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(175)傀儡型「準備組合」:勧誘されたらどうする?

投稿日:2023年3月20日


本トピックスは
(174) 傀儡型「準備組合」:役員たちの責任は?(その③)の続編です。
トピックス(172)~(174)にて再開発事業者が実効支配する「準備組合」における役員の責任を取り上げたところ、

一般の組合員はどうなのか?
組合から勧誘が来たらどう対応すればよいか?

と言った相談が複数寄せられましたので今回はこの件を取り上げます。

再開発業者に促されるまま加入すべきか?

一般に準備組合が設立されると、まもなく各地権者に対する勧誘活動が始まります。傀儡型準備組合の場合、地権者の元へやって来るのは多くの場合、再開発事業者側の社員です。地元の人間ではありません。なぜそれがわかるかと言うと、彼らはこちらが聞きもしないのに自ら「○○不動産です」など言って再開発事業者の名刺を差し出すからです。
大企業の名刺を差し出すことで相手を安心させる魂胆なのでしょう。
では、再開発業者に促されるまま加入して問題はないのか?
本来、準備組合への加入は地権者個々人の自由裁量です。
しかし、深く考えもせず安易な気持ちで加入することは避けるべきです!
準備組合加入には下記のような「落とし穴」があるからです。

落とし穴①: 準備組合規約

先ずは加入前に準備組合規約をご覧下さい。目的条項には必ずと言って良いほど、「再開発を準備するため」なる文言が入っています。
この文言こそが地権者を不利な立場に陥れかねない「落とし穴」です。
準備組合はこの条文を盾に「加入者全員が再開発に賛成」だと行政に報告し、再開発を進める根拠の一つとして利用する懸念があるからです。
いくら「自分は情報を得るために加入しただけだ」と主張したところで彼らには通じません。「後の祭り」となりますのでご注意ください。

落とし穴②: マンション区分所有者の「強制加入」制度

マンション区分所有者は更に悲惨です。何故なら準備組合では「マンション管理組合」の加入を以て「区分所有者全員」を加入者と見做すやり方が横行しているからです。この場合、加入に際して区分所有者個々人の意思は尊重されません。このやり方では「再開発反対」の区分所有者までもが「再開発に賛成」だとされてしまうので全く不当です。このような不当な手法を平然と行うマンション管理組合には共通点があります。それは「マンション管理組合の理事長などの役職者」に「準備組合の理事」を兼務する輩が含まれている場合が多いと言う点です。
再開発事業者は「準備組合」のみならず、「マンション管理組合」をもこのような手法を用いて傀儡化させ、館内の区分所有者全員を再開発賛成へ誘導しようと企むのでご注意下さい。(注:すべての再開発事業者がそうなのかはわかりませんが、少なくとも住友不動産は各地でこのような手法を使うことが各地の地権者間で知られています)

落とし穴③: 「準備組合はたかが任意団体!」なる油断!

準備組合は「信用」も「実績」も「資金力」もない単なる「任意団体」にすぎず、金融機関から融資を受けることさえできません。しかしそのような組合でも、ある程度組織としての実体が認められる場合には、民法上の「任意組合」若しくは「権利能力なき社団」と見做され、例え任意団体であっても組合が第三者に損害を与えた場合には組合員全員で賠償する責任が問われることになるので注意が必要です。(民法第667~688条、他)
因みに「任意組合」の場合、組合員には「無限責任」が、「権利能力無き社団」の場合、組合員には「有限責任」が課せられる可能性があります。
(注:詳細については弁護士等の専門家へ問い合わせ下さい)
単に「情報を得る目的で加入」しただけなのに、後日高額の損害賠償を第三者から請求されたのでは組合員(=地権者)はたまったものではありません。ご注意下さい。

落とし穴④: 再開発事業者が仕掛ける「債務の罠」(注1)

準備組合が再開発を検討して行くには数億円単位にも上る活動資金を必要とするのが一般的です。しかし準備組合は法人格のない任意団体にすぎず金融機関から融資を受けることも出来ません。準備組合のこの弱みに着目した再開発事業者が、自ら再開発の主導権を握るために数億円単位の活動資金を準備組合へ「融資」の形で提供し、準備組合を借金漬けにしてしまう慣行が各地で横行しているようです。
さてこの借入金には「落とし穴」があります。再開発が実現するのであれば、後日事業費の一部として処理することも可能でしょうが、問題は「再開発が頓挫」した場合です。借入金の返済義務は、役員たちが連帯保証でもしない限り、組合員全員に降りかかって来ます。仮に3億円の債務を100人の組合員全員で分担すれば一人当たりの返済額は300万円となります。地権者にとり決して小さな額ではありませんので注意が必要です。
なぜ「債務の罠」なのか?
最終的には、再開発事業者は地権者から債権を取り立てるようなことはしないと見ています。なぜなら債権を回収したところで営利企業として何の得にもならないばかりか、下手をすればマスコミから「大企業の弱者いじめ」などと報道され企業イメージに傷がつきかねないからです。
では再開発事業者はいったいどのような対応をとるのか?
おそらく彼らは組合員(=地権者)に対し「債務の免除」と引き換えに「再開発の早期実現」を強要するものと推測されます。
そのほうが再開発事業者にとりメリットが大きいからです。
もしそうだとすれば、これは事業主体である「地権者」の意思を愚弄し、「地権者には再開発賛成の選択肢しか与えない」卑劣なやり方だと言えます。地権者にしてみれば「返済と引き換えに魂を売り渡せ」と言われるに等しく、まさにこれが「債務の罠」と言われる所以です。

(注1):「債務の罠」とは一般には二国間の国際援助(融資)に於いて、債務国(開発途上国)が返済不能に陥り、債権国(大国)から返済に替えて様々な拘束を受ける事態に陥ることを言います。中には初めから返済能力が無いことを知りつつ債権国が意図的に融資を増やすケースがあるとの批判もあります。まさにこれは再開発に於いて、「再開発事業者」が「準備組合」に対して返済能力を超えた額の融資を行う状況と似ているとの指摘があります。

いったいどうすれば良いのか?

そもそも再開発(第一種市街地再開発事業)は地権者が主体となり共同で事業リスクを引き受けながら進めて行く事業ですから、準備組合も「地権者主体」で組織・運営されることが大前提です。万が一にも、地権者とは利害が異なる再開発事業者が準備組合を主導するようなことがあってはなりません。
上記の要件をしっかり満たした「準備組合」であれば加入しても何ら問題はありません。しかし一般の地権者にはなかなか見極めができません。

冷静に考えてみればわかることですが、ある日突然、「あなたの土地が再開発区域に指定されたので準備組合に加入してほしい」などと勧誘されても、準備組合が果たして真に「地権者を代表する組織」なのか、それとも「再開発事業者が牛耳る組織」なのかを再開発の基礎知識も経験もない一般の地権者がその場で判断することは至難の業です。
しかし、再開発事業者は敢えて自社の名刺を手渡すことで地権者を安心させようとしますので、頼みもしないのに相手が「大企業の名刺」を差し出してきたら傀儡型準備組合の可能性があると疑ってみるべきです。この「名刺を差し出す」行為も事業者側による「落とし穴」の一つと考え、警戒すべきです。

ではいったいどうすれば良いのか?

最低1年は準備組合には加入せず様子を見る

ことを推奨します。
1年と言う期間は再開発を冷静に考える期間として妥当です。
1年あれば、地権者も再開発の基礎知識を身につけることが出来ますし、準備組合が真に「地権者が主体」の組織なのかも、ある程度見極められるようになるからです。
そもそも再開発は一般に竣工までに20年前後を要する長期事業です。
そのことを勘案すれば「1年」と言う期間は、地権者がしっかり再開発の是非を判断するためには妥当な期間だと言えます。
再開発は地権者が主体となり、自らの大切な土地資産を供出して進める事業である以上、再開発業者の催促に応じる必要など全くありません。

まとめ

加入を検討するに際して、先ず、準備組合は「再開発事業を準備するための組織」であることを肝に銘じて下さい。再開発事業者が実質支配する準備組合のもとで、「情報を得るためにも加入を」などと言われて安易に加入すれば、あっと言う間に「再開発への賛成者」に仕立て上げられる懸念があります。またそのような傀儡型の準備組合へ加入したとしても大した情報は得られません。重要情報は再開発事業者側が囲い込んでしまい、地権者へは開示されないからです。準備組合の理事長や理事たちにさえ重要情報が提供されないことも往々にしてあり、過去には理事が情報開示を求め、再開発業者に支配された準備組合を訴える事件まで発生しています。
そのような準備組合は地権者が付き合うべき相手ではありません。
自己の資産を守るためには、準備組合に加入しないことも立派な選択肢ではないでしょうか?

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