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(256)「増床制限」:業者の「迷言」あれこれ

投稿日:2025年6月2日

「迷言」とは、一見もっともらしく聞こえるが、よくよく考えると疑わしい内容の言葉を言います。
今回は、増床制限を目的に業者側が地権者へ放つ「根拠に乏しい理屈」の数々を「迷言」として並べてみました。
前トピックスと重複する部分も多々ありますが、再開発業者側の説明をそのまま受け入れることの危険性を地権者の皆さまにぜひ知っていただき、今後の参考として頂ければ幸いです。

 

Contents
1. 業者側の「迷言」あれこれ
2. 業者側の様々な「迷言」に共通する点
3. 増床制限の背景
4.まとめ

業者側の「迷言」あれこれ

1.
「増床は現状面積まで」
「増床は現状面積の1.3倍まで。それ以上は分譲単価とする」

【解説】
これらは事実上の「増床禁止」措置です!この様な説明がなされたら、直ちに業者からその根拠を書面にて取り付け、専門家と相談してください。
因みに、不当だと抗議すると彼らは「説明会等の場で何度も地権者の皆さまへ説明させて頂いております」、「事業成立等をふまえ判断しなければならないことをご理解ください」などと弁解してきます。しかし前者は典型的な「既成事実化」の手口であり、後者は「保留床(=開発利益)を独占したい」との業者の本音を言い換えたに過ぎませんのでご注意ください。

2.
「増床は最低居住面積に満たない地権者に対してのみ許可される」

【解説】
「都市再開発法第79条1項」(過小床面積の増床)を念頭においた発言だと思われますが、この条文はすべての地権者に最低限必要な床面積を確保させるためにやむを得ず行う「法定増床」の規定であり、地権者が自らの意思で床を買い増す話とは全く別次元の話です。

3.
「増床は参加組合員の了承を必要とする」

【解説】
制度的にも法的にも根拠の乏しい不合理な説明です。
そもそも都市再開発法上、参加組合員はあくまでも資金及び施工面での協力者にすぎず、彼らは「増床」を了承する立場にはありません。
実際、「参加組合員抜きで再開発を進めたとしても都市再開発法上問題はない」との弁護士意見さえ存在します。参加組合員(=再開発業者)とはそのような存在にすぎません。

4.
「増床は保留床の転売である」

【解説】
こちらは「都市再開発法第108条」(保留床の処分)を引用することで地権者を増床断念へと誘導する手口ですので要注意です!
増床を「保留床の転売」と見做せば、売却に際して「公募」や「組合総会の決議」等、様々な要件を定めた「都市再開発法第108条」が適用(注1)となり、また印紙税のかかる売買契約書の締結も別途必要となるため手続きが煩雑になります。業者側は「保留床の転売」だと説明することで地権者の当然の権利である「増床」をあたかも「複雑でリスクがある行為」であるかのように演出し、地権者側を増床断念の方向へ誘導しようとしますのでご注意ください。

(注1)都市再開発法第108条は組合が取得する保留床の処分について定めた法律です。従い、地権者が権利変換で取得する「権利床」はもちろんのこと、地権者が有償にて権利床と一体の区画を増やす「増床」も本来は第108条の適用外となる筈です。

業者側に「増床=保留床の転売」だと説明をさせないためには、「増床の定義」を明確化させること、即ち増床とはあくまでも権利床と一体区画の床の買い増しであり保留床の転売ではないことを地権者間(=組合内部)で確認し、これを書面化しておくことが何よりも有効です。

5.
「増床は法令で決まっている」
「増床制限は制度的に必要」

【解説】
これらは、増床制限は法令等で定められていると地権者に誤認させる手口だと考えられます。
彼らが得意とするのは、地権者が再開発の知識に疎いことに乗じ「都市再開発法」の条文の「一部のみ」を切り取り地権者へ説明する手法です。
それが条文全体の文脈と異なることは言うまでもありません。このようなケースでは必ずその根拠を書面で提出するよう業者側へ求め、専門家の力も借りて書面内容を精査することが有効です。
都市再開発法に「増床の定義」や「増床を制限する規定」が存在しない以上、それらを策定するのは事業主体である地権者側(=組合)です。あたかも「増床制限」が最初から決まっているかの如く説明するような業者は協力業者としての資質に問題がありますので要注意です。

6.
「増床は例外的な措置である」

【解説】
業者側は「組合が必要と認めた場合には」や「過小床の地権者に限る」と言った説明を行うことで、あたかも「増床は例外的に認められる措置」だと言う印象操作を地権者に対して行おうとします。しかし、本来「増床」は事業主体である地権者が持つ固有の権利です。それを「増床は例外的な措置」と見做すのであれば、まさしくそれは地権者が自由に床を取得する機会を奪う権利の侵害だと言えます。この点にもご注意ください。

業者側の様々な「迷言」に共通する点

各地の再開発業者(実際には再開発業者側の意向を汲んだコンサルが地権者との窓口になることが多い)が放つ様々な「増床制限」の理屈には、以下の共通点が見られます。

① 増床はあくまでも「例外的に認められる行為」である、
② 増床は「保留床の売却(=特定分譲床)」である、

の2点です。
そしてこれらの理屈を正当化しようと、彼らは都市再開発法第74条、77条、79条などの条文の一部のみを切り取りあたかもそれが法令そのものであるかの印象操作を行おうとしますのでくれぐれもご注意ください。
そもそも、

都市再開発法には地権者の増床を
明確に否定する条文など存在しません!

従い、増床制限をかけようとするのはあくまでも再開発業者側の希望にすぎず、事業主体である地権者側が主導すれば増床は可能であることを地権者は理解する必要があります。

増床制限の背景

それにしても、なぜ再開発業者側は「増床制限」に固執するのか?
その根源は再開発業者が保留床(=開発利益)の独占を企てるために近隣相場を無視して設定する「激安保留床単価」にあります。(注2)
保留床単価が低いほど保留床面積は増えるので再開発業者(=参加組合員)は儲かる仕組みですが、逆に権利床面積はその分減ってしまうので地権者は損をします。もし地権者側も激安保留床単価で自由に増床できることとなれば、保留床面積(=開発利益)がその分圧縮されるため、何としてでも地権者の増床には制限を加えたいと考えるのが業者側のロジックです。

(注2)「激安保留床単価」のメカニズムについては以下のトピックスをご参照ください。
(178)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(前編)
(179)「保留床総取り」のカラクリと業者の手口(後編)

一方、地権者にとり「増床」は有償とは言え決して悪い話ではありません。
仮に業者側が「激安保留床単価」を押し切ったとしても、地権者側も「同じ激安単価での自由な増床」が可能となれば、一旦は業者に吸い取られた開発利益の一部を取り返すことが可能となるからです。
激安価格で床を購入して相場で売却すれば瞬時に莫大な「売却益」が見込め、また売却せずに保有し続けたとしても莫大な「含み益」を得ることが出来ると言うロジックです。地権者個々人の「増床余力」に差は出ますが、総論としては決して悪い話ではありません。(注3)

(注3)たとえ資金力に乏しい地権者であっても、権利変換計画に基づく「増床」であれば金融機関から安定した債権と見做される可能性が高いため、融資が受けやすくなるとの見立てもあります。

結局のところ、業者側による恣意的な増床制限を排除するには、事業主体である地権者側が自ら「増床の定義」や「増床ルール」を策定し、それらを明文化させた上で事業計画書に組み入れることが有効だと考えられます。
因みに、本組合設立後には地権者側の交渉力は相対的に低下し、逆に再開発業者側の発言力が増す傾向が見受けられるため、「増床」の定義やルール作りは組合設立前の準備組合段階で論議し、これを明文化させて本組合へ引き継ぐことが肝要かと思われます。

まとめ

増床制限は地権者にとり「百害あって一利なし」と言っても過言ではありません。なぜなら増床制限は、地権者の権利(=自由な生活設計)を否定する一方で、再開発業者が保留床(=開発利益)を独占することを制度的に保証しようとするものだからです。

業者側は地権者が再開発への知識や経験に乏しいことに乗じて様々な理屈のもとに「増床制限」を課そうとして来ます。しかし、業者側の説明には制度的にも法的にも根拠に乏しい「迷言」が多く見受けられますので地権者は決して彼らの説明を額面通りに捉えるべきではありません。

再開発(第一種市街地再開発事業)の事業主体は再開発業者ではなく地権者です!その地権者が資金を負担して床を買い増す行為は事業主体としての当然の権利であると言う認識を地権者個々人が持つことが先ずは大切ではないでしょうか?

仮に「激安保留床単価」が実行されてしまったとしても、地権者側も同じ激安単価で自由に増床できるのであれば、業者側に吸い取られた開発利益の一部を地権者が取り返すチャンス(=本来、地権者が得る筈であった開発利益を増床の形で業者から取り戻す機会)となり得ることもご認識ください。
何れにしても増床ルールを策定するのは事業主体である地権者です。
従い、再開発業者が放つ様々な「迷言」にはくれぐれもご注意を!

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