都内各地の再開発の地権者団体や専門家との情報交換を続けて来た結果、再開発事業の全体像が浮かび上がって来ました。
再開発計画区域の地権者の皆さまは民間事業者と話をしていて何か不自然さを感じたことはないでしょうか?
そうです、彼らは「権利変換」や「買い取り」の話ばかりで、再開発と言いながら、その全体像や収益構造についてはなかなか具体的に話してはくれない。
それはいったい何故なのか?
見えてきたのは、「全体像をベールに包まなければ進められないのが再開発」であると言う現実です。
このため地権者に対しては「森を見せずに木だけ見せる」のが各地で事業者がよく使う手法なのだそうです。
何故そうするのか? なぜ「木ばかり見せて森を見せない」のか?
それは「ビルの大半を事業者が独り占めしようとする地上げ事業」だからです。しかも「再開発にすれば、事業者へ行政から多額の補助金まで交付」される。その補助金は言うまでもなく私たちの税金です。
事業者にとり、これほどうまい話はありません。
このため事業者は、「再開発」の名の下に何としてでも土地を地上げしたいと動くわけです。 しかしこれを進めるには「地権者の同意」取得が必須です。
もしここで全体像を見せてしまうとなかなか地権者も首をタテに振らない。そこで「森を見せずに木だけ見せる」。だから事業者は地権者が関心を示す「権利変換」や「買い取り」の話ばかりを盛んに持ち出して来るのです。一方、地権者側もその多くは再開発の知識などありませんから、木の部分だけ見せられて、
「あっ、いいな。持ち出しなしで新築マンションに住める」、
「だいたい同じ床面積を確保できれば、よしとするか」、
「引っ越し費用や仮住まいの費用まで払ってくれるの?悪いなぁ~」、
などと軽く考えて同意をしてしまう。
しかし果たしてそれで良いのでしょうか?地権者である以上、「木」だけではなく「森」も見た上での判断が必要です。
では次に「森」の話をします。
再開発では、先ず事業者が地権者から土地を地上げして敷地を共同化し、そこへ高層ビルを建設したり公共施設用地を作ったりします。地権者は原則として等価で再開発ビルの床(権利床)を取得し、事業者は高層化で新たに生み出された残りの床(保留床)を得ると教えられます。つまり新しいビルは権利床(=地権者の取り分)と保留床(=事業者の取り分)とで構成されることになりますが、ここで問題とされるべきは両者の取り分比率です。
いくら事業者が営利目的だ、事業費がかかる、などと主張しても、「他人の褌」で相撲を取り、取り分まで独り占めしようとすれば反発を招きかねません。
市街地再開発のイメージ図(出所:国土交通省ホームページ)
上の図は国土交通省が作成したもので、両者が折半となるよう描かれています。しかし現実には折半とはなりません。埼玉大学名誉教授である岩見良太郎氏が以前に大都市圏の保留床を伴う再開発事業に
ついて調査を行ったところ、どこも概ね「権利床が2割、保留床が8割」と言う結果が出たそうです。国交省が描いた図のように権利床が半分を占める再開発など殆ど無かったそうです。
再開発は地権者が供出する土地があってこそ実現出来る事業です。その地権者の取り分が「2割」だとわかれば多くの地権者は納得しないでしょう。
事業者が「木だけ見せて森を見せようとしない」理由はここにあります。
さて泉岳寺の場合はどうか? 同意書に捺印する前に、この点ははっきりと確認しておくべきです。都市計画決定が実行されてからでは遅いのです。