トピックス(69)同意者の水増しに注意 からの続きです。
前のトピックスでは事業者による意図的な「同意者数の水増し」への注意喚起を行いました。地権者が「同意をしていない」のに、いつのまにか「同意した」と見做され、再開発が不当に進められてしまうなどあってはならないことです。
今回は、実際に各地で起きた「水増し事例」を各地の地権者団体や専門家からの情報提供をもとに、皆さまへお知らせします。
●立石では事業者側の社員が「同意者数」をねつ造!
「水増し」の原因がなんと「ねつ造」だったという極めて悪質な事例です。
昨年、「立石駅南口東再開発」において起こされた裁判を通じて明らかになったもので、準備組合を実質的に牛耳るA社が都市計画への地権者同意をねつ造していたと言う事件です。(準備組合に常駐する同社の社員がねつ造に加担した事実を認め、A社は工事受注からの撤退を表明)
詳しくはトピックス(59)理事が準備組合を訴えた!(その2)をご覧ください。
●日本橋高島屋の再開発では「借地権者の水増し」が発覚!
この件は組合設立の際に、法的要件である「所有権者及び借地権者のそれぞれ2/3の同意」の達成が後者において困難となり、困り果てた再開発業者が闇討ち的に借地権を水増しして組合を設立してしまったと言う事例です。
当地では借地権者20名の同意率は50%でした。そこで事業者側は申告最終日に僅か80平米の土地に借地権を新たに30件も設定し、同意率を人為的に50%から80%へと高めて「組合設立」を強行したのです。
あきらかに地権者を欺く行為ですが、許認可権者である東京都は手続き面では「違法性があるとは言えない」として組合設立を認可してしまいました。
(この件は週刊「東洋経済」が2019.6.29号で大々的に報道しています)
●最近では虎ノ門一丁目東再開発でも「地権者水増し」が!
これは港区内で最近発生した事例です。いったい何が起きたのか?
ここでは都市計画決定における「8割同意」を達成するために、事業者側が所有する土地を10平米単位などと切り刻んで分筆し「地権者数を水増し」したことが発覚、区議会でも問題視されました。手続き上「違法性が無い」としても、これは、正しい権利関係の表示を通じて安全で円滑な取引を保証しようとする「不動産取引法」の理念から逸脱しており、また「地権者主体の再開発」の趣旨をも踏みにじる行為であることから「著しく不健全な手法」であると言わざるを得ません。現地では地権者の会が編成され対策を検討中です。
この一件で思い浮かぶのは、先日、東京五輪・パラリンピック組織委員会が女性理事を12人増やして女性比率を21%から42%へと引き上げた事案です。しかしこれは既存33名の理事枠内で男女が入れ替わったのではなく、理事枠を女性12名分増員し45名としたことで42%を達成したのです。
まさにこれは土地を切り刻み「地権者数を水増し」することで「8割同意」を達成しようとした「虎ノ門一丁目」の再開発業者や日本橋高島屋の「借地権者水増し」を強行した業者と似た手法だと言えないでしょうか?
●マンション管理組合の行う「水増し操作」にも要注意!
マンション理事長を準備組合の理事へ迎え入れたりして、管理組合そのものを支配下に収めて行くのは再開発業者の使う常套手段で、そのようにして館内の区分所有者を徐々に再開発賛成の方向へと誘導して行くのだそうです。
しかし、たとえ管理組合が再開発へ傾倒したとしても、法人である以上は区分所有法の規定に拘束される為、安易に再開発への賛同表明は出来ません。
そこで例えば「再開発を前提とした維持管理計画や予算を策定する」と言った玉虫色の議案を総会で可決させることで、再開発賛成の既成事実化を企てたりするのだそうです。これも新手の「水増し」の手口だと言えます。
マンションの管理組合には確かに業務の一環として「長期修繕計画」を策定し、その後適宜見直して行く役割があります。一方で再開発は住民の区分所有権を失わせるものですから、修繕や維持管理とは本来関係がありません。
そこで再開発事業者はマンション管理組合を使い、恣意的に「再開発を前提とした」なる前置きの入った議案を可決させることで、あたかもマンション住民が再開発へ同意したかのごとく行政へ演出を行う懸念
があるのだそうです。
最近も大崎駅西口再開発において、同様の手口でマンション理事長が主体となり、あたかもマンション全体が賛成しているかのような「演出」が行われて問題となり、その事件を契機に住民が立ち上がり、本年1月には現地で「地権者の会」が発足しています。
再開発に同意しない住民であっても、巧みに仕組まれた議案に「賛成」することで「再開発に同意した」と見做されかねないのですから、もし現実にそのような報告が行政に対して行われたならば、それは明らかな虚偽の「水増し」であり、決して許される行為ではありません。
もし「水増し」懸念を察知したら?
同意者数の水増しは「地権者主体の再開発」を否定する悪質な行為です。
もし察知した場合には事実関係を取りまとめた上、行政監督官庁である区市町村へ必ず書面にて通告ください。(証拠書類があれば必ず添付のこと)
水増しが演出される前に管轄の自治体へその懸念を伝えることが重要です。
監督官庁である自治体が書面を受理することで、その事実と内容が自治体による情報公開の対象となり、後日一般市民にも閲覧が可能となる他、自治体側も水増しの懸念を「知らなかった」では済まされなくなります。
(尚、通告者の個人情報は保護されますのでご安心を!)
「水増し問題」は市民を含む社会全体で監視し防止して行くことが肝要です。
まとめ
ご覧頂いた水増し事例に共通しているのは、再開発事業者側による、
「同意者が足りなければ権利者数を水増しすれば良い。この手法なら地権者にも気づかれずに再開発を進めることが出来る」と言った考え方です。
同意者数の不当な水増しは「地権者主体の再開発」を根本から否定する悪質な行為です。
泉岳寺はもちろんのこと、全国どこの地域であれ、不当な「地権者の水増し」は決して許されるべき行為ではありません。
私たちは各地で横行する「水増し」の現実を深刻に受け止め、普段から公平・公正、そして透明性ある再開発手続が進められるよう、再開発事業者をはじめ関係各先の行動を注視して行く努力が何よりも大切なのではないでしょうか? 「備えあれば憂いなし」です。