
前トピックス(271)に引き続き「激安保留床単価」について取り上げます。
住友不動産や三菱地所など一部の再開発業者は、「激安保留床単価」を既成事実化させることで開発利益(=保留床)の総取りを狙う実態が見えて来ました。
もしこれを容認すれば権利床面積は減少し地権者は損をすることになります。開発利益を真っ先に享受すべきは事業主である「地権者」なのですから、これではまるで「トンビに油揚げをさらわれる」ようなものです。
極めて理不尽だと言わざるを得ません!
本トピックスでは、「激安保留床単価」と言う、再開発業者が語ろうとしないこの歪な仕組みについて、地権者はもとより一般社会の皆さまへもわかりやすく解説して参ります。
1. 知られざる再開発ビジネスの裏側
2. そもそも「保留床」とは何か?
3.なぜ業者は「激安保留床単価」にこだわる?
4.「激安保留床単価」こそが再開発の暗闇部分!
5.まとめ
知られざる再開発ビジネスの裏側
住友不動産や三菱地所など一部の再開発業者は再開発の提案を行う際、地区内の地権者たちに対し「老朽化した街がきれいに生まれ変わる」、「防災面が強化される」、「持ち出しなしで新築の床が貰える」、「資産価値が向上する」などと言った前向きなイメージばかりを宣伝します。 しかし、その裏側で彼らは地元地権者たちが気づかぬうちに、
地権者の犠牲のもとで再開発業者だけが莫大な利益を確保する仕組みを秘密裏に構築して行くことがわかってきており、地権者は要注意です。 その際、再開発業者が最も重視するのが「激安保留床単価」の既成事実化です。まさにこの「激安保留床単価」こそが再開発業者に莫大な利益をもたらす「打ち出の小槌」だと言っても過言ではありません。
そもそも保留床とは何か?

前トピックス(271)でも説明しましたが、再開発事業は再開発施設の一部を再開発業者(=参加組合員)へ売却することで事業費の不足額を賄う仕組みです。そしてこの売却額を、近隣相場に基づく適正単価で割って得られた床面積が業者側が得る「保留床」となります。(注1)
この「保留床」は後日分譲マンションとして売られたり、或いは事務所や店舗として賃貸されることで再開発業者側に利益をもたらします。
つまり保留床こそが再開発業者の収益源となるのです。
(注1)再開発業者が保留床処分金(=事業費の不足額)を拠出した事実を以て「従前評価に基づく地権者の権利床面積」以外の床面積すべてが自動的に業者側の保留床になるわけでありません。保留床面積はあくまでも近隣地区における市場単価等を参考に適切な水準で決定されなければなりませんが、再開発業者はこの部分を無視するので要注意です。
なぜ業者は「激安保留床単価」にこだわる?

保留床面積は以下の数式で決まります。
保留床面積=保留床処分金÷保留床単価
この内、「保留床処分金」は定額ですから、あとは「保留床単価」が低いほど「保留床面積」は増える仕組みです。(一方、「保留床面積」が増えると、その分「権利床面積」は減少するので地権者は損をします。)
再開発業者は営利企業ですから、当然、彼らは収益源となる保留床面積を最大化させたいと考えます。
そこで業者側はあらゆる手段と理屈を駆使して保留床単価を激安レベルに設定し、保留床面積の最大化を図ろうとするのです。単価が低ければ低いほど業者の利益は増えて行くからです。
これが(地権者の犠牲のもとで)再開発業者が「激安保留床単価」を使い開発利益(保留床)の独占を図ろうとする基本構図です。
「激安保留床単価」こそが再開発の暗闇部分!
「近隣相場の半値以下」などと言った誰が見ても異常と言えるほど低い水準で設定される「激安保留床単価」。なぜそんなことが出来るのか?
それを知るヒントは「組合組織の傀儡化」と「徹底した秘密主義」にあると考えられます。
【組合組織の傀儡化】
再開発の事業主体はあくまでも地権者ですから、重要事項の意思決定は地権者で組織される再開発組合がこれを行います。このことはつまり、たとえ「激安保留床単価」であってもそれを組合総会で決議さえすれば正当化されることになります。
ならば最初から組合組織をまるごと傀儡化させてしまおう!
と言うのが一部再開発業者が企てる手法です。
その様な業者は準備組合の設立時から「事業協力者」と称して自ら組合内に入り込み、「激安保留床単価」の既成事実化に向けての仕込み作りを内部から秘密裏に構築して行くようです。
その具体的手口は様々ですが、例えば業者に従順な地権者たちを集めて組合の理事長や理事に祭り上げることで彼らを業者の「操り人形」に仕立て上げる。次にその彼らに業者側に有利な内容の「業務協力に関する契約」を締結させ、業者がコンサルや不動産鑑定士を選定する権利を得たり、或いは参加組合員として保留床を独占的に購入する権利を得たり、といった「激安保留床単価」の既成事実化に向けての仕組みづくりを着々と進めて行きます。また再開発業者が返済能力が無いと知りながら、敢えて準備組合へ億単位もの資金を融資することで強力な発言権を得ようとするのも傀儡化の手法の一つだと考えられています。
【徹底した秘密主義】
一方で、徹底した秘密主義も激安保留床単価の既成事実化に一役買っています。本来、再開発は補助金(=市民の税金)も投入される極めて公共性の高い事業ですから、当然、事業の透明性が強く求められます。
しかし、業者が設定する「激安保留床単価」や、それを既成事実化するための様々な仕掛けは不当・不合理なものばかりのため、地権者や一般社会から問題提起された場合、再開発業者側は正論を以てこれを論破することが出来ません。
そこで重要事項については徹底して「秘密主義」を貫くと言うのが彼らのセオリーのようです。
実際に多くの準備組合では、組合が再開発業者と締結した「業務協力に関する契約書」や「融資契約」等の重要書類を地権者へ開示しません。(注2)
(注2)当地区(泉岳寺)の準備組合に至っては、契約書類の非開示どころか準備組合事務所へのアクセスそのものを住友不動産が管理しており、地元理事長でさえ組合事務所の鍵を持たされず自由に事務所に出入りできないと言うのですから驚きです。「地権者が主体の準備組合」とは名ばかりで、その実態は「住友不動産の現場事務所」そのものです!
まとめ
「激安保留床単価」は再開発業者が大儲けするための「打ち出の小槌」だと言っても過言ではありません。
その一方で「激安保留床単価」は再開発業者にとり急所でもあります。
「急所」とは攻撃されると致命的な影響を受けやすい部分を言います。
もし「激安保留床単価」が「適正単価」へ是正されるとなれば、業者側の利益は激減することになります。
「激安保留床単価」の適用は地権者の損失に直結するだけに、地権者側は「激安保留床単価」の是正に向け、再開発業者側と積極的に議論を行う必要があります。
地権者には「正論」と言う強い味方がついていますので躊躇する必要などありません。
国土交通省も「激安保留床単価」の是正に動き始めたいま、再開発業者に今すぐ実行させるべきは、
① 情報公開、
② 保留床単価設定の透明化、
③ 開発利益の配分の取り決め、
の3点ではないでしょうか?
今や各地の地権者たちは急速に知識と知見を身に付けつつあり、地区同士の情報共有も進みつつあります。「激安保留床単価」についても各地で議論されるようになって来ました。
再開発業者側もこの問題に正面から向き合い、地権者の疑問や要望に抽象的な形ではなく具体的に答えて行く姿勢が必要です。
まさにこれこそがデベロッパーとしての業者の「役割」であり「責務」ではないでしょうか?