前トピックス(214)激安「保留床単価」で地権者はこれだけ損する!では「権利床」の面積が「保留床単価」により変動することを検証しました。
本トピックスでは、
地権者の得る「権利床」の面積が
「事業費高騰」によっても大きく変動する
ことを検証して参ります。具体的に事業費が10%上昇する毎に、地権者の「還元率」がどう変化して行くかを見て行きます。(注1)
実際に数値を入れて検証してみた!
前トピックスと同じ再開発現場を今回も事例として取り上げます。
前トピックスでは業者側が提示した保留床単価(450万円/坪)が近隣相場と比較して激安であるため、「還元率」を低下させることが判明しました。
一方、事業費高騰に関してこの業者は、最新数字を提示してほしいとの地権者団体の要求に対し「今は出せない」として情報の開示を拒絶しました。(注2) しかし、世間では建設資材の高騰や職人不足等の影響で事業費が急騰し、ここ3年間で総事業費は30~50%も上昇したと言われていますので、今回事例として取り上げた現場も決して例外ではない筈です。(注3)
そこで私たちはここの再開発事業者が3年前に提示した総事業費1,500億円を基準に、以後、総事業費が「10%増加」するごとに地権者の「還元率」がどう変化して行くのかを検証してみることにします。
業者が提示した「総事業費1,500億円」に注目!
以下の図は前トピックス(214)で掲載した図と同じです。今回は右下の「1,500億円」に注目します。総事業費は1,600億円ですが、補助金100億円を控除すると実質の総事業費は1,500億円となります。この額は業者の保留床購入額でもあります。
本トピックスでは、この総事業費の上昇が「還元率」に及ぼす影響を見て行きます。
先ずは前回の「保留床単価」のシミュレーション結果から
以下の表は前のトピックス(214)で行ったシミュレーション結果です。
このシミュレーションでは「保留床単価」を縦軸にとり、「激安の保留床単価」(450万円/坪)が適正相場(800~960万円/坪)に近づくにつれて「還元率」が上昇して行くことを確認しました。
本トピックスではこれに加えて総事業費(補助金控除後)を横軸にとり、「事業費の高騰」が「還元率」へ与える影響も同時に見て行きます。
「事業費高騰」を加味した結果がこれ…
今回のシミュレーションでわかったこと
→還元率は下がる。
たとえ業者の当初の設定還元率が98%であっても、総事業費が3割上昇すれば還元率は39%に減り、5割上昇すれば還元率は0%となり地権者の権利床は消滅する。
② 「総事業費」と「保留床単価」とが同率で上昇した場合、
→還元率は不変
表でもわかる通り、同率なら「98%」の還元率を保つことが可能。
③ 「総事業費」の上昇率が「保留床単価」の上昇率を上回る場合、
→還元率は下がる
赤色で98%と表示されたラインの右側すべてがこれに該当。差が開くほど還元率は低下して行く。
④ 「総事業費」の上昇率より「保留床単価」の上昇率が高い場合、
→還元率は上がる
赤色で98%と表示されたラインの左側すべてがこれに該当。差が開くほど還元率は上昇して行く。
⑤ 「総事業費」の上昇が無かった場合、
→還元率は98%
⑥ 一方「保留床単価」を近隣相場に準拠して決めた場合、
→還元率は183%~202%へと大幅に改善
⑦ 仮に「総事業費」が50%上昇しても、適正な「保留床単価」なら、
→還元率は128%~156%のレンジで維持可能
因みに、上記の中で業者側が主張すると予想されるのは①と③です。
一方、地権者側が前提とすべきは④で、目指すべきは⑥と⑦です。
まとめ
今回のシミュレーション結果をイメージに纏めると以下の通りとなります。
再開発事業者が設定する「激安保留床単価」に加え、昨今の「事業費高騰」がいかに地権者の権利床(=還元率)を圧迫するかがマトリックスから読み取れました。
「事業費高騰」も地権者の
「還元率」を低下させる要因です!
「還元率」は地権者の再開発後の生活再建に大きな影響を与える指標であるだけに、再開発事業者から「想定還元率」を根拠ある説明と共に書面で取り付けておく必要があります。(注4)
尚、マトリックスを見る限り、
事業費が高騰する今は再開発を急ぐ時期ではない
と言えるのではないでしょうか?
しかし「それでも再開発を行う!」と言うのであれば、事前に十分なリスク対策を講じた上で事業計画を進める必要があります。(これは事業投資の世界ではごく当たり前のことですが…)
再開発は自己の土地資産の処分に関る不動産取引ですから、「石橋を叩いても渡らない」くらいの慎重姿勢でも良いのではないでしょうか?
地権者はプロの再開発事業者と比べ、「知識」や「経験」において圧倒的に劣る立場にあるだけに、このことはとても大切です。
後日「こんな筈ではなかった」と後悔することだけは何としても避けたいものです。