先ずは事業者が泉岳寺の地権者たちへ配布した以下の「同意書」のひな形をご覧下さい。
これは事業者が「都市計画決定」(=地域全体の法律による網掛け)の実施を港区へ申請する際に必要とされる書類で事業者側が作成したものです。
一見すると普通の同意書に見えますが、その中身たるや事業者側に一方的に有利な内容となっており、まるで地権者の資産を無条件で事業者へ差し出す「白紙委任状」だと公言する人もいるほどです。
「同意書」取り付けの背景
泉岳寺で住友不動産が行おうとしている再開発は「第1種市街地再開発」で、俗に「権利変換方式」とも言わるものです。この方式のもとでは「地権者の同意」を得ることが再開発を進めるための要件とされており、今回の「同意書」は第1段階で「都市計画決定」を実施するために必要とされる地権者の同意です。「都市計画決定」が実行されることで、以後事業者は再開発を正式に進めることが可能となる一方、地権者側の資産には様々な規制の網がかけられることになります。例えば、自宅やマンションの改築や建替えに制限が加えられる他、土地も「規制下におかれた土地」であることから資産価値が下落して行き、売却の際には不利になると言われています。
地権者の資産に制限が加えられるだけに、「同意書」への記名・捺印に際しては、地権者は再開発事業へのしっかりした理解と覚悟を持つことが必要となります。今回の「同意書」はその様に重要な書類であるにもかかわらず、事業者はあの手この手で不当に地権者から取り付けようとしているのです。
その詳細を以下にご説明します。
いったい「同意書」の何が問題なのか?
【問題点1】 事業者側による不当な同意への勧誘
このように「同意書」は地権者にとり極めて重要な意味を持つ書類ですが、それにもかかわらず、事業者は地権者に対して考える時間すら与えませんでした。
2018年3月に地権者を集めた形ばかりの全体説明会が開催され、その場で再開発を行いたいと一方的に宣言が行なわれた後、地権者に考える時間すら与えぬまま、説明会開催の翌週から同意を求めて事業者による勧誘が始まったのです。
当時はまだ再開発の基礎知識すら有していない地権者が大半であったにもかかわらず、住友不動産の名刺を持った人間が地権者宅を積極的に訪れて回り、誰が作成したのかも不明な謎の「権利変換モデル」なる紙切れ(その詳細はトピックス(10)謎のモデル権利変換書をご覧下さい)と共にこの「同意書」を手渡した上、「持ち出し無しで新築マンションに住める」などと都合の良い話ばかりを地権者に聞かせ、更に「取りあえず三文判で結構ですから」などと軽々しい言葉を発しながら同意書への記名・捺印を地権者へ要求したと多くの地権者が証言しています。
住友不動産が言うのだからと、つい相手を信用してしまい記名・捺印して同意書を提出してしまった地権者も多かったのではと思われます。
当時はまだ再開発の基礎知識すら持っていない地権者が大半だったわけで、いま振り返って見ると、事業者は地権者が無知であるうちに、甘い話ばかりを聞かせて「同意」を取れるだけ取ってしまおうと意図的に画策したのではと思わざるを得ません。何故なら、再開発に対する基礎知識や知恵が身についた現在、もし同じ勧誘が行われたならば、おそらく多くの地権者は同意書の内容に疑念を抱き、記名・捺印などしなかったであろうと推測出来るからです。
地権者の無知につけ込む極めて不適切なやり方ではないでしょうか?
企業間であればまだしも、再開発の基礎知識に乏しい一般市民を相手に大企業がこのようなやり方で同意を取付けようとしたのですからフェアであるとは言えません。(住友不動産が敢えて直接の当事者として関与せず、常に「準備組合」なる組織の名の下に勧誘を行う理由が見えてきました!)
本来であれば事業者は時間をかけてでも再開発が地権者の利益になることを詳しく説明し、そして地権者の疑問や要望に誠実に答え、更に抽象的な形ではなく具体的にそれらを書面にて提示した上、「理解し納得したのなら同意してほしい」と説明してから「同意書」への記名・捺印を地権者へお願いする…と言うプロセスを経るのが善良なる事業者の役割であり責務である筈です。
しかし住友不動産はこれを行うことを怠りました。
「持ち出しなしで新築のマンションに住める」と言った類いの甘い言葉を投げかけながら、まだ知識に乏しい地権者から強引に同意書を取付けようとしたのです!
【問題点2】 事業者側に一方的に有利な同意書の中身
あらためて同意書のひな形をご覧下さい。
① 同意書は事業者への白紙委任状?
先ず、この同意書はある意味で「土地を手放す契約書」であると言えます。
通常、資産の価格もわからぬまま契約書にハンコを押す地権者はいません。そこを事業者は良い話ばかりを持ち出して「心配いらない」と言う雰囲気を巧みに作り出し、地権者の資産や権利についての保証を一切しないまま同意書にハンコを押させようとしたのです。この同意書は地権者の資産を事業者へ委ねる白紙委任状に近く、まさに「土地を手放す契約書」であると言えます。
それほど重大な「同意書」にもかかわらず、その中身たるや地権者の権利や保証に関する記載などまるで無いのです!
地権者を「契約に疎い無知な素人集団」であると見たのか、「同意書」は事業者側が一方的に有利となる形で作成されており、地権者にとっては全く不平等な内容だと言わざるを得ません。
② なぜ提出先が準備組合なのか?
前述の勧誘行為をもし住友不動産が直接地権者に対して行なったなら、「知名度の高い大企業が一般人を相手に再開発への同意を不当に勧誘した」などとして社会から問題視されかねません。そこで彼らは「準備組合」なる組織を経由させることで「住友不動産」の社名が世間に出ることがないよう、巧みに仕組み作りを行ったのだと考えられます。
③ 準備組合とはいかなる組織なのか?
今や住友不動産が実質的な事業者として再開発を行おうとしていることは泉岳寺の住民なら誰もが承知しています。しかし、同意書には住友不動産の社名は一切出て来ません。代わりに提出先として出て来るのは「準備組合」なる組織です。
この組織は自らを「再開発事業者」などと称していますが、その実態は法人格すら持たず、業歴も信用力も賠償責任能力も有しない任意団体なのです。理事たちの存在感すら薄いこの団体に対し、地権者は同意書の中に記載されている「たった3行の文章」を以て自己の資産をこの組織に一任しようと言うのですから、どう考えてもおかしな話なのです。
④ その準備組合も実は不当に設立されていた!
その「準備組合」と称する組織も、実は不当に設立されていたことが港区から入手した公式文書にて最近明らかになりました。設立にあたり再開発とは全く関係の無い2つの協議会名が流用されていただけでなく、僅か7名の地権者で総勢260名の地権者の住むエリアを再開発区域として囲ってしまった事実まで明らかとなったのです。
泉岳寺の地権者は総勢260名いて、彼らの資産総額は百億円を上回る額となります。それらの資産を地権者たちはこの法人格も持たぬ任意団体、しかも不当に設立されていた団体に対して資産を一任すると言うのですから恐ろしい話です。
⑤ 賠償能力すら有しない準備組合
結論から言うと、地権者は「準備組合」なる組織を相手にすべきではありません。仮に将来、地権者が「こんな筈ではなかった」として損害賠償を求める訴訟を起こしたとしても、相手が住友不動産であればまだしも、被告が準備組合となると、相手は支払能力に乏しい任意団体であるだけに暗雲が立ちこめて来ます。理事長の個人資産を差し押さえたとしてもその額には限りがあります。
ここで皆さまに知って頂きたいことは、この仕組みの中で例え問題や紛争が生じたとしても、住友不動産は「当事者ではない」として責任を回避するであろうと思われる点です。彼らはプロ集団ですから、こうした事態は承知の上、敢えて「準備組合」を経由させる仕組みを作ったのだと考えられます。
このような枠組みの中で、地権者は「業歴」も「信用」も「資産」も有せず、損害賠償支払い能力もなく、しかも不当に設立されていたことが判明した「準備組合」なる組織に対して「同意書」を出せと言うのですから地権者はたまったものではありません。全くフェアとは言えません。
⑥ 住友不動産の社名がどこにも見当たらない不思議
「同意書」を見ても住友不動産の名前はどこにも書いてありませんし、また事業者も「準備組合」だとされ、そこにも住友の名前は出て来ません。それにもかかわらず、日々地権者のもとへ同意を求めて強引な説得にやってくるのは決まって住友不動産側の人間です。事業者である筈の準備組合の理事たちが説明や説得に来ることはありません。
再開発計画のほぼすべてを牛耳るのが住友不動産であることは、いまや泉岳寺の地権者なら誰もが知っています。それなのに、再開発への不満や要望を住友不動産の社員へ投げかけても、彼らは「私たちは事業協力者です。実際の事業者は住民の皆さまで構成される準備組合です」などと切り返してきます。そう言いつつも対応するのは決まって住友不動産側の人間です。地権者宅へ説明や説得にやってくるのも、会合を取り仕切るのも、そして準備組合事務所へ日々出入りするのも決まって住友不動産側の人間ばかりなのです。
これほど矛盾と不自然さを感じさせられる再開発はありません。
住友不動産が進めようとする再開発事業には「何か裏がある」と多くの地権者が感じ始めています。
同意書の正体(まとめ)
「同意書」は皆さまもご覧になられた通り、事業者側に一方的に有利な内容となっているばかりか、提出先までが法人格も、信用力も賠償支払い能力も持たない「準備組合」なる組織とされています。しかもこの「準備組合」は実は不当な形で設立されていたことまでが港区の公式文書から明らかになりました。
再開発計画を主体的に進めているのは住友不動産ですが、同意書には住友不動産の名前は一切出て来ません。「準備組合」なる組織を事業者に仕立て上げることで、住友不動産はこの組織をリスクヘッジのための防波堤としたいのでしょうが、これは明らかに不自然なやり方だと言わざるを得ません。
本来、泉岳寺の地権者が相手とすべきは住友不動産です!
再開発事業のカラクリがわかってしまった以上、住友不動産も潔く「準備組合」なる組織を経由した不誠実な再開発への勧誘活動は一切取りやめ、今後は直接地権者と対等な立場で話し合い、再開発区域の線引きも含めて最初からやり直すべきです。
そもそも再開発事業は地権者が供出する土地があってこそ実現できる事業です。地権者が同意しない限り事業者は再開発を進めることは出来ません。
この点を住友不動産はしっかりと理解すべきです。
もし住友不動産が不当な手段を用いてでも強引に再開発を進めようとすれば、住民運動は不可避ですし、その後には司法による裁定も待ち構えています。
このことを住友不動産はしっかりと肝に銘じるべきです。