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(231)注目の「渋谷ホームズ再開発」が大変なことに…

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再開発への賛否を巡り地権者が突然分裂!

地権者の分裂は再開発では良くある話です。
しかし「都市計画決定」が実行され「再開発組合設立」を目前に控えた段階での地権者の分裂は珍しいのではないでしょうか?
渋谷ホームズの再開発(正式名:公園通り西地区第一種市街地再開発事業)でそれは起きました。
原因は、デベロッパー(東急不動産・清水建設)との度重なる条件交渉にも関わらず地権者側の「還元率」が一向に改善しない点にあるようです。(注1)
もはや再開発にメリットは無いと判断した一部の地権者が独自に「渋谷ホームズの情報を共有する会」なる団体を立ち上げ、突如「再開発中止」に向けた活動をはじめました。

(注1) 還元率(=権利変換率)とは、従前の床面積に対し従後にどれだけの面積が得られるか、その割合を百分率(%)で表したものです。例えば従前100㎡の床が従後に80㎡の床へ変換された場合、還元率は80%となります。

そもそも「渋谷ホームズ再開発」とは?

もともとは老朽化した「渋谷ホームズ」(築49年、地上14階建て、総戸数272戸)の「単独建て替え事業」として始まったこのプロジェクト。
しかし、隣接する区立神南小学校の建替え費用を民間の渋谷ホームズ側が負担することを条件に容積率緩和と容積率移転による1,000%の容積率を渋谷区から引き出し、これを「再開発事業」として仕立て直したことから、その手法や区の公共財産処分のあり方を巡り世間で論争が起き、メディアにもたびたび取り上げられたことで、ご記憶の方も多いかと思います。

当HPでも本年2月、(209)事業費高騰で地権者はどうなる?(続編)において、「事業費高騰」と「激安保留床単価」が地権者の還元率を圧迫しかねない事例として渋谷ホームズを取り上げていますが、まさに半年を経てその懸念が現実のものとなった感があります。

何が問題だったのか?

一言で言えば、デベロッパー側との度重なる交渉にも関わらず「地権者の還元率が一向に改善されなかった」点に尽きるようです。
再開発により専有面積が約5,300坪から約12,000坪へと2倍以上拡大するにも関わらず、自分たちの居住面積(還元率)は逆に70%前後にまで減ってしまうと言うのですから地権者が納得できないのも当然です。
因みに、下表は当HPが半年前に(209)事業費高騰で地権者はどうなる?(続編)で報じた3項目の条件を現在の条件と比較したものです。

表からもわかる通り、「事業費」は830億円へと55%も増加しましたが、デベロッパー側はこれを上回る率で「保留床単価」の引き上げに応じたため「還元率」は僅かながら上昇する結果となっています。しかし、「こんな還元率では納得できない」と言うのが再開発中止派の主張のようです。
確かに70%台と言うのはかなり厳しい還元率であり、これで果たして地権者が余裕を持った生活再建ができるのか疑問の残るところです。

低い「還元率」は安い「保留床単価」が原因!

再開発中止派の方々の中には「低い還元率の原因は低い従前評価額にある」との認識があるようですが、当サイトでは、原因は近隣相場から大きく乖離した「安い保留床単価」にあると考えています。
先ずは「論より証拠」、当方の調べでは近隣マンションの分譲相場は以下の通りとなっています。

【渋谷駅周辺の高級マンション相場(2024.8現在)】

プラウド神宮前
坪1,600万円

ブランズ渋谷桜丘
坪2,000~2,500万円

宮益坂ザレジデンス
(宮益坂ビルディング建替)
坪1,700万円

デベロッパー側は保留床単価を坪630万円から坪1,000万円へと59%引き上げましたが、上記の近隣相場と比較すればまだまだ安いを言わざるを得ません。近隣地区の分譲相場は坪1,600~2,500万円だからです。一般にマンション分譲業者の粗利は販売額の20%程度と言われていますから、その分を差引いた後の適正保留床単価は坪1,280~2,000万円となります。デベロッパー側が提示(=譲歩)した「保留床単価1,000万円」はまだ安い水準にあり、これが低い還元率の原因だと考えられます。

解決策はないものか?

地権者が再開発の是非をめぐり2つに分裂したとは言え、「還元率が低すぎる」と言う点では両者の考えは一致しているようです。従い、先ずは両者が一致団結してデベロッパー側と強く交渉し、「還元率」を両者が納得できるレベルまで引き上げることが急務ではないでしょうか?
還元率の向上には「保留床単価」の更なる引き上げが不可欠ですが、渋谷近辺での適正な保留床単価水準は坪1,280~2,000万円のレンジですから、デベロッパー側が提示した保留床単価(1,000万円/坪)は依然として低い水準にあり、引き上げの余地は残っている筈です。
私たちの試算では、保留床単価が1,100万円になれば還元率は80%を超えます。更に保留床単価が1,200万円となれば、還元率は95%にまで上昇します。(注2)
更には、低い保留床単価で妥協せざるを得なかった場合に備え、地権者側もそのような低い保留床単価で自由に増床できるルール等を予め明文化しておくこともリスクヘッジ策として有効かも知れません。(注3)
せっかく「都市計画決定」まで進んだ事案ですから、なんとか地権者全員が納得できる解決策を見出して貰いたいものです。

(注2)デベロッパー(参加組合員)の支払う「保留床処分金」は定額ですから、その中で保留床単価が上がれば保留床面積は減り、逆にその分、権利床面積は増えるので地権者の還元率は改善する仕組みです。
(注3)増床とは、地権者が権利床と同じ区画を有償にて追加取得すること、及び追加取得する床そのものを言います。保留床単価が安ければ、地権者だってその安値で床を買い増したいと思うのは当然のことです。増床が自由にできるルールとなれば、地権者も安い保留床単価の恩恵にあずかることが可能となります。

まとめ

初期の段階からデベロッパーが強引に再開発事業を推し進めようとする住友方式の再開発事業とは異なり、渋谷ホームズの場合は「自分たちで建替えよう!」と言った、まさに住民自らの「発意」と「合意」が出発点となっている点に特徴があります。真に「地権者が主体」の再開発事業であるだけに、せっかく「都市計画決定」まで進めることが出来た現段階で、この事業を中止に追い込んでしまうのは少々もったいない気がします。

デベロッパー側が提示した「保留床単価」にはまだ余裕がある以上、もう一度地権者が一致団結して「適正保留床単価」に向けた交渉に注力することが肝要なのではないでしょうか?(注4)
(尚、この他にも、例えば地権者に現状面積以上の増床を禁止する「増床制限」の撤廃など、解決すべき問題はいくつか存在するようです。)

8月31日には再開発準備組合の臨時総会が開催予定だと聞いており、そこで今後の基本方針が確認されるようですので、どのような結論となるか気になるところです。

(注4)渋谷ホームズの地権者層には、不動産、建築、法務、事業投資、と言った専門分野で知識と知見を有する人たちが多数存在しています。このため彼らはデベロッパーが他地区でよく行う、「地権者は等価交換して終わり」などと繰り返し言い続ける手法で相手を納得させることができるような地権者層ではありません。それだけにデベロッパー側にも、渋谷ホームズの地権者たちを対等な交渉相手として尊重し、曖昧な説明は避け、理詰めで地権者との交渉に臨む姿勢が何よりも求められるのではないでしょうか?

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