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(264)業者の「朝三暮四」の手口にご注意!

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「朝三暮四」とは中国・宗の時代の寓話で、猿飼いが「朝に3つ、夕方に4つ餌を与える」と言ったところ猿たちは怒り出したが、「朝に4つ、夕方に3つならどうか?」と言い換えると猿たちは喜んでこれを受け入れたと言う話です。
つまり、言っていることの本質は変わらないのに、「言い方」や「見せ方」を変えることで相手を納得させようとする手法を表した「たとえ話」です。
再開発においては、再開発業者側(コンサル・鑑定士等を含む)がこのトリッキーな手口を使うことがあるので地権者は注意が必要です!

 

Contents
1. 業者はなぜ「朝三暮四」の手口を使うのか?
2. 「朝三暮四」が使われる背景
3. 「朝三暮四」の事例
4. まとめ

業者はなぜ「朝三暮四」の手口を使うのか?

一言で言えば、「秘密事項」や「落とし穴」の多い再開発事業において

業者側は地権者たちを正論を以て説得することが出来ないから

に他なりません。
残念ながら地権者の多くは再開発知識に疎いと言う現実があります。
業者側はこれを逆手に取り、たとえ地権者側が不公正な実態に気づいて問題提起を行ったとしても、業者側はトリッキーな説明(=詭弁)を駆使して地権者側を煙に巻こうとし、それが結果的に「朝三暮四」的な弁解に繋がるのだと考えられます。

「朝三暮四」が使われる背景

そもそも地権者と再開発業者とは互いに利益相反関係にあります。
業者側が日頃から自らを「事業協力者」と称しているのは単に地権者を安心させるための詭弁に過ぎないと心得てください。
地権者側の関心事が権利床面積(=還元率)の最大化にあるのに対し、再開発業者の目的は保留床面積(=開発利益)の最大化にあります。

 再開発ビルの総床面積 = 権利床面積 + 保留床面積 

ですから、「保留床面積」が増えればその分「権利床面積」は減り、逆に「保留床面積」が減ればその分「権利床面積」は増えると言った具合に、両者は互いに床面積を取り合う関係にあります。
床の分配をめぐり両者が対等な立場で協議出来れば良いのですが、現実はそうではありません。多くの現場では再開発業者側が主導権を握り、一方的に激安の「保留床単価」を既成事実化させるなどして保留床面積(=開発利益)の独占を図ろうとします。(注1)

(注1)再開発では再開発ビルの一部(保留床)を再開発事業者(参加組合員)へ売却することで再開発の事業費の不足分を賄う仕組みで、その際の売却額は定数(Fixed Amount)となります。
一方、保留床の面積売却額÷保留床単価で決まります。
つまり、保留床の「売却額」が決まれば、あとは「保留床単価」をいくらに設定するかで、保留床面積及び権利床面積は自ずと算出されます。
ここで地権者が警戒すべきは、業者側はあらゆる手段を駆使して実勢相場の半値以下などと言う「激安保留床単価」を既成事実化させようとしてくる点です。

理由は「保留床単価」が低いほど保留床面積は増えるからです。
しかしその分、地権者が得る「権利床面積」は減ってしまう

ので地権者は要注意です。

近年、再開発の基礎知識を身に付けた多くの地権者たちが各地でこの矛盾に気づき、業者側へ問題提起をするようになって来ました。しかし論点は矛盾に満ち溢れているため業者側は正論を以てその正当性を説明することが出来ません。そのような場面で多用されるのが「朝三暮四」の手口だと考えられますので地権者はご注意ください。

「朝三暮四」の事例

多くの場合、業者による「朝三暮四」的な誘導は地権者の従後資産(例えば、権利床単価や還元率)がらみで語られることが多いようです。

【事例①】

「還元率(注2)が80%であっても、
低層階なら100%を実現できますよ!」

これは「全体還元率80%」を誤魔化し、「一部の例外(低層階)だけを切り取って100%と見せる」業者側の典型的な数字のマジックです。(注3)
「全体還元率80%」に不満を持つ地権者に対し、「低層階なら100%です」と説明することでその場を切り抜けようとする、まさに「朝三暮四」的な詭弁だと言えます。
一般に「全体還元率が80%」なら低層階の還元率はそれより高くなるのは当たり前のことです! 「還元率100%が得られた」などと喜んでいたら、なんと該当物件は1区画しかなかったと言うことだってあり得ます。
結局のところ、業者側は「言い方」や「見せ方」を変えただけで、全体の還元率80%が改善される訳ではありませんので地権者はご注意ください。

(注2) 還元率とは、従前の床面積に対し従後にどれだけの面積が得られるか、その割合を百分率(%)で表したものです。例えば従前100㎡の床が従後に80㎡の床へ変換される場合、還元率は80%となります。

(注3) あくまでも住友不動産三菱地所などの一部の業者を念頭に置いたものであり、すべての業者がそうだと断定するものではありません。

【事例②】

「室内仕様を落とせば還元率は上がりますよ!」

「仕様を落とせば還元率アップ」と一見“得”に見えますが、よくよく考えてみるとスペックダウンにより「住環境」や「資産価値」も当然落ちて行きますので、地権者には「百害あって一利なし」です。
これも地権者の心理(数字の増加=得)を突いた「朝三暮四」的な巧妙な手口ですので地権者は要注意です。

【事例③】

「権利床単価を保留床単価より低く設定
しますのでお得ですよ!」

こちらも本質的に権利床面積を決めるのは保留床単価なのに、「権利床単価を安く見せて地権者が得をしたように演出」するトリックです。
実態は変わらないのに「数字」で誤魔化そうとする、まさに朝三暮四的な論理誘導だと言えます。
業者は権利床面積を決めるのは「権利床単価」ではなく「保留床単価」だと言う事実には一切言及しないまま、単に地権者に適用される「権利床単価」を「保留床単価」よりも低く見せることで、あたかも地権者側の得る権利床面積が増えて還元率が上昇したと錯覚させようとしますので地権者はご注意ください。(注4)

(注4) この手口は三菱地所が芝三丁目西地区の地権者たちに対して使ったことが世間の知るところとなり問題化しました。詳しくは(239)業者が行う「権利変換説明」にはご注意あれ!をご参照ください。
三菱地所は、地権者が「権利床面積」に関心を寄せがちな点に着目し、権利床単価を「270万円/坪」に設定する一方で、保留床単価を「440万円/坪」としたことであたかも地権者が得をしたような演出を試みています。しかし権利床面積を決めるのは「権利床単価」ではなく「保留床単価」ですから、これは三菱側が地権者に対して還元率が改善すると思わせるためのトリックだったと考えられます。(実は三菱側の真の目的は、低い権利床単価に地権者の関心が集まっている間に、近隣相場の半値以下である「440万円/坪」と言う「激安保留床単価」を既成事実化させることで保留床面積の最大化を図ろうとした点にあったと推測されます。)

まとめ

前トピックス(263)では「鵜飼いの鵜」に言及しましたが、本トピックスでは「猿飼いの猿」をテーマとして取上げました。

再開発における「朝三暮四」的な詭弁とは、言っていることの本質は変わらないのに、「言い方」や「見せ方」を変えることで地権者側があたかも得をしたかのように思わせる情報操作的な手法を言います。
今回は「言い換えのごまかし」事例として

① 数字の切り取り、② 仕様変更の押し付け、③ 単価操作

の3点を取り上げましたが、他にも様々なものがありますので地権者は決してこの手法に乗せられないことが肝要です。

「言い換えによるごまかし」は
どの地区でも起こり得ます!

地権者側の防御策として重要なのは「全体を見てどれだけ得をするのか」を常に考えながら業者側の説明を聞くことです。
そして何かおかしいと感じたら、必ず業者側から書面による説明を取り付けることが肝要です。説明会や面談の場では、周囲の雰囲気に圧倒され冷静な判断が出来ないことが多々あり、ましてや口頭による説明や取決めは後日「言った言わない」でトラブルとなる可能性があります。
書面で説明を取り付ければ後日冷静に内容を精査することが出来ますし、場合によっては弁護士等の専門意見を仰ぐなどして妥当性を検証することも可能となります。

再開発事業も不動産取引である以上、地権者は思わぬ「落とし穴」にはまらぬよう、日頃から

石橋を叩いても渡らない

くらいの慎重姿勢で臨んでも良いのではないでしょうか?
後日「こんな筈ではなかった」と後悔しないためにもこのことは重要です。

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