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(216)誰にでもできる「還元率」の計算式

投稿日:2024年4月15日

「還元率」は条件により大きく変動する!

(下図はトピックス(214)及び(215)の検証結果を参考にしたイメージです)

本トピックスは、
(213)「保留床」激安総取りのしくみ(図解)
(214)激安「保留床単価」で地権者はこれだけ損する!
(215)「事業費高騰」で地権者はこれだけ損する!
からの続きです。

地元再開発の「還元率」を調べてみたい!
でも計算の方法がよくわからない…

そのような声が複数寄せられましたので、本トピックスでは誰にでもできる簡単な計算方法をご紹介します。
(注1)

(注1) 還元率とは、従前の床面積に対し従後にどれだけの面積が得られるかの割合を百分率(%)で表したものです。例えば従前100㎡の床が従後に80㎡の床へ変換された場合、還元率は80%となります。

「還元率」は4つの数字で計算できる!

事業の全体像を知るにはピンク色で表示の9項目(①~⑨)の数字が必要ですが、最低限①、③、⑤、⑥がわかれば「還元率」は計算できます。


これら9項目の数字は、過去に再開発事業者(準備組合)側が地権者へ配布した「説明会資料」などに明記されている場合がありますので、念のためお調べください。数字が「見当たらない」、または「古い」場合には
業者側へ書面にて最新数字を問い合わせ願います。
尚、業者が提示してくる数字には、「概算」や「暫定数字」であることが付記されると思いますが、それで構いません。(注2)

(注2)「還元率」は様々な要因で変動するため、再開発の初期段階で精度の高い還元率を業者側へ要求することには無理があります。しかし、概算でも良いので事前に業者から書面で数字を貰うことが重要です。

稀に「今は出せない」などと言って数字を出し渋る業者がいますが、これは地権者を見下す不誠実な対応ですので提示を強く要求すべきです。
再開発は数百億円規模の事業投融資案件ですから、再開発事業者はどこも初期段階から詳細なる事業計画書を作成しています。作成していない業者などあり得ません。一方、地権者は事業主体であり、事業リスクまで引き受ける立場にあるわけですから、その地権者に対して事業の概算数字すら出さないと言った業者の対応は、あってはならないことです。(残念ながらトピックス214、215で参照した地区はそのような業者でした。)

これが「還元率」を試算する“簡単3ステップ”

「還元率」は、以下の計算式にて算出することが出来ます。

「還元率」を計算する際のポイントは?

ずばり保留床に着目することです!
「還元率」と聞くと、「従前評価」や「権利床」に目が向きがちですが、そうではありません。
「還元率」計算の際に重要なのは保留床です!
特に重要なポイントは、

保留床面積(坪)=保留床処分金÷保留床単価/坪

の計算式にあります。
再開発施設に於いては保留床が増えれば、権利床は減り、逆に保留床が減れば、権利床は増える関係にあるからです。
従い、保留床面積に着目することがとても重要で、それを決める要素が「保留床処分金」及び「保留床単価」だと言う仕組みです。
ここは業者側が地権者へ詳しく説明したがらない部分ですのでしっかりとご記憶下さい!

先ずは保留床処分金(⑤)ですが、こちらは事業費と密接に関連します。再開発では事業費の不足分を保留床処分金として再開発事業者(参加組合員)へ売却する仕組みですから、総事業費(⑦)が増加すれば、[補助金(⑨)または増床負担金(⑧)で増加分が補填されない限り]保留床処分金は増え、保留床面積は拡大し、権利床面積の縮小を通じて「還元率」は低下することとなります。
[詳しくは(215)「事業費高騰」で地権者はこれだけ損する!をご参照]

次に保留床単価(⑥)ですが、トピックス(214)で検証した通り、近隣相場から乖離した「激安保留床単価」のもとでは権利床面積は減り、還元率は大きく低下して行きます。
[詳しくは(214)激安「保留床単価」で地権者はこれだけ損する!をご参照]

「還元率」は使い方もいろいろ

本トピックスで取り上げた「還元率」は地権者全体としての還元率です。
従い、例えば権利変換でタワマンの床との交換となった場合、高層階と低層階とでは価格差がありますから、高層階の還元率は平均値より低く、逆に低層階の還元率は高くなります。この場合、例え全体では「還元率80%」であっても、低層階の住戸を選ぶことでより高い還元率(例えば90%)を得ることが可能となります。
一方、業者が提示する「還元率」の数字は再確認が必要です。彼らの言う「還元率」は、建物内で一番条件の悪い「あてがい部屋」を指すことがあるからです。「還元率100%」だからと安心していたら、それは「1階北向きで日当たりの無い住戸」のことで、しかも「1戸」しかなかったと言うこともあるかも知れませんのでご注意ください。

権利変換では「最低でも等床面積がほしい」と言う地権者も多いので、その場合には逆に低層階での還元率が100%前後となるよう、うまく計算しながら業者との交渉に臨むと言った手法も有効です。
また増床を希望する地権者にとり「還元率」は増床負担金の目安を知る上でも役立ちます。このように、一旦「還元率」がわかれば、様々な場面に応用することが可能となります。

まとめ

「還元率」は最低限4項目の基礎的数字があれば計算できますので、
先ずは、

皆さまの地区の「還元率」を試算してみてください

そして満足の行く「還元率」が得られなければ、

業者側と交渉されてみては如何でしょうか?

地権者は「事業主体」であり「事業リスク」まで引き受ける存在ですから、交渉を躊躇する理由などありません。

還元率は、事業リスクをとる地権者が、果たして再開発に応じる価値があるかを判断するための重要な指標の一つです。
還元率と言う数値があってこそ、再開発事業者側との具体的な交渉が可能となります。
また還元率は、地権者が自らも計算してみることが強く望まれます。
「還元率」の計算を利益相反相手の再開発事業者に一任し、業者が出した数字を鵜呑みにするなど論外です。任せきりにすれば「激安保留床単価」「事業費高騰」などのしわ寄せが地権者に及び、還元率の低下を招く懸念があるからです。

本トピックスで紹介したのは、初歩的な「還元率」の計算方法に過ぎませんが、「還元率」への考え方や利用方法なども含め、少しでも各地域の地権者の皆さまの参考として頂ければ幸いです。

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