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(279)再開発の事業環境が変化してきた!

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ご存じの通り、昨今では各地で多くの再開発計画が延期中断に追い込まれており、白紙となる事業も散見されるようになりました。
デベロッパー(再開発業者)の活動に以前のような勢いは見られません。
いったいなぜなのか?
その理由は再開発を取り巻く環境が激的に変化したからに他ありません。建設資材高騰人件費高騰労働力不足行政の審査厳格化地権者の意識変化ゼネコンと再開発業者との力関係の変化株主の短期利益重視の圧力、等々、様々な要因が複合的に作用しはじめた
結果、事業の「採算性」や「実行性」に黄信号が灯りはじめたからです。
本トピックスでは環境変化の主な要因について見て行きます。

 

Contents
1. 建設資材の高騰
2. 職人不足(人手不足)
3. 金利の上昇
4. 行政による運用の厳格化
5. 地権者の権利意識の向上
6. ゼネコンの発言力の増大
7. 「物言う株主」の台頭
8. まとめ

建設資材の高騰

世界的なインフレ圧力供給網の混乱、更には円安による輸入建材価格の上昇なども手伝い、鋼材・コンクリート・設備機器など建設に不可欠な資材価格が大きく上昇。資材高は事業費の増加、即ちコスト高につながります。そして事業費が大幅に膨む結果、採算がとれない事業が続出し、これが再開発計画の延期・中断・中止の要因となってきています。

職人不足(人手不足)

少子化による人口減少働き方改革なども手伝い、国内全体で深刻な労働力不足が進行中です。建設業界も例外ではありません。職人や技能労働者が慢性的に不足する一方、既存の労働者に対しては賃金上昇圧力がかかり、人件費の増加がプロジェクトの費用を更に押し上げてしまうと言った悪循環に陥っています。労働力不足は単なる人件費の上昇に止まらず、建設現場の工程遅延をももたらし、工程表通りの完成を困難にします。再開発計画の延期・中断・中止の要因はここにもあります。

金利の上昇

昨今の金利上昇も再開発事業並びに事業を手掛ける業者にとり大きな影響を及ぼしています。一般に再開発業者は事業の性格上、金融機関から多額の長期借入れを行うため、金利上昇は資金調達コストの増加を意味し、再開発事業の採算性を悪化させる要因となります。結果として再開発事業の見直しや延期の判断に影響を与えることになります。(注1)

(注1)例えば、住友不動産の2025年3月期連結決算を見ると、同社は年間売上高1.0兆円に対し、長期借入金が2.9兆円(有利子負債全体では約3.7兆円)と実に売上高の3倍以上の借金があります。低金利時代が終焉を迎えたいま、同社にとり1%の金利上昇は年間数百億円もの返済増となるため、個別事業はもとより経営への影響も無視できません。

一方、金利上昇は「住宅ローンの返済」など床の購入者側にとっても影響をもたらすため、保留床(タワマンやオフィス)の処分にも影響を与えかねません。結果として再開発業者側には「分譲計画」、「販売価格」、「賃貸条件」等の調整を通じて事業計画の見直しや延期を迫られる懸念が生じます。

行政による運営の厳格化

再開発においては、住友不動産や三菱地所と言った一部の再開発業者による「地権者の犠牲のもとに莫大な利益を得るビジネスモデル」が地権者に知れ渡り、各地で行政機関をも巻き込む住民運動が起きるようになって来ています。このため再開発事業を主管する国土交通省は、政府の予算不足とも相まって運営の「厳格化」や「見える化」へとギアチェンジしはじめたようです。
実際に国土交通省は「市街地再開発事業等関連要綱」を一部改正し、2025年3月31日付「業務連絡書」を下部の行政機関へ送付。
①「補助金交付対象」を必要性・緊急性の高い事業に限定すること、
②「保留床単価」が近隣相場と著しく乖離していないことを確認すること、
等を今後各都道府県の市町村へ周知徹底するよう指導しています。
このような要綱改正は「莫大な利益」を目論む再開発業者にとり逆風で、再開発実現への障壁が高くなったことを意味するため、業者側の意欲減退を促し、これが延期・中断・中止の遠因となる可能性もあります。

地権者の権利意識の向上

過去には再開発事業の仕組みやリスクについて地権者側の理解が十分でないまま事業が「業者側の一方的な説明」により半ば強制的に進められるケースが散見されました。しかし近年は地権者側の人権や財産権に対する意識が向上し、再開発の進め方に対する疑問や意見が積極的に公の場で出されるようになり、地権者自身が理解し納得しない限り再開発への同意を行なわない傾向が顕著となって来ました。
一部の再開発業者が行う再開発事業には「地権者への不利な仕組み」や「秘密事項」が多く存在するため、地権者側の「知識」や「権利意識」の向上は再開発業者側との意見調整の難航を意味し、結果として合意形成の長期化をもたらします。
また再開発のメリットとリスクを慎重に比較する地権者も増えてきており、「同意の保留」に止まらず、再開発への「参加辞退」を表明する者や、更には集団で事業の「白紙化」まで求める動きも出てきています。(注2)
これらの行動は何れも再開発事業の進捗を困難にするものであることから、再開発計画の延期・中断・中止の遠因となっていると考えられます。

(注2) 泉岳寺では権利率で約15%に相当する地権者たちが準備組合並びに住友不動産と「絶縁」しています。その結果、都市計画決定に必要な同意率(港区は概ね80%を判断基準としている)の達成が事実上困難となり、住友不動産は2年間の活動休止を経て、昨年12月には準備組合事務所を再開発区域外へ移動させ、少なくとも物理的には地区から去って行きました。

ゼネコンの発言力の増大

従来型の再開発はデベロッパー(再開発業者)が主体となり、傘下のゼネコン(総合建設業者)と協同で進めて行くパターンが一般的でした。
しかし、昨今では建設資材の高騰や職人不足に伴いゼネコンの発言力が強まりつつあり、両者の力関係が逆転する傾向にあるようです。
従来であれば工期遅れを取り戻すため、デベロッパーの要請を受け、ゼネコン側が赤字覚悟で全国から職人、機械、資材等を集中的にかき集めて突貫工事を行うと言ったケースもありました。しかし、昨今ではゼネコン側がコストや安全基準、更には技術的制約と言った観点から逆にデベロッパーに対し「設計変更」や「工期見直し」を求めると言ったケースが増えているようです。
それを象徴する出来事が「中野サンプラザ再開発事業」の頓挫です。
デベロッパーとゼネコンとの力関係が逆転した結果、工事着工を目前に「ゼネコンから提示された予想外の工事費増額」によりデベロッパー側が「梯子を外された」形となり、再開発事業を白紙撤回せざるを得なくなったことはあまりにも有名です。地権者(中野区)の被った損失も甚大です!
再開発事業の「頓挫」は最悪のシナリオですが、そこまで行かないにせよ、デベロッパーとゼネコンとの間で温度差が顕在化しプロジェクト全体の再検討や修正が求められるようになって来ているのは事実のようで、これらも再開発計画が延期・中断・中止に追い込まれる遠因となっているものと考えられます。

「物言う株主」の台頭

「物言う株主」とは、株主の立場を積極的に行使して企業経営に影響を及ぼし、株価をつり上げて利益を得ようとする投資家のことを言います。
「アクティビスト」とも呼ばれ、以前は「村上ファンド」などが有名でしたが昨今では米国系投資ファンドが国内企業をターゲットとし始めています。不動産業界も例外ではありません。米国系アクティビストとして名高い
「エリオット社」(Elliott International, L.P.)は住友不動産の株式3.51%を保有し第三位株主に浮上(2026年1月現在)、既に数多くの要求を経営陣へ突き付けていますので今後の再開発事業への影響が要注目です。なぜなら、米国系アクティビストの主な関心はROE(自己資本利益率)やROI(投資収益率)の改善を通じた株価の上昇(即ち「短期利益」)にあるのに対し、再開発事業は20年先を見据えた「長期事業」であるため、アクティビスト側の「短期目標」とは根本的に相容れないからです。
例えば、住友不動産が再開発推進の常套手段として各地で行ってきた「地上げ」による土地資産の「塩漬け」などは今後問題とされる可能性が高く、また住友が「含み資産」として保有する自社ビルの「即時売却要求」も強まるであろうと想像されます。何れにせよ短期利益を重んじる「物言う株主」の台頭が、長期的視野に立つ再開発事業にとりマイナスに作用することは間違いないようです。

まとめ

昨今、再開発を取り巻く環境が激的に変化した結果、多くの再開発事業が延期中断を余儀なくされており、中には白紙へと追い込まれる事業も散見されるようになって来ました。
これらは「建設コスト」「人繰り」と言った経済的合理性に起因するものが大半ですが、一方で地権者側の権利意識の向上国土交通省の対応の変化にも注視する必要があります。
とりわけ昨年11月に金子国土交通大臣が国会の場で

準備組合は単なる任意団体にすぎず
「都市再開発法」の適用対象外。
たとえ「地権者との約束」が守られなくても
国として法規制は行わない。

と答弁したことが大きな波紋を呼んでいます。
再開発業者側は以前から「準備組合」があたかも正式な団体であるかの
ような説明を行うことで地権者から同意を取り付けて来ました。
しかし、今回の大臣答弁で「もはや準備組合を信じる理由は何もない」ことが地権者間で明らかとなり、今後は「準備組合経由の同意取得」方式そのものが各現場で否定される可能性が出て来ています。このため、事業の延期、中断、白紙化は更に増えるかも知れません。

再開発(第一種市街地再開発事業)はあくまでも地権者が主体となり進める事業です。従い、再開発業者側がいつの間にか主導権を握り、事業を一方的に進めてしまうと言った従来型の運営スタイルは根本的に変革される必要があります。
今後、健全な形で「街づくり」を推進するには、公平、公正、透明性の原則のもとで、関係者が互いに協議しながら新たな再開発モデルを構築して行くことが不可欠だと考えます。
その様に考えれば昨今の再開発事業の延期・中断・白紙化はむしろ「健全な再開発事業とは何か?」を考え直してみるには良い機会だと言えるのではないでしょうか?

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