●別の項で、口約束は実行されないことが多いことを述べました。ならば約束ごとを書面で取り交わしておけば手放しで安心できるかと言うと実はそうとも言えません。再開発は15年、20年、場合によってはそれ以上かかる息の長い事業です。その間に大災害や経済不況など何が起こるか予測できないし、事業者はあらゆるリスクに柔軟に対応できるよう、日ごろから対策を立てています。このような事情もあり、事業者からすれば出来るだけ地権者との約束には縛られたくないと言う心理が働きます。これは営利目的でリスク分散をはかりながら再開発を進めようとする事業者である以上、当然のことです。
●そこで地権者が事業者から入手する書面の中味が重要になってきます。
たとえ書面を入手したとしても曖昧な表現の個所があれば要注意です。また「xxxが生じた場合には別途協議する」など逃げ道が記されているケースが多いので、書面を入手しても中身を精査することが肝要です。
●曖昧な書面の代表例が、2018年に事業者が泉岳寺の地権者に対して配布した「モデル権利変換書」です。
(その詳細については謎の「モデル権利変換書」をクリック下さい)
この書類は各地権者の従前・従後の資産額をモデルとして示したもので、各地権者に配られました。自分の資産の評価額がどれくらいあり、そして将来、地権者棟へ入居した場合、高層階や中層階ごとにそれぞれ何平米の床面積が貰えるのかが一目でわかる構成になっています。これを見て心をときめかせた地権者も多かったかも知れません。
しかしこの書類、良く見ると誰が作成したのか全くわかりません。事業者名や責任者印はもちろん無く、窓口である準備組合の名前すらありません。おまけに「モデル」、「概算値」、「今後変更となる場合がある」など逃げ道が随所に記載されています。
何れにしても、知名度の高い事業者が取り仕切る泉岳寺の再開発計画において、「誰が作成したかも不明な書類」を地権者へ提示して同意書への捺印を取ろうとしたのですから、事業者側のコンプライアンスは一体どうなっているのか疑いたくもなります。
自分たちが提示する書類にはハンコを押さず、地権者から取り付ける書類にはハンコを押せと言うのですから全く不公平であり不平等です。
このように再開発は地権者にとり不利で不平等なことばかりなのです。
書面をとったからと安心していてはいけません。必ず中身を精査して下さい!
出来れば専門家のチェックも受けて下さい。素人判断は自己リスクとなります!