泉岳寺では先日、地権者を含む地域住民442名が連名でコロナ禍による社会経済の混乱と急変を理由に「再開発事業に対する見方や考え方を変えるべきだ」として、港区長に対し「現行再開発手続き中断」の要望書を提出しました。[詳細については(48)再開発中断の申し入れ 及び(49)再開発中断の申し入れ(その2)をご参照下さい]
本トピックスでは、その要望書に対する行政の対応について取り上げます。
役所の「事なかれ主義」が露呈か?
要望書に対する区の回答は2020年8月31日付にて届きました。
因みに、回答書は「港区長」からではなく、再開発担当課の「課長」名にて発行されたものですが、私たちはその内容を読み唖然としました。
(本トピックスに添付の「港区の回答書」をご覧下さい)
区民442名が署名まで添え、敢えて港区長へ要望した事案にもかかわらず、
その中身たるや、
1)要望書の内容は意見として承る
2)様々な意見があれば地権者間で話し合うことが望ましい
3)区としては都市計画決定への手続きを適正に進めて行く
と言った「通り一遍の原則論」しか明記されていなかったのです!
区民の苦しみを顧みることなく、まるで他人事であるかのような回答です。
見事なまでの「事なかれ主義」としか言いようがありません。
「区民の問題は区民間で解決しろ。区役所へ問題を持ち込まないでほしい」と言わんばかりの内容です。その一方で、「再開発は適正に進めますよ」と自分たちの立場だけはしっかり主張しているのですから困ったものです。
いったい誰のための行政なのかと真剣に考えてしまいます。
とりわけ今回、区が発した「要望の内容は意見として承る」のひと言は、それだけで多くの区民の心を傷つけた上、反感まで買ってしまいました。
続きはまだあります。後日、担当課へ事情聴取を行ったところ、回答書の発行に際して同課は、調査も行わず、準備組合と連絡すら取っていなかった事実も判明。更には「区長もご存じないかもしれない」なる返答まで出て来る始末。
これには、「区は不作為を超え、もはや業務放棄だ」との意見も出て来たほどです。
担当課のスタンドプレー?
今回の回答書は「区長名」ではなく、「課長名」で発行されています。
発行元が「区長」であろうと「課長」であろうと、区としての公式見解であることに変わりはありません。
また「区長」へ提出された要望書の返答が「課長」から来たとしても、これは組織では良くあるケースであり、そこに「権限委譲」がきちんとなされているのであれば何ら問題はない筈です。
しかし、もし「区長と相談」もせず、「区長のご存じないところで担当課の裁量で書簡が発行」されていたとしたら状況は変わってきます。
実際にどうであったかは知る由もありませんが、私たちは今回、腑に落ちない点がいくつかあることに気づきました。以下に列挙します。
1.先ず、課長からの返信であれば、「区長に代わりお答えします」の文言があってしかるべきですが、このひと言が回答書には見当たりません。
内容が地域住民にとりあまりにも無礼なものだけに、区長の意向を確認しないまま書簡が一担当部局の裁量で発行された可能性をどうしても私たちは排除出来ません。
2.特に「コロナ禍が再開発事業へ与える影響」については、区長ご自身も2020年6月16日付日経新聞の紙面などで懸念を示されています。
このことから、区長が「要望内容はご意見として承る」などと在り来りのご発言をされるとは考えられず、やはり何か不自然だと思わざるを得ません。
3.後日、担当課へ「区長は回答内容をご存じなのか?」と問いただしたところ、「区長はご存じないと思う、しかし今回の回答は区としての公式見解である」なる返答が返って来た点も気になります。
4.そもそも地域住民は「コロナ禍」を理由に要請書を提出したと言うのに、回答書にはその点に関しての言及がひと言もないのです!
「区長との相談」以前の問題として、担当部署が要望書の中身もよく読まず、地域住民の気持ちすら察しようともしないまま、従来からの「通り一遍」の回答を出してしまった可能性も無いとは言えません。
何れにしても、今回、あまりにも誠意のない杓子定規な回答を行ったことで区は多くの地域住民の反発を招く結果となりました。
中には、業者との癒着関係を疑う住民まで出てきています。もちろん個人的意見に過ぎず、その様な証拠が見つかった訳ではありません。
しかし、昔からよく言われる通り、火のないところに煙は立ちません。
今回、回答書を発行した区の再開発担当部局の仕事は基本的に「再開発を推進」することにあり、その点は私たち区民も承知しています。
しかしだからといって、再開発の進行にハードルとなる意見には耳を傾けようとせず、「ご意見として承る」なるひと言で問題を片付けようとする「事なかれ主義」的な姿勢には賛同出来ません。
事なかれ主義とは、議論や争い、喧嘩ごとを嫌い、物事に対して波風が立たないように対応し、何よりも平穏であることを優先しようとする姿勢を言います。もしかしたら区は過去からこのような姿勢で区民へ接してきたのかも知れませんが、少なくとも泉岳寺に関する限りこのような対応は通用しません。
区には是非とも私たち区民の気持ちをよく理解して頂き、区民に寄り添う形で血の通った暖かい区政を、公平性且つ透明性を持って実現して頂きたいものです。そして区民の問いかけに対しては、現状を良く調べた上で、区民が納得できるよう、客観性、具体性、そして透明性を持った形で回答願いたいものです。それが行政のあるべき姿だと私たちは考えています。
区は「意見として承る」や「住民同士で話し合ってほしい」と言った発言を私たち区民に対して軽々しく行うべきではありません。
さて皆さまがお住まいの区市町村における行政の対応は如何でしょうか?
私たちは、地域の皆さまが日頃から行政の担当部局と密に連絡を取り合い、「良好な関係」を構築しておくことが何よりも大切であると力説しています。
しかし、行政と住民とはあくまでも対等であることが大前提ですので、もし行政の対応に納得が行かなければ率直に問題点を投げかけるべきです。
決して「行政とはこんなものだ」などと考えて妥協すべきではありません。
後日「こんな筈ではなかった」と後悔しないためにも。