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(180)「開発利益」をめぐるカラクリと手口 

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本トピックスは「カラクリと手口シリーズ」の第5弾です。
「開発利益」をめぐっても様々な「落とし穴」が存在しますので要注意です。

開発利益とは?

「開発利益」とは、容積率の緩和に伴う従前土地評価額の上昇分のことを言います。上図が示す通り、再開発を行うことで今まで空間の何もなかったスペースに膨大な面積の床が新たに創出されるのですから、再開発では多額の「開発利益」が創出されると言っても過言ではありません。
再開発は「地権者が主体」となり進める事業ですから、当然、そのような「開発利益」を地権者間でいかに公平に分配するかが重要となります。
一方、再開発事業者は「開発利益が何であるか」を地権者へ詳しく説明しないケースが多いようです。当地区の住友不動産はまさにその典型で、彼らは準備組合を使い「地権者は従前評価に応じた権利床を取得する」などと、地権者に本質を理解させない曖昧な説明に固執するばかりで、「開発利益」ついては5年が経過した今も詳細説明を行いません。地権者への配分は最低限に抑え、「開発利益」の大半は業者側が独占しようとする目論見なのでしょうか?

開発利益は誰のもの?

そもそも再開発(第一種市街地再開発事業)は、地権者が主体となり、土地資産を供出し、更に事業リスクまでとりながら進めて行く事業です。従い、地権者には当然、「開発利益」を享受する権利があります。
その「開発利益」を地権者の従前評価等にどのように反映させるかは地権者側が内部でしっかり議論した上で決めるべき事柄であり、再開発事業者側の意向や論理に従って決めるべきものではありません。
「地権者」と「再開発事業者」とは利益相反関係にあることを、地権者側は今一度しっかり認識する必要があります。)

さて、その「開発利益」ですが、もしこれを「従前評価に加味しない」方針とした場合、地権者間で待遇上の差別が生じることになり、場合によっては地権者を分断する争いとなりかねませんので注意が必要です。
なぜそうなるのかは以下で詳しく説明します。

「開発利益ぬき」は地権者間の不平等を助長!

地権者には「権利変換者」及び「転出者」の2種類があります。もし「開発利益」を従前評価に加味しないとなれば地権者はどうなるのか?
結論から言うと、「権利変換者」にはさほど大きな影響は及びません。
なぜなら、権利変換者が得る「権利床」は、「従前評価」によってではなく、再開発事業者(参加組合員)が購入する「保留床の単価」によって決まるからです。
(注:ここは大変重要なポイントですので、忘れずにご記憶下さい!)
その一方で、不利益を受けるのは「転出者」です!
「転出者」とは、権利変換を希望せず地区外へ転出する地権者のことで、彼らは従前資産評価に基づき補償金を受け取ります。
もし開発利益が加味されないとなれば、転出補償金が大幅に減ります。開発利益は莫大ですから、受取額にも大きな開きが出ることになります。
このように、「権利変換者」も「転出者」も同じ地権者でありながら、「従前評価に開発利益を加味しない」場合、両者に不平等が生じることになります。

業者の狙いは「地権者の分断」にあり?

「まさか!」とお思いでしょうが、そう信じるに足るシナリオが存在します。再開発事業者は先ず、自らが実効支配する「準備組合」に対して「従前評価に開発利益を反映させない」方針を決めさせます。(注)

(注):その理由は、「開発利益」を反映させれば「転出補償費が増大」し、「総事業費の増加」を招くため、結局その負担は、事業費の不足分を賄うために保留床を購入する再開発事業者(参加組合員)にのしかかって来るからだと考えられます。

「開発利益を反映させない」となれば、転出者からは「差別だ」、「不平等だ」として、準備組合を巻き込み「争い」が起き、地権者が2つに「分断」される懸念が生じて来ます。
いままで仲良く暮らしてきた住民同士が、「再開発計画」が原因で互いに争うようになるのです。まさに「まちづくり」ならぬ「まち壊し」です。
しかし、争いが起きても再開発事業者が仲裁に入ることはなく、彼らは「高みの見物」を決め込むことが想定されます。

なぜ彼らは黙って静観するのか?
それは「地権者の分断」は再開発事業者にとり好都合だからです。

再開発事業者が一番触れられたくない問題!
それは「保留床単価」の不透明な値決めに関してです!

 

もし「開発利益」をめぐり地権者同士が対立して分断が生じれば、地権者の関心を「従前評価」に集中させることで再開発事業者による不透明な「保留床単価」の決定プロセスから地権者の関心をそらすことができるだけでなく、地権者が団結して再開発事業者(参加組合員)に対して「保留床単価の交渉」をしてくることも回避できるからです。
これも業者の手口の一つだと考えられますので地権者は要注意です。

「開発利益」をめぐる論議

ところで「開発利益」を従前評価に加味するか否かについては、今も各地で様々な議論があります。しかし最終的には事業主体である地権者側が決める事柄です。
もし加味するとした場合には、準備組合段階で予めこのことを具体的に関係者間で書面にて取り決めておくことが肝要です。
なぜなら、都市再開発法第80条1項では、従前資産の価額を「評価基準日における近隣の土地・建物・権利などの取引価格等を考慮して定める」としているだけで、そこに「開発利益」への具体的言及は無いからです。(注:そもそも都市再開発法には「開発利益」の定義が存在しません。)
だからこそ事業主体である地権者が自ら準備組合段階で特記事項として取り決めておく必要があります。ここでは「沈黙は損なり」となります。

まとめ

「開発利益」は黙っていてはその恩恵にあずかることは出来ません。
再開発事業者にその大半を持っていかれる懸念があるからです。
もし「従前価格に開発利益を加味しない」となれば、同じ地権者でも「権利変換者」と「転出者」とで待遇面での格差が生じます。その結果、準備組合も巻き込む形で地権者が分断される懸念が生じます。
「地権者の分断」で得をするのは再開発事業者です。
なぜなら彼らには「分断」により、

1.地権者の関心を不透明な「保留床単価」決めからそらすことができる、
2.地権者が業者側へ「保留床単価」の交渉をしてくることを回避できる、

と言った2つの利点があるからです。
「一石二鳥」とはまさにこのことを言います。
更に、地権者同士が争いで疲弊した隙を狙って、再開発事業者が「開発利益」をさらって行くとしたら、まさにそれは業者にとっては「漁夫の利」です。逆に地権者から見れば「トンビに油揚げをさらわれる」と言うことになります。

このように再開発事業では「開発利益」ひとつをとってみても、地権者を不利な立場へと追い込む「落とし穴」が随所に仕掛けられています。
地権者の「無知」、「無関心」、「他人任せ」は再開発事業者を利する結果を招きますので、地権者の皆さまはくれぐれもご注意下さい!

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