「最近のトピックスは難しすぎてどうも良くわからない」とのコメントが閲覧者の皆さまから複数寄せられています。
確かに「再開発は初めて」と言う方々にとっては、再開発業者の手口を詳しく解説する最近のトピックスは少々難解かも知れません。
そこで本トピックスでは「ある日突然、自分たちの住まいが再開発計画地に指定され、どう対応してよいかわからない」と言った皆さまを念頭に、
これだけは知っておきたいポイント
を簡単にまとめてみました。少しでも皆様のお役に立てることが出来れば幸いです。
1.再開発とは?
2.再開発は「地主」と「高齢者」にとっては致命的
3.地権者として心得ておくべき点
4.再開発の留意点(一覧)
5.再開発のイメージ図
6.まとめ
再開発とは?
各地で展開される再開発計画の多くは、第一種市街地再開発事業と言い、それは地権者及び借地権者が事業主体(注1)となり、数百億円規模の事業リスクを自ら引き受けながら進めて行く「街づくり」です。
再開発は当該地区における地権者及び借地権者のそれぞれの2/3以上が同意することで正式に決まります。一旦決まると地区内の不同意者も含め全員が再開発事業へ参画させられることになりますので、地権者の皆さんは再開発に応じるか否かを事前にしっかり皆で話し合った上で慎重に判断する必要があります。
一方で、再開発は数百億円規模の莫大な「開発利益」が見込める極めて収益性の高い事業でもあります。それだけに、一部の再開発業者は自社で「開発利益」を独占しようと企てることがわかってきました。資本主義の世の中ですから、民間の営利企業が利益の最大化を目指すこと自体に何ら問題はありません。しかし、一部の業者は「地権者を犠牲にしてでも自社で開発利益を独占」しようとするので要注意です。従い、地権者側としてはそうならぬよう主体性を持って事業を進めることが強く求められます。もしこれを怠ると、本来地権者が享受すべき「開発利益」まで再開発業者に吸い取られ、地権者は「等価交換して終わり」となりかねませんのでご注意ください。「まさか大手の再開発業者がそのようなことを!」とお思いでしょうが、これが再開発事業における現実なのです。(注2)
再開発は「地主」と「高齢者」にとっては致命的
なぜ再開発は「土地所有者」と「高齢者」にとり決定的に不利なのか?
その理由を以下に説明します。
土地所有者は再開発で確実に損をする!
再開発では「土地」と言う不動産が再開発ビルの「床」と言う減価償却資産へ変換されますから、土地所有者の場合は確実に損をします。
土地は30年後も50年後も不動産としての価値を持ち続けますが、再開発ビルの床は、例え権利変換の当日は「等価交換」であったとしても、その翌日から床の価値は減少して行き20年もすれば価値は半減してしまいます。まさに再開発は「1,000万円の土地を同額の高級車と交換する」のと同じです。自動車は10年もすれば二束三文となってしまいますので、誰も土地と交換しようなどとは思いません。再開発も同様です。
尚、再開発業者はこの事実に言及したがりませんのでご注意ください!
再開発は高齢者にとり「生き地獄」そのもの!
一般に再開発は竣工まで20年前後を要する長期事業であることから高齢者にとっては致命的です。その間に2度の引っ越しに加え、「仮住まい先探し」では今も高齢者には部屋を貸したがらない家主が多いと言う現実があります。今まであった「ご近所付き合い」は消滅しますし、仮住まい先が区市町村外となれば介護支援体制も変更となり、場合によっては病院や担当医も変更を余儀なくされます。そして何より辛いのは健康年齢や寿命により永遠に戻れないシナリオも想定しなければならないことです。
再開発業者はあたかも7~8年で完成するようなことを言いますが、決して彼らを信じてはいけません!あの有名な六本木ヒルズの再開発も準備組合設立から竣工まで18年の歳月を費やしています。またその近隣で進行中の「三田小山町西地区再開発」に至っては、30年が経過した今も建設工事は始まっておらず、竣工まで35年前後かかる見込みです。
再開発は高齢者にとってはまさに生き地獄だと言っても過言ではありません。また再開発が竣工まで20年前後かかる前提に立てば、現在40歳代以上の現役世代の皆さんも要注意です。今は安定収入があっても20年後には自身が年金生活者となる可能性があるからです。
地権者として心得ておくべき点
ある日突然、再開発の説明会へ召集され、再開発業者の社員たちから膨大な資料を手渡されると同時に、あたかも再開発が既定路線であるかのような説明を一方的に受ければ、驚きと共に地権者としてどう対応したら良いのか悩むのは当然のことです。
しかし「再開発への基本姿勢」と共に、再開発へ地権者を誘導しようとする「業者の手口」さえ知っていれば不安も半減します。
それらを思いつくまま以下にメモ形式でまとめてみました。
〇 先ずは再開発を難しく考えない
- 難しいと思わせるのが業者の手口。
- ポイントさえ押さえておけば当面は安心。
〇 重要なポイントは以下の2つ
1. 自分の資産がどうなるのか?
2. 将来の生活改善が果たして期待できるのか?
〇 一旦「都市計画決定」まで進むと後戻りは困難
再開発の第一段階である「都市計画決定」(=法律による地域全体の網掛け)は区市町村の行政判断で決まりますが、その判断基準は区市町村により異なりますのでご注意ください。(港区の場合は「概ね8割の地権者同意」を要件としていますが、他地区では「準備組合加入率」を重視するなど基準はまちまちです。)
– 従い、自身で十分に「理解」し「納得」しない限りあらゆる書類に対して決してハンコを押さない、また準備組合にも加入しない。
〇 その他
– 安易に「準備組合」へ加入しない。(そもそも準備組合は法人格の認められていない任意団体にすぎない)
準備組合は地権者主体を標榜しつつも、実際には「事業協力者」を名乗る再開発業者が実質主導(=支配)するケースがあるので要注意。
もし「役員」や「事業協力者」の選定方法等に不透明さがあれば加入し
ない。(触らぬ神に祟りなし!)
- 一人では決して業者側と面談しない(個人面談は業者の得意技)
- 一人で悩まず集団でまとまること(数は力なり)
– 業者側の提案は必ず書面で確認すること(口約束は守られない!)
再開発の留意点(一覧)
① 土地所有者は「土地から床」への変換で確実に損をする!
(床は減価償却資産。土地を失えば担保価値もなくなる)
② 地権者は事業リスクまで取らされながら「等価交換して終わり」
(しかも従前資産の評価基準は最も安い「路線価」の場合が多い)
③ 再開発後の「生活改善」どころか「生活再建」すら困難となる恐れ
(新居での高い維持管理費等、年金生活者には生活が困難)
④ 再開発は竣工まで20年前後かかる息の長い事業
(その間2度の引っ越し等もあり、高齢者にとっては地獄。)
⑤ 「事業リスク」は地権者負担である
(事業損失が出れば業者側ではなく地権者側が損失を補てん。)
⑥ 開発利益が得られぬなら再開発に応じるメリットはない!
(「等価交換して終わり」なら、今すぐ土地を売却した方が楽で得)
⑦ すべての書類には「理解」し「納得」しない限りハンコを押さない!
(同意書、各種調査、総会への委任状、アンケート等、全てが対象)
⑧ 自身で「理解」し「納得」しない限り準備組合には加入しない!
(加入=賛同者とされる。また借入金返済義務を負う懸念もあり)
再開発のイメージ図
埼玉大・岩見名誉教授が実施した首都圏の再開発調査ではどこも概ね、
権利床(=権利者取り分)が2割 ←地権者は等価交換して終わり
保留床(=事業者取り分)が8割 ←開発利益は業者が独占
再開発を行うことで今まで空間の何も無かった部分に新たに創出される床の地価上昇分を言います。
まとめ
今回は「再開発は初めて」と言う地権者の皆さま向けに「要点」を簡単にまとめてみました。
全体的にネガティブな書き方をしているように見えますが、私たちは決して再開発事業そのものは否定的には捉えてはいません。
再開発事業は地域の新たな「街づくり」であると共に、極めて収益性の高い事業でもあるため、地元地権者が名実ともに事業主体となり「地権者の、地権者による、地権者のための事業」として推進することが出来れば多額の開発利益の恩恵にあずかることが出来るからです。
問題は再開発事業者も同じことを考えている点にあります。彼らも営利目的で再開発事業に参入する民間業者ですから、開発利益の一部を享受する権利は当然あります。しかし住友不動産や三菱地所など一部の業者は、地権者には開発利益を与えず「等価交換して終わり」とする一方で、「開発利益」は自社で独占しようとすることが、各地の地権者団体が行った試算結果等で見えてきていますので地権者は要注意です。(注3)
また港区でも、三菱地所が総事業費1,500億円の再開発計画で1,850億円もの「含み益」を得る試算結果が出ていますが、一方で「地権者は等価交換して終わり」の処遇であることから地元で反発が起きています。(詳しくは(228)港区でも再開発業者の「ぼろ儲け」が発覚か?をご覧ください。) 住民側による試算とは言え、三菱地所が得る予定の1,850億円という額は半端ではありません。当該地区の地権者総数は約150名ですから、「含み益」1,850億円を地権者数で割れば一人当たり約12億円にもなります。「含み益」を三菱地所と折半したとしても一人当たり約6億円、1/3だったとしても一人当たり約4億円です。無視できない額です。
結局のところ、地権者は素人集団であるが故に、百戦錬磨で狡猾な一部の再開発業者をコントロールしきれない点に問題の所在があります。
しかし、
1.自分の資産がどうなるのか?
2.将来の生活改善が期待できるのか?
の2点に集中して考えれば、再開発はさほど難しくはありません。
一方、地権者側による「無知」、「無関心」、「他人任せ」は業者側を利するだけですので、そのような事態とならぬよう地権者の皆さんも団結すると同時に、日々勉強することで再開発の基礎知識を身に付けて行く努力も必要ではないでしょうか?
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