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(214)激安「保留床単価」で地権者はこれだけ損する!

投稿日:2024年4月2日

本トピックスは(213)「保留床」激安総取りのしくみ(図解)の続きです。

地権者の得る「権利床」の面積は
実は「保留床単価」により大きく変動します!

もし再開発事業者が保留床を「近隣相場の半値」などと言う「激安単価」で購入すれば、地権者の得る「権利床」は大きく減少してしまいます。
再開発では「保留床単価」が低いと保留床面積は増えるが、その一方で権利床面積は減る仕組みだからです。
では再開発事業者が仕掛ける「激安保留床単価」で地権者はいったいどれだけ損をするのか?本トピックスでは、地権者の「還元率」(注1)の変化を実際に数値で見て行きます。

(注1) 還元率とは、従前の床面積に対し従後にどれだけの面積が得られるか、その割合を百分率(%)で表したものです。例えば従前100㎡の床が従後に80㎡の床へ変換された場合、還元率は80%となります。

実際に数値を入れて検証してみた!

事例として都内の某再開発現場の事業計画を取り上げます。
この現場では住宅街を潰してタワマンを建設する計画が進行中です。
今回はこの地区の再開発事業者が3年前に地元地権者へ提示した
事業計画の概算数字を参考に「還元率」を計算してみます。

この現場を取上げた理由

理由は2つあります。
第1は、業者側が提示した保留床単価が450万円と激安だったこと。
現場は都心の超一等地です。そしてこの業者が自ら「近隣のタワマン」だとして参照した建物の現在の分譲単価は1,000~1,200万円/坪です。
まだ計画段階での概算数字とは言え、この業者が地権者へ提示した保留床単価が「不自然なほど安い単価」であったことに着目。これが地権者の還元率にどう影響するのかを見て行くことにしました。
第2は、この業者が現時点での最新数字の提示を拒絶したこと。
直近3年間で事業費が30~50%も高騰したと言われている不動産業界。「還元率」の低下を心配した地元地権者団体が業者側に対して最新の概算数字を出すよう求めましたが、「今は出せない」と拒絶されたそうです。地権者は「事業リスク」をとる立場にあります。その地権者に対して再開発事業者が最新情報を提供せず「3年前の数字を参照してくれ」とはまさに不誠実そのものです。「事業費に触れられたくはない」ほど費用が高騰している筈だと直感し、敢えてこの現場を取上げることにしました。

事業者が提示した数字を組み合わせるとこうなる…

事業計画(総事業費1,600億円/保留床単価450万円)通り計算すると、地権者側の還元率は98%となり、素人目にはさほど悪い条件には見えません。しかし本当にそうなのか?ここが重要なポイントです。

実はここに大きな「落とし穴」が潜んでいます!

ここが「落とし穴」

冒頭でこの地区を取り上げた理由として以下の2点をあげました。

① 激安の「保留床単価」が提示されたこと
② 業者が現時点での事業計画の最新数字の提示を拒んだこと

まさにこの2点が業者にとって「地権者に問題提起されたくない」部分であり、地権者にとり「落とし穴」となる部分だと考えられます。

結論から言うと、
① 「激安の保留床単価」
② 「昨今の事業費高騰」
の2点は「還元率」を著しく低下させる要因となるので要注意です。

尚、本トピックスでは、主に前者①の「激安保留床単価」を取り上げます。
後者②に関しては別途数字を入れたシミュレーションを行う予定ですが、過去のトピックスでも説明を行っていますので、以下をご参照ください。
(208)事業費高騰で地権者はどうなる?
(209)事業費高騰で地権者はどうなる?(続編)

「還元率」のシミュレーション結果

「保留床単価」が「還元率」に与える影響をシミュレーションしたところ、以下の表の通りとなりました。

【今回のシミュレーションでわかったこと】
保留床単価が上がるほど地権者の還元率は上昇して行く。
② 近隣の分譲相場(1,000~1,200万円/坪)を勘案すれば、保留床単価(粗利20%を考慮した卸値)は800~960万円/坪が適正水準。
③ 適正な単価を採用すれば還元率は183~202%へと倍増する。
④ 結論として業者提示の保留床単価(450万円)は不自然なほど安い。

「激安保留床単価」について

「保留床単価」は低いほど保留床面積は増えて行くので再開発事業者側は得をしますが、逆に権利床面積は減って行くので、「還元率」は低下し地権者側は損をします。
このように

「保留床単価」は地権者の「還元率」を決める際の変数

となるだけに、近隣相場から乖離した「激安の保留床単価」など論外です。

保留床は業者側にとり莫大な利益を生む「宝の山」ですから、彼らは保留床を安値で独占すべく、あらゆる手段を講じて激安単価を正当化し、そして既成事実化しようとします。
特に業者寄りの不動産鑑定会社が起用されている場合は要注意です!
不動産鑑定士は国家資格であることから、地権者は彼らの鑑定評価を鵜呑みにしがちですが、鑑定士と言うのは誰に雇用されるかで評価方法も変われば鑑定結果も変わることを先ずはご認識ください。
適正な「保留床単価」を決定するには、再開発業者の息のかかった不動産鑑定会社ではなく、中立的な立場の鑑定会社の採用が不可欠です。
(注:業者寄りの鑑定会社も自ら中立公正を装うので、複数の候補に予め用意した質問状に答えさせるなどして、地権者目線で鑑定会社の見極めを行うことが何よりも大切です。)

まとめ

シミュレーションで明らかになったことは、総事業費を不変とした場合、

「保留床単価」が上がれば、
地権者の「還元率」も上昇する

と言う事実です。
この現場の業者が提示した「激安単価」(=450万円/坪)も、もしこれを近隣相場の水準にまで引き上げることができれば、還元率は98%から183~202%へと倍増することが明らかとなりました。
逆の見かたをすれば、

「激安保留床単価」を容認すれば
権利床は半減し、地権者は損をする

と言うことになります。
地権者の皆さまには住友不動産を始めとする一部の再開発事業者が仕掛ける「激安保留床単価」のカラクリに気付いて頂きたいと思います。そして是非ともこのことを地権者の皆さまで情報共有願います。
今回事例として取り上げたこの地区では、地権者は事業リスクをとり、専有面積が3倍に増えるにも関わらず、業者に従えば、地権者は従来の床面積(又はそれ以下の面積)しか貰えないことになります。
果たしてそれでも再開発事業へ参加する意義はあるのでしょうか?
事実を知った同地区の地権者たちは現在そのことを真剣に考えはじめているようです。

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