本トピックスは(169) 「準備組合」支配の3要件の続編です。
トピックス(169)では、再開発業者がなぜ「準備組合」を実効支配しようとするのか、地権者目線で見えて来たその「理由」並びに「手口」について解説を行いました。本トピックスでは、今度は再開発業者に実効支配された準備組合の見分け方について指南します。
傀儡「準備組合」とは
「傀儡(かいらい)」とは、自己の主義主張を持たず、他人の言いなりになって行動する者や組織のことを言います。わかり易く言えば「操り人形」です。
トピックス(169)でも指摘した通り、準備組合の設立にあたり、再開発事業者側は事業経験や統括能力の無い、いわゆる「素人」を準備組合役員に祭り上げる傾向があるようです。そのような輩が準備組合役員に就任すれば、当然ながら「これから先、何をすべきか良くわからない」と言うことになり、結局は「事業協力者」を名乗る再開発業者に業務を丸投げする結果をもたらします。まさにこれは再開発業者の望むところです。
更に再開発業者は、「準備組合が金融機関から融資を受けられない」と言う弱点を逆手に取り、自ら返済能力に乏しい準備組合に対して多額の活動資金の融資を行うことで準備組合を「借金漬け」にしようとします。
その結果、準備組合内部で貸し手側(=再開発業者側)の発言力が強まるであろうことは想像に難くありません。
以上を纏めると、再開発業者が「準備組合」を支配するための仕掛けとして、
① 素人+②丸投げ+③借金漬け=傀儡準備組合
と言う公式が成り立ちます。
もちろん世間では「地権者が主体」となり健全な形で運営されている準備組合も多々ある筈です。また仮に傀儡ではとの疑惑を持たれたとしても、準備組合側は「そのような事実はない」などと一貫して否認し続けるであろうことは容易に想像できます。しかし、
準備組合が業者の傀儡であるかを判断するのは地権者です。
準備組合側ではありません!
地権者は準備組合が健全な形で運営されているのかを日頃から注視しておく必要があります。「無知」、「無関心」は致命的となりかねません。
傀儡「準備組合」の見分け方
準備組合は「地権者が主体」となり組織・運営されることが大前提です。
万が一にも、再開発事業者が主導するようなことがあってはなりません。
この点はとても重要です。なぜなら地権者と再開発業者とは利益相反関係にあるため、業者の利益は地権者の不利益となり得るからです。
では、傀儡化しているのかをどのような形で見分けたら良いのか?
準備組合の運営実態や、彼らが提案する諸施策を注意して見ていればある程度の見極めは可能です。
今回は当地区で問題となっている3件の事例を取り上げ、それぞれについて傀儡かどうかの見極め方を解説します。
事例①:住友不動産の具体的役割が知らされない謎
準備組合の運営面でいまだにはっきりしないのがこのテーマです。
準備組合は5年間も住友不動産は「事業協力者」だと言い続けており、そう思い込ませるよう地権者を誘導して来ました。しかし「事業協力者」に法的定義はありません。従い、住友不動産の「事業協力者」としての具体的役割や権利義務関係を知るには、準備組合が住友不動産と締結した「事業協力に関する覚書」の中身を精査することが不可欠です。
しかし、準備組合はこれを開示しようとしません。
「地権者が主体」である筈の準備組合が、その「地権者」に対し、住友不動産の具体的な役割を定めた「覚書」を開示しないと言うのですから極めて不自然です。契約当事者である住友不動産も沈黙を続けたままです。両者が共に不自然な対応を行っている現状は、まさに準備組合が再開発業者の傀儡組織であることをうかがわせる動かぬ証拠だと言えます。
あくまでも推測ですが、住友不動産から提示された「覚書」の原案を準備組合側が「地権者の立場」で事前に精査することを怠り、結果として地権者側に不利な内容が記された「覚書」にそのまま調印してしまったため、今さら地権者へ開示できないと言った事情があるのかも知れません。
再開発業者が敢えて事業経験に乏しい「素人」を準備組合役員に起用することで「不平等契約」の締結に成功したのだとしたら、まさにそれこそが業者側にとっての傀儡化の利点だったと言えます。
地権者からの度重なる開示要求に対し、当地の準備組合は「事務所へ来れば地権者には見せる」などと言う、投融資ビジネスの世界では考えられぬ弁解で問題の幕引きを謀ろうしました。これも「素人」だからこそ言えた詭弁だったのかも知れません。(仮にこれを業界の大手企業である住友不動産が直接言ったとしたら、社会から問題視されかねません。再開発業者が法人格すら持たない準備組合を意のままに操るメリットはこのようなところでも見え隠れします。)
再開発への勧誘開始から5年が経過した今も住友不動産の具体的役割と責務は今も地権者には知らされておらず謎に包まれたままです。
本来の「地権者が主体」の健全な準備組合では決してあり得ない実態です。
事例②:「1年中陽の当たらない地権者棟」の謎
当地区では2年ほど前、何の事前討議も行われないまま、突然準備組合は、「住居棟のプランが決まった」と発表しました。もちろん日陰問題への言及などないままです。しかし、直感的に何かがおかしいと感じた地権者が私費を投じて図面のコンピューター解析を行った結果、なんと約半数の住戸が、建設予定の高層再開発ビルの陰に隠れ、年間を通して全く陽の当たらない住戸となる事実が判明したのです。それだけではありません。コンピューター解析により日陰線が極小に描かれてた事実まで発覚したのです。
もしこれらが故意だとしたら準備組合は地権者を欺いたことになります。
私たち地元民が知る限り、準備組合の地元役員たちに建築に関する知見を持った輩はいません。従い、このような住居プランも実際には準備組合が再開発業者へすべてを丸投げした結果だった可能性があります。
仮にこの問題が追及されたとしても、一義的に責任をとるのは準備組合であり、再開発業者ではありません。まさに業者にとり傀儡準備組合は、リスク回避の防波堤として実に使い勝手の良い存在だと言えます。
(事例③):なぜ「歩行者デッキ」まで地権者負担なのか?
当地区では近隣のJR駅から再開発ビルへ直結させる「歩行者デッキ」設置構想が準備組合により明らかされました。しかしこれは再開発の区域外に設置される構築物です。
区域外の費用までなぜ地権者が負担しなければならないのか?しかも計画では「建設費」のみならず、設置後の「維持管理費」まで地権者が負担すると言うのですから論理的に説明がつきません。
歩行者デッキが再開発ビルと直結することで得をするのは住友不動産です。一方、地権者にとっては余分な出費となり、その分、権利変換で貰える筈の床面積が減る懸念が生じます。
本来これほど不合理な事案は、準備組合が先頭に立ち、地権者の立場で論議すべきですが、残念ながらそのような痕跡は見当たりません。
当地区の準備組合が「地権者」と「再開発事業者」のどちらを向いて活動を行っているのかが如実にわかる事例だと言えます。
まとめ
果たして準備組合は本当に「地権者が主体」の組織だと言えるのか?
それを判断するのは地元の地権者です。準備組合ではありません。
もし準備組合が再開発業者の傀儡であれば、その影響は準備組合の運営や施策に如実に現れますので比較的容易に見破ることが出来ます。
このため地権者側は準備組合の「言動」や「施策」、「運営」等に日頃から注視しておくことが望まれます。
そして、もし傀儡準備組合である疑いが浮上すれば、直ちにそのような準備組合とは距離を置かれることをお薦めします。
地権者と再開発業者とは利益が相反関係にあるため、再開発業者が主導する準備組合のもとでは、地権者が不利な扱いを受ける懸念が高まるからです。
また、過去に何度もお伝えしている通り、地権者は自身で「理解」し「納得」しない限り、決して再開発には同意しないことが重要です。地権者の「合意形成」がなされぬ限り、再開発が進むことは無いからです。