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(160)地権者に「事業リスク」がとれるのか?

投稿日:2022年11月21日


現在、国内で計画されている再開発事業の大半は第一種市街地再開発事業(組合施工型再開発)と言い、それは組合(=地権者)が「事業リスク」をとる形で進められる事業です。

世間では再開発事業で損失が出れば、再開発事業者(デベロッパー)がそれを補填してくれると思われがちですが、これは間違いです。損失が発生すれば、デベロッパーが自らリスクを負担する旨の取り決めを組合と結んでいない限り、組合(=地権者)がそれを負担することになる。それが上記の「第一種市街地再開発事業」なのです。

再開発は事業規模が極めて大きい(従ってリスクも大きい)だけに、そこで生じる「事業リスク」を、リスク管理能力も資金力も無い「個人の地権者」に負担させることには最初から無理があるのではないでしょうか?

地権者は本当に「事業リスク」をとれるのか?

本トピックスではこのテーマについて考えてみます。

そもそも「事業リスク」とは何か?

「事業リスク」とは、事業を進めて行く上で起こり得るあらゆるリスクのことを総称して言います。事業リスクの代表的な例としては、「景気変動による市況の悪化」「地震や風水害などによる被害」「火災」などがあり、更に近年発生した「原発事故」「コロナ禍」を始め、「戦争」「気候変動」なども事業リスクに含められます。また再開発計画が順調に進んでいるように見えても、その進行過程において例えば取引先が倒産し、その結果「工事が中断」したり、「代金回収が不能」になったりすることも事業リスクの一つとして認識されます。事業自体に違法性があったとして第三者から「事業差し止め訴訟」などを受けたりするのも事業リスクです。
つまり、何らかの問題が発生し、それが事業の損失に繋がるものであれば、それらの全てが「事業リスク」だと言っても過言ではありません。これらのリスクを地権者が自己責任で一手に引き受けるというのが第一種市街地再開発事業なのです。

再開発事業は総工費が500億円、1,000億円、或いはそれ以上の額となる大規模事業投資であり、且つ、竣工まで15年、20年と言った長期間を要する事業です。それだけに、事業者は期間中に様々なリスクが発生し得ることを想定して事前に対策を講じておく必要があり、またリスクが生じた場合には、迅速かつ適切に対応することが求められます。一定規模の企業であれば、このようなリスクマネージメントを適切に行うことが可能ですが、個人が主体である一般地権者の場合、これを行うことが極めて難しいと言った現実があります。

事業リスクへの備え

一般に企業の場合、事業投融資案件が一定規模(例えば数十億円)に達すると、社内で投融資委員会やリスクマネージメントチームと言った組織が編成され、外部の専門家なども交え、投融資対象の資産価値や投資収益率(ROI)は勿論のこと、財務・法務・環境など、あらゆる観点から詳細なる調査や分析が行なわれます。
《業界ではこれを「デュー・ディリジェンス」(due diligence)と呼んでいます。》
ひとたびリスクが発生すれば、事業規模に比例して高額な損失が発生する懸念があるだけに、企業は常にそのようなリスクを念頭に、適切なリスクヘッジ策をあらかじめ講じながら事業を運営して行く必要に迫られるのです。

地権者に果たして「事業リスク」がとれるのか?

「企業」や「団体」が地権者である場合はまだ良いのですが、「個人」が地権者である場合には「リスク管理能力」の面で問題が生じてきます。
再開発は老朽化した建物の多い住宅密集地域など、個人の地権者が多く住む地区が対象となるケースが多いことから、一般的には地権者の大半は個人であり、且つその多くは高齢者であると言った現実があります。
そうなると

再開発と言う大規模事業投資において
個人に果たして「事業リスク」が取れるのか?

と言った切実な問題が生じてきます。
残念ながら、現状では答えは「NO」と言わざるを得ません。

そもそも多くの地権者は個人ベースでリスク管理を行う能力を持ち合わせていません。自分たちが「事業リスク」を取ることすら認識していない地権者も数多く存在します。更には「事業リスク」と言われ、即座にそれが何であるかを説明できる地権者も多くはいません。そのようなレベルの地権者に対して再開発事業者側が何の詳細説明も行わぬまま(少なくとも当地区の住友不動産はそのような説明を行っていません!)、地権者側へ「事業リスク」を負わせようとすること自体、無謀だと言わざるを得ません。準備組合へ問い合わせたところで、多くの場合、準備組合は再開発事業者が牛耳る組織と化していますから、地権者の立場に立った適切なアドバイスが得られる保証はありません。

「事業リスク」をとるのは悪いことなのか?

「事業リスク」をとると言うことは、自己責任で事業に参画することを意味しますが、それ自体は決して悪いことではありません。
結果が「凶」と出れば損失が生じる反面、「吉」と出れば利益を享受できるからです。
しかし再開発事業の場合は必ずしもそうではないようです(少なくとも、当地の住友再開発の場合はそうではありません)
「凶」と出れば無限責任を負わされる一方で、「吉」と出ても得るのは基本的に「等価相当の床」だけだからです。
リターンが最初から期待できない以上、地権者には「事業リスク」をとってまで再開発を進めるメリットなどありません。

まとめ

全国各地の再開発区域における地権者層の多くは「個人」であり、且つ「高齢者」であると言う現実があります。
その中には既に現役を退き、「年金」や「退職金」を頼りに生活している方々も多数おられます。再開発ではそのような高齢者も含めた地権者全員を対象に、一律に「事業リスク」を持たせてしまおうと言うのですから無謀であると言わざるを得ません。

リスクマネージメントもできない地権者たちが、
再開発と言う巨大事業の「リスク」を負わせられる!

 

そのような現実が果たして社会通念上許されるのかを、私たちは冷静になって考え直して見る必要があります。
「事業リスク」をとると言うことを決して安易に考えるべきではありません。場合によっては個人資産を失うこともあるからです。
[詳しくは、(55):地権者必見!再開発の破たん事例(その1)(56):地権者必見!再開発の破たん事例(その2)、をご参照下さい]

再開発は事業規模が大きいだけに、ひとたび問題が発生すれば、多額の損失が発生します。それだけに地権者は「事業リスク」が何であるかをしっかりと理解する必要があります。
後日、「こんな筈ではなかった」と後悔しないためにも、このことはとても重要です。

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