詳細条件を取り決めた契約のことを言います。)果たしてここまで考えが及ぶ地権者がどれだけいるでしょうか?

ましてや「再開発業者の操り人形」と化した地元役員だらけの傀儡組合では、多くを期待することは不可能です。このように再開発には「落とし穴」が多いので、地権者には「石橋を叩いても渡らない」くらいの慎重姿勢が望まれます。

まとめ

再開発の「延期」や「中断」は、遊園地の観覧車が空中で突然停止する事故と情況が似ています。しかし再開発の場合、事態ははるかに深刻です。「事業リスク」の範囲が多岐にわたっているからです。
自然災害、環境問題、事業費の急騰、経済環境の変化、工事中の事故、業者の倒産、代金回収や資金繰り、設計ミス、不祥事の発覚、訴訟問題、等々、およそ事業に損失をもたらす可能性のあるすべての事象は「事業リスク」だと言っても過言ではなく、今回取り上げた事業の「延期」や「中断」は、数多く存在する事業リスクの一部に過ぎません。

再開発(第一種市街地再開発事業)で「事業リスク」を引き受けるのは事業者(=地権者)です!しかもリスクの額に限度はなく実質的には青天井です!(注4)
地権者が再開発を安易に考えるべきではない理由がまさにここにあります。

(注4) 再開発では銀行の住宅ローンのように、「融資限度額は年収のX倍まで」と言った上限はありません。従い、たとえ90歳の年金生活者でも、地権者である限り一律に数億円、数十億円と言った巨額の事業リスクに晒されることになります。

地権者側が日頃から「無知」、「無関心」、「他人任せ」と言った態度で事業に臨み、「リスク対策」すら怠るようでは、最悪の場合、自己の土地資産のすべてを失う懸念があるので要注意です。
まさかそんなことは無いだろうとお思いかも知れませんが、実際に岡山県津山市の市街地再開発事業では巨額の事業損失が発生し、組合員(=地権者)全員が土地資産を法律に基づき供出させられ、多くの地権者が自己破産を余儀なくされています。(注5)

(注5)岡山県津山市での破たん事例については以下のトピックスをご覧ください。
(55)地権者必見!再開発の破たん事例
(56)地権者必見!再開発の破たん事例(その2)

岡山県の事例は、まさに地権者が数百億円規模の事業リスクを負う再開発事業の怖さが露呈した事例だと言えます。しかし、

再開発を過度に恐れる必要はありません!

地権者が(すべてを再開発業者に任せきりにするのではなく)自らが名実共に事業主体となり、適切なリスクヘッジ策を講じながら合理的な判断を以て事業を進めて行くのであれば、リスクを背負ってでも再開発を進める価値は十分ある筈です。
再開発は順調に進めば地権者にも莫大な開発利益が期待できる事業だからです。
(但し、黙っていると再開発業者に開発利益をすべて持って行かれますのでご注意あれ!)

では果たして地権者は再開発事業を進めるべきなのか?
この点は各地区の地権者の皆さまがよく話し合って決めるべき事柄です。
ただここで忘れてはならないことは、

地権者自身が十分に「理解」し「納得」しない限り、
決して再開発に同意すべきではない

と言う点です。
再開発は一旦正式に動き出してしまうと、観覧車と同様に途中で中止することが難しいからです。
リスクヘッジを怠り、後日「こんな筈ではなかった!」と後悔することだけは何としても避けたいものです。

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