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(235)不動産・建設業界は今や火の車!?

投稿日:2024年10月7日

昨今の「建設資材の高騰」「職人不足」は改善するどころか、益々悪化の一途をたどりつつあるようで、再開発事業を含む国内の建設事業全体へ大きな影響が出てきています。
本年1月のトピックス(208)事業費高騰で地権者はどうなる?では、2025年に開催予定の大阪・関西万博会場建設費が5年間で1,250億円から最大2,350億円へと1.9倍も増加したことを皆さまへお伝えしました。その後も世間で知名度の高いプロジェクトが次々と中止や延期に追い込まれる状況となってきています。

Contents
1.中野サンプラザ跡地の再開発も当面中断か?
2.「麻布台ヒルズ」のタワマン建設でも問題が!
3.住友不動産も三井住友建設とトラブル!
4.五反田「TOCビル」の建設工事中断は社会に衝撃!
5.まとめ

中野サンプラザ跡地の再開発も当面中断か?


全国的にも知名度の高いJR中野駅前の中野サンプラザ(正式名称:全国勤労青少年会館)。同建物は2023年7月で営業を終え、隣接する旧中野区役所の跡地も含め、2024年度中に再開発のための解体工事が実行される予定でした。
(総事業費:2,639億円、地上60階の複合施設、デベロッパー:野村不動産、他)
しかし中野サンプラザ自体がまだ解体前だと言うのに、既に事業費が900億円(34%)も増加した実態を9月25日に朝日新聞がスクープ、翌日の朝刊で大きく報道しました。この再開発では中野区から約430億円の補助金支出が見込まれていますが、その補助金を2倍以上も上回る事業費の増加です。当然のことながら中野区は態度を硬化させており、根本的な設計見直しを行う可能性が高く、工事は当面凍結される見込みです。
因みに、JR中野駅周辺一帯では今回のサンプラザ跡地の再開発事業以外にも、実に9件もの再開発事業が同時進行中であることから、同様の問題は他地区でも早晩発生し、地域一帯で事業の中断や延期が生じるのではと心配されています。
再開発事業(第一種市街地再開発事業)では、地権者が「事業リスク」を引き受けることが前提ですので、このような状況下で再開発が強行されれば「地権者」が最終的に損失を被る懸念が増大します。地権者の皆さまはお気を付けください!

「麻布台ヒルズ」のタワマン建設でも問題が!


「麻布台ヒルズ」と言えば、森ビルが手掛ける国内屈指の大型再開発プロジェクトです。ここでは現在、「高さ日本一」(262メートル)を誇るタワマン建設プロジェクトが進行中です。しかし、ここでも工事を受注した三井住友建設が採算悪化を理由に工事を中断し竣工が2年半も遅延している状況にあります。
同社は麻布台ヒルズで生じた赤字額を明らかにしていないものの、日経クロステック誌は、過去の決算数字等からその額は534億円にも上ると推計しています。
534億円と言う額は「地権者」にとり決して小さな額ではありません。
当HPでは森ビルが三井住友建設と締結した「工事請負契約書」の詳細までは把握していないため、あくまでも再開発事業における一般論ですが、もし工事業者側に瑕疵又は損失負担能力が無く、事業者側に最終損失が生じたとなれば、その損失を補填するのは事業者(即ち地権者)となりますので、地権者の皆さまはお気を付けください!

住友不動産も三井住友建設とトラブル!

その三井住友建設ですが、実は東京都世田谷区内のマンション建設でも着工をめぐり施主の住友不動産との間でトラブルを起こし、住友不動産が工事業者を他社へ切り替えると言った事態を引き起こしています。よほどの軋轢が生じたのか、住友不動産はその後三井住友建設との資本関係を解消しています。(長年にわたり住友不動産は三井住友建設の株式3.41%を保有する主要株主でしたが、2024.03期には全株式を手放したようです。)
三井住友建設は住友グループのメンバー企業です。今やグループ企業同士でも争い合うほど不動産・建設業界は逼迫状態にあると言っても過言ではありません。
その様な状況下で再開発が強行されれば、事業リスクを負担する「地権者」は大きな損失を被りかねませんのでご注意ください。

五反田「TOCビル」の建設工事中断は社会に衝撃!


東京・五反田にある「TOCビル」は「ユニクロ」、「ABCマート」、「ダイソー」と言った店舗が入居する、地域でも有数の大型商業施設ですが、老朽化に伴う建替え工事のため、今年3月までに入居中のテナント200店舗すべてが退去し閉館しました。
しかし、閉館したその翌月に運営会社側は「建築費高騰」などを理由に

建て替え計画を突如中断!

着工時期を2033年まで9年間延期すると発表したのです。
入居200店舗をすべて退去させた後に「建替え工事中断」を発表するのは極めて異例の事態です! テナントへの補償料を含め、建て替えに伴い発生した莫大な額の費用はいったい誰がどのように負担するのでしょうか?
「TOCビル」の建替えは再開発事業ではありませんが、今の不動産・建設業界がいかに厳しい状況にあるかを知る上でぜひ参考にして頂きたいと思います。
仮にこのプロジェクトが再開発であったならば、工事中断に伴う事業者側の損失は最終的には地権者が負担することになりますので、地権者の皆さまはお気を付けください!

まとめ

今や不動産・建設業界は「建設資材の高騰」に「職人不足」なども加わり、

業界内部は火の車

だと言っても過言ではありません。
最近では「工事の辞退」だけでなく、「見積提出にも応じない」業者が増えてきているようです。また工事が決まったとしても「中野サンプラザ」や「麻布台ヒルズ」のように事業費高騰で工事に着手できない現場も増えつつあり、更には「五反田TOCビル」のように、解体工事直前にプロジェクトが突如中断(実質中止)となる事例まで出始めています。
地権者はこれらの事例を決して「対岸の火事」として捉えるべきではありません。
「延期」や「中断」等で損失が出た場合、最終的にそれを負担するのは事業者(=地権者)だからです。(注1)

(注1) 都市再開発法第39条は、「組合はその事業に要する経費に充てるため賦課金として組合員に対して金銭を賦課徴収することができる」と定めています。
つまり事業損失が生じた場合、再開発組合員(=地権者)が損失を補てんすることが法律で定められているのです。デベロッパーが補填してくれるのではありません!
(多くの地権者がこの点を誤解している可能性があります)

業界が火の車であるにも関わらず、これを無視して再開発を強行すれば、地権者は文字通り火だるまとなり大やけどを負うことになりかねません。
実際に岡山県津山市の市街地再開発事業では巨額の事業損失が発生し、組合員(=地権者)全員が権利変換で受け取った権利床を賦課金として供出させられ、多くの地権者が自己破産を余儀なくされました。まさに地権者が数百億円規模の事業リスクを負う再開発事業の怖さが露呈した事例だと言えます。(注2)

(注2)津山市の再開発事業破たん事例については、下記トピックスで詳しく報じていますのでご覧ください。
(55)地権者必見!再開発の破たん事例
(56)地権者必見!再開発の破たん事例(その2)

再開発は順調に進めば莫大な開発利益が期待できる事業です。
地権者が名実ともに事業主体となり再開発業者と対等な立場で慎重に事業を進めることが出来るのであれば、「開発利益の享受」は勿論のこと、心身ともに「より快適な暮らし」の実現も可能な「夢のあるプロジェクト」だとも言えます。
一方で、地権者側は「事業リスク」を背負う立場にありますので、事業損失が生じれば財産のすべてを失うことも覚悟しなければなりません。従い、事業損失を回避するには、自らが再開発の基礎知識を身に付けるのはもちろんのこと、事前に中立的な立場の専門家も交えFS(=実現可能性調査)を行うと共に、適切なリスクヘッジ策を検討しておくことが不可欠です。間違っても(地権者とは利益相反関係にある)再開発業者側に言われるまま事業遂行の判断を行ってはなりません!

以上、本トピックスで取り上げた様々な状況を総合的に勘案すれば、やはり

今は再開発を進める時期ではない

と言えるのではないでしょうか?
後日「こんな筈ではなかった!」と後悔しないためにも、地権者側が客観的事実に基づき合理的な判断を行うことはとても重要です。

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