再開発は地権者が主体となり、事業リスクまで背負って進める事業です。その地権者が、再開発で得られる莫大な「開発利益」を享受することなく、単に「従前資産との等価交換」を行うだけで終わってしまう。
そんな馬鹿げた話などありえないとお思いでしょうが、一部の再開発業者は地権者が知識に疎いことに乗じて、言葉巧みに地権者をそのような方向へと誘導しますのでお気を付けください。
なぜ再開発業者はそのように仕向けるのか?理由ははっきりしています。
再開発ビルの床は「権利床」と「保留床」とで構成されますから、このうちの「権利床」を「従前評価相当分」だと地権者に思い込ませることで、
「権利床」面積を最低限に抑えてしまい、残りの床をすべて再開発業者が「保留床」として総取りしようとする目論見だと考えられます。
業者側の理屈を計算式で表すと、
総床面積-(最低限の)権利床=(最大限の)保留床
となります。もし事実なら、地権者を見下す極めて不誠実な手法です。
「権利床は従前評価に応じて決まる」にご注意!
地権者の皆さまは、日ごろ再開発業者から
「地権者は従前評価に応じた権利床を権利変換で取得します!」
と言った類の言葉を何度も繰り返し聞かされていませんか?
しかし、これは地権者に「再開発の本質」を理解させようとしない、極めて曖昧な説明ですので、決して額面通りに受け取ってはいけません!
業者が敢えてこのような不正確な説明を繰り返すのは彼らの手口です。
彼らのそのような行為を心理学では真理の錯誤効果と言います。
同じ言葉を何度も繰り返し発していれば、例えそれが事実でなくても人々は信じるようになることを言います。
「権利床は従前評価に応じて決まります」
「権利床は従前評価に応じて決まります」
「権利床は従前評価に応じて決まります」
「権利床は従前評価に応じて決まります」
「権利床は従前評価に応じて決まります」
連日、この言葉を繰り返し大手不動産会社から聞かされ続けていれば、知識に疎い地権者であれば「それが真実だ」と信じてしまいがちです。
この手法は米国のトランプ元大統領が好んで使うことで有名です。しかし、これは誤った考えを相手に植え付けかねない不誠実な行為ですので、地権者の皆さまは騙されぬようくれぐれもご注意ください。
本来、再開発事業者が行うべき正しい説明は次の通りです。
【誤】
【再開発業者の、地権者に本質を理解させない曖昧な説明】
↓
【正】
【再開発業者が本来、地権者に対して行うべき正しい説明】
地権者間で権利床を従前評価の割合で分配します。
「権利床」は本来このようにして決まる!
先ずは上記イメージ図をご覧ください。
そもそも再開発(第一種市街地再開発事業)は、再開発施設の一部(=保留床)を再開発事業者(=参加組合員)へ売却処分することで事業費の不足分を賄う仕組みです。そして地権者は保留床を売却した残りを権利床として無償で取得する仕組みです。
この仕組みを知っていれば、再開発業者が言い続ける「権利床は従前評価に応じて決まる」との説明が如何に不正確かがご理解頂ける筈です。
ここが業者が「真実を語ろうとしない部分」であり、同時に「落とし穴」でもありますので、皆さまもぜひともご記憶願います!。
ここは大変重要なポイントですのでもう一度以下の通り整理します。
【権利床の決まり方】
●地権者の取り分である「権利床」は最初から決まっているのではなく、建設された再開発施設の一部(=保留床)を再開発事業者(=参加組合員)へ売却することで事業費を賄い、地権者は保留床を売却した残りを権利床として無償で取得する仕組みです。
●これを計算式で表すと以下の通りです。
権利床=総床面積-(業者へ売却する)保留床
●ここで地権者が決して忘れてはならないのは、次の2点です。
① 「権利床」は保留床面積が確定した後に決まる点、
② 業者が獲得する保留床の面積は、「売却額」ではなく、「保留床単価」によって決まる点、
●従い、「権利床」面積も「保留床単価」がいくらになるかで決まります。
「保留床単価」が低いほど保留床は増えるので権利床は減ります。逆に、「保留床単価」が高いほど保留床は減り、その分権利床が増えるので地権者は得をします。要するに「権利床」の面積は「保留床単価」をいくらに設定するかで決まる仕組みです。
以上が再開発の基本的な仕組みです。
業者の手口にはご注意あれ
多くの再開発業者は上記の仕組みを語ろうとしません。何故なら彼らは自社利益の極大化のため、地権者の取り分(権利床)を犠牲にしてでも、自分たちの収益源である「保留床」を最大限確保したいと考えるからです。
そしてこれを実現すべく、彼らは先ずは準備組合や組合を傀儡化させ、次に自社の息のかかったコンサルや鑑定士を起用することで、最終的に自社に都合の良い「保留床単価」を算出させようとするのです。極めて悪質な手口ですので地権者の皆さまは、これをしっかりとご認識ください。
実は、業者側にも弱みがある!
再開発事業者の最終目的は、彼らの収益源となる「保留床」を、格安の「保留床単価」で地権者の知らぬ間に「安値総取り」してしまうことです。
従い、
再開発業者が何よりも恐れるのは
地権者の関心が「保留床単価」へ向かうこと
だと言っても過言ではありません。
再開発業者側が地権者に対して「権利床」や「従前評価」の話はしても、「保留床」を含む再開発の全体像について語ろうとしないのは、彼らには「保留床単価」を追究されたくない弱みがあるからだと考えられます。
「木を見せて森を見せない」とは、まさにこのようなことを言います。
地権者としての対策は?
地権者の皆さまは是非とも「保留床」に関する質問を業者側へ積極的に投げかけてください。とりわけ「保留床単価」の算出方法に関しては、決して妥協せず、それが「中立的な立場の鑑定士により行われること」や、「相場に準じて単価が算出されること」などを必ず書面にて取り付けてください。
再開発業者側は「詳細は再開発の進捗と共に決まって行く」、「法律に基づき適切に処理します」、「弁護士は○○だと言っている」などと逃げ口上を述べるかも知れません。ひどい業者になると「再開発とはそういうものだ」と開き直ったり、「自分たちは事業協力者に過ぎないので準備組合に聞いてくれ」などと逃げたりします。
しかし、保留床を買うのは再開発業者(=参加組合員)であり、その「買い手」へ質問するのですから、地権者側にためらう理由などありません。
もし保留床の「買い手」から曖昧な回答しか返ってこないとしたら、再開発話には何らかの裏事情があると考えるべきです。何れにしても、「買い手」が「買い金額」を決めると言った馬鹿げた事態とならぬよう、業者側への監視は必須です。
まとめ
もし「地権者は等価交換して終わり」であるならば、わざわざ事業リスクをとり、何年先に実現するかも不透明な再開発話に期待する意味などありません。多少税金を払ってでも、今すぐ自己の土地資産を処分して希望する場所へ転居した方が時間的にも精神的にもはるかに楽だからです。
以前からお伝えしている通り、再開発話には再開発業者側が仕掛けた「落とし穴」が随所に潜んでいます。
穴に落ちないためには、地権者自身が再開発についての知識と知見を深める以外に方法はありません。
再開発は、地権者の「無知」、「無関心」、「他人任せ」に付け込むビジネスであることを再度ご認識下さい。
そして何よりも重要なこと。
それは、自身で理解し納得しない限り、決して再開発には同意しないことです。業者が如何なる美辞麗句を並べ立てようと、再開発は不動産取引であることを決して忘れるべきではありません。